小室一成

日本の医師、医学者

小室一成(こむろ いっせい、1957年 - )は、日本の医師医学者。東京大学名誉教授[1]天皇(現上皇)の主治医を務めており[2][3]、自他共に認める東大医学部のプリンスと報道されている[4]。医学生時代には中釜斉や森田明夫などと行動を共にした[5][6]

略歴

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1982年3月東京大学医学部医学科卒業
1984年6月東京大学医学部附属病院第三内科医員
1989年9月医学博士取得[7]
1989年9月ハーバード大学医学部博士研究員
1993年11月東京大学医学部第三内科助手
1998年5月東京大学医学部循環器内科講師
2001年4月千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学教授
2009年10月大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学教授
2012年8月東京大学大学院医学系研究科循環器内科学教授[8]
2023年4月国際医療福祉大学副学長

専門分野

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内科学循環器病学心不全、心臓血管の発生・再生・老化[8]

活動学会

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日本循環器学会(代表理事)、日本心臓病学会(理事)、日本心不全学会(理事)、日本血管生物医学会(理事)、日本脈管学会(理事)、日本心血管内分泌代謝学会(理事)、日本循環制御医学会(理事)、国際心臓研究学会(理事)[8]、日本腫瘍循環器学会(初代理事長)

立法への関与

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循環器学会代表理事として脳卒中・循環器病対策基本法の成立に向けた活動を行い[9]、法案は2018年12月10日に国会で可決された[10]

死亡診断書や原著論文についての報道

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東京大学医学系の循環器内科教授に就任した2012年頃から、死亡診断書や原著論文についての調査を何度も受けていることが報道されている。これらについては総理大臣厚生労働省東大総長も対応を行い[11][12][13][14][15]国会審議もなされている[16]。ただし、2024年7月29日現在、東京大学や国際医療福祉大学から不正行為の認定が発表されたことは一度もない。

ディオバンの臨床研究論文

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高血圧治療の降圧剤「ディオバン」の臨床研究データが改竄された事件(ディオバン事件)において、不正研究グループVARTの責任者であった。由井芳樹による2012年4月14日付のLancet誌での指摘[17]を契機として千葉大学や厚生労働省や日本高血圧学会から調査をされた[18][19][20]。2014年7月に千葉大学は、小室らが虚偽の説明をして調査を混乱させたとする最終報告書を公表した。千葉大学は、論文の責任著者であった小室に処分をするよう現所属の東京大学に勧告し[21][22]、千葉大学に在籍し続けていた論文の共著者には戒告処分を行った[23][24]。これを受けて東京大学でもディオバン事件について調査が行われ、東大総長が「覚悟しておくように」と小室に伝えたとも報じられたが[15]、東京大学は研究不正行為はなかったとする報告書を2015年3月31日に発表した[25][26]。日本高血圧学会は、2015年3月27日に、現時点では厳重注意処分とするという見解を発表した[27]。その後、小室はディオバンの臨床試験についてのメイン論文を「現存するデータでは適切に訂正することができないhonest errorがあるため、取り下げる」として撤回することに同意したと日本高血圧学会から2016年8月14日に発表された[28][29]。2016年10月12日に、参議院議員の櫻井充は、質問主意書において「東京大学では十分な調査が行われていない。ディオバン事件に関係した他大学が行ったように、東京大学は学内メンバーに加えて第三者を含むコンプライアンス委員会を設置して真相解明を図るとともに、責任者の適切な処分を行うべきと考える」と記載した[30]

11jigenによる基礎研究についての告発

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2012年の後半ごろから、『セル』や『ネイチャー』の著名な学術雑誌に掲載された基礎研究の論文について、データの修正公告がいくつかなされていた[31][32]。ディオバン事件に関する報道が盛んになり始めていた2013年3月ごろから、2ちゃんねるの生物板で、責任著者を務める基礎研究論文についての不自然な酷似画像の指摘が15報ほどなされ、11jigenはそれを修正公告が出ている論文についての疑義と共にまとめたウェブサイトを作成し、東京大学千葉大学文部科学省に2013年5月に告発した[33][34][35]。この告発についての調査結果については一切明らかになっていないが、いくつかの論文については告発後に修正公告が出されている[36][37][38][39][40][41]。修正公告の中には大量訂正の事案もある[36]

Ordinary_researchersによる基礎研究についての告発

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2016年8月29日付で、匿名のOrdinary_researchersから、基礎研究論文についての告発がなされた[42][43]。2017年8月1日に、東京大学は、調査の結果、不正行為を認定しなかったことを発表した[44][45][46][47]。東大の調査報告書の全文は、大部分が黒塗りの状態で公開された[48]。日経新聞は、調査報告は評判が悪く、東大は有力者に忖度して不正調査を行ったのではないかと主張する記事を配信した[49][50]

男性調理師の死亡診断書

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2018年4月に保険適用[51]が始まったマイトラクリップを使う手術を、医薬品医療機器総合機構の基準では手術が禁じられている41歳の男性調理師[52]に対して2018年9月21日に行った。心房中隔穿刺が出来なかったため手術は中断した。そして、間違った場所を焼灼したことによって生じたと考えられる肺の気胸を翌日の血痰時まで見逃した[53][54]。手術から4日後の未明には深刻な不整脈が発生し、その翌日午前には心肺停止状態となった。

母親には医療ミスで病状が悪化した可能性は伝えられず、延命治療の選択肢も示されなかった。一度回復基調になったものの、手術から16日後に男性調理師は敗血症性ショックで死亡した[53]。死亡当日に作成された死亡診断書の死因欄には「病死及び自然死」と記載され、手術の有無については「無」と記載された[55]。男性調理師は解剖されずに火葬された。

2018年10月19日の症例検討会では、心房中隔穿刺を行った時間帯の画像が提示されず、麻酔科の点滴ミスのせいで肺に穴が開いたと循環器内科は主張し、会議は紛糾した。その後の東京大学医学部附属病院の幹部会議[56]で、医療法で定められている医療事故調査委員会への報告を行わない方針となった。

内部告発が東京都福祉保健局と大手マスコミ[57]に対してなされ、ワセダクロニクル(現Tansa)によって2018年11月26日に、この件の調査報道が始まった[58]。他のメディアも追随して報道を行い、虚偽診断書等作成罪業務上過失致死傷罪の可能性などが指摘された[59][60][61][62][63]東京都庁は2018年12月に立入調査を行い、検証が終わるまでマイトラクリップ手術を中止するよう指導した。

2018年12月5日に、尾辻かな子衆議院議員が質問主意書を内閣に提出した[64]。2018年12月6日に足立信也参議院議員が参議院の厚生労働委員会において東京大学病院特定機能病院指定取消の可能性に言及した[16]公明党の加納重雄横浜市議会議員は、この事件を受けて、小室が成立に寄与した脳卒中・循環器病対策基本法に関して、公式サイトで懸念を表明した[65]

手術に踏み切ったことについては理解を示す声もあった[53]。また、手術の合併症としては、通常起こり得るものであったため、医療事故調査委員会への報告は不要との意見もあった[53]。一方、患者への説明責任を放棄しミスを隠蔽したことは、医療事故対応を処罰感情に基づく責任追及型から、世界標準の再発防止型へパラダイムシフトさせるために、関係者が何年もエネルギーを注いで行ってきた努力を無にするものであるとする意見があった[53]

2020年3月23日に、東大病院は、医療事故調査制度に則り日本医療安全調査機構に医療事故調査委員会報告書を提出したことを公開した[66]。調査は外部の専門家を加えて行われたとしている。

脚注

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  1. ^ 令和5年度名誉教授の称号授与”. 東京大学. 2023年7月9日閲覧。
  2. ^ 薬事法違反で逮捕者も出たノバ不正の「イバラの道」 月刊集中 2014年7月4日 2019年1月4日閲覧
  3. ^ 天皇の主治医 東大教授が「疑惑の人気降圧剤バルサルタン」を大宣伝した Friday 講談社 2013年5月31日号 2017年9月9日閲覧
  4. ^ 「ペテン師」だらけの東大医学部 止まらない論文捏造の「連鎖」 雑誌選択 2013年8月号 2017年9月8日閲覧
  5. ^ 小室一成先生|森田明夫のやってきたこと 1982~2023”. plaza.umin.ac.jp. 2024年4月4日閲覧。
  6. ^ 中釜 斉先生|森田明夫のやってきたこと 1982~2023”. plaza.umin.ac.jp. 2024年4月4日閲覧。
  7. ^ 学位論文要旨詳細”. gakui.dl.itc.u-tokyo.ac.jp. 2019年2月2日閲覧。
  8. ^ a b c 演者略歴一覧」『日本内科学会雑誌』第106巻臨時増刊号、日本内科学会、2017年、138a-149a、2020年4月20日閲覧 
  9. ^ 脳卒中・循環器病対策基本法の今国会での成立を求める患者・家族・医療関係者の会 2017.4.19 参議院議員会館 2017年9月9日閲覧
  10. ^ 循環器病対策基本法成立 国などは心臓病や脳卒中の予防対策へ 2018年12月10日 13時20分 NHK 2018年12月11日閲覧
  11. ^ 東京大学の研究不正の調査のあり方に関する質問に対する答弁書:答弁本文:参議院”. www.sangiin.go.jp. 2019年2月9日閲覧。
  12. ^ 第197回国会 120 衆議院議員尾辻かな子君提出東京大学医学部附属病院における不適合患者の死亡事件といわゆる医療事故調の対処に関する質問に対する答弁書 衆議院 安倍晋三内閣総理大臣 2018年12月18日 2019年1月1日閲覧
  13. ^ 「籠城」続ける東大医学部教授に官邸が「徹底的処分」を示唆 2014年11月13日 月刊集中 2017年9月8日閲覧
  14. ^ 露呈の連鎖止まらぬ「研究不正」ががん医療分野へも波及 2014年1月1日 月刊集中 2017年9月8日閲覧
  15. ^ a b ついに刑事告発に至った論文捏造事件の「転機」 月刊集中 2013年12月1日 2017年9月8日閲覧 http://www.fujisan.co.jp/product/1281690243/b/960232/ http://www.fujisan.co.jp/library/viewer/960233/sample
  16. ^ a b 参議院 厚生労働委員会 議事録 参議院 厚生労働委員会 2018年12月6日 2019年1月1日閲覧
  17. ^ The Lancet, Volume 379, Issue 9824, Page e48: (Concerns about the Jikei Heart Study)(由井芳樹)ランセット (The Lancet) 誌 2012年4月14日
  18. ^ 河内敏康、八田浩輔「偽りの薬 バルサルタン臨床試験疑惑を追う」毎日新聞科学環境部、2014年 ISBN 978-4620322827
  19. ^ 日本医事新報 No.4808 2016年6月18日号 ディオバン事件―問題点と教訓を考える 2016年12月6日閲覧
  20. ^ 赤い罠 ディオバン臨床研究不正事件 桑島巌 2016/9/16 日本医事新報社 ISBN 978-4784944477
  21. ^ 千葉大学VART最終報告 東大・小室教授ら「虚偽説明で調査混乱、長期化」 処分求める ミクスonline 2014/07/16 2017年9月8日閲覧
  22. ^ [「東大教授ら虚偽の説明、処分を」千葉大調査委] 読売新聞 2014年7月15日 2017年9月9日閲覧
  23. ^ 千葉大、教授を戒告処分、ディオバン問題で 「研究不正」でなく「信用失墜」が理由 m3.com 2014年10月21日 2017年9月8日閲覧
  24. ^ 千葉大、論文著者を処分 ノバルティス問題巡り 日経新聞 2014/10/20付 2017年9月9日閲覧
  25. ^ 臨床研究「Valsartan Amlodipine Randomized Trial」に関する調査結果概要 東京大学 平成27年3月31日 2017年9月8日閲覧
  26. ^ 「小室氏処分の権限なし」、東大と千葉大 東大が「研究不正なし」の報告書、言い分食い違いも m3.com 2015年4月2日 2017年9月8日閲覧
  27. ^ 東大・小室教授を厳重注意、高血圧学会 「現時点では」と断り、ディオバン裁判見守る構え m3.com 2015年3月31日 2017年9月8日閲覧
  28. ^ 日本高血圧学会、VART主論文を撤回 東大小室教授「honest error」として取り下げを申し出 m3.com 2016年8月15日 2017年9月8日閲覧
  29. ^ 東大教授の論文取り消し…高血圧治療薬の研究で不正 2016年8月16日 読売新聞 2017年9月8日閲覧
  30. ^ 東京大学の研究不正の調査のあり方に関する質問主意書 参議院 2016年10月12日 2016年12月7日閲覧
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  33. ^ Suspicions Raised About Another Japanese Cardiovascular Researcher Forbes 2013年5月10日 2016年12月7日閲覧
  34. ^ 〈クスリの闇第4弾!〉「疑惑の降圧剤バルサルタン」&「保険診療費」に群がった学者を直撃 FRIDAY 講談社 2013年6月14日号 2016年12月6日閲覧
  35. ^ 《日本のサンクチュアリ》「科学研究費」の闇 不正にまみれた「学者ムラ」 雑誌選択 2013年7月号 2017年9月8日閲覧
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  40. ^ 「当事者性」を欠いたまま、未体験ゾーンに突入する東大医学部 月刊集中 2014年10月7日 2017年9月8日閲覧
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  42. ^ [4] Ordinary_researchers 2016年8月29日 2016年12月7日閲覧
  43. ^ 東大、論文不正疑惑の第二弾受け予備調査 m3.com 2016年9月5日 2016年12月7日閲覧
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  46. ^ 東大・分生研教授ら、5報の論文で不正行為 調査結果を公表、医学系研究科5教授は不正なし m3.com 2017年8月2日 2017年8月17日閲覧
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  49. ^ 有力者に忖度する東大論文不正調査 公正な研究の壁に 日本経済新聞電子版 永田好生 2017年8月28日 2017年8月29日閲覧
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  52. ^ 「退院したらご飯に行こう」── 検証東大病院 封印した死(10)”. ワセダクロニクル(Tansa). 2019年3月7日閲覧。
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  54. ^ 「肺からの空気漏れ」見逃し、体調急変 ーー検証 東大病院 封印した死(3)”. ワセダクロニクル(Tansa) (2018年12月13日). 2019年5月27日閲覧。
  55. ^ 母親に伝わらなかった「著しいリスク」ーー 検証東大病院 封印した死(9)”. ワセダクロニクル(Tansa). 2019年2月14日閲覧。
  56. ^ 大丈夫? 東大 事故調報告嫌がった院長、医学系研究科長昇任へ─検証 東大病院 封印した死(5) ワセダクロニクル(Tansa) 2019年1月10日 2019年1月12日閲覧
  57. ^ ワセクロがこの2年で動かした5つの事態 ワセダクロニクル(Tansa) 2019年2月1日 2019年2月3日閲覧
  58. ^ 【速報】東大病院で心臓治療の患者が術後16日で死亡、院内からもミス指摘の声 / 医療事故調に届け出ず、「病死・自然死」で処理 ワセダクロニクル(Tansa) 2018年11月26日 2018年12月9日閲覧
  59. ^ 東大病院で「手術死亡事故」隠蔽事件 そして患者は「実験材料」にされた 雑誌選択 2018年12月1日 2019年1月5日閲覧
  60. ^ 東大病院「心臓手術死亡事故」現役医師たちが覚悟の内部告発 週刊ポスト 2019年1月21日 2019年1月23日閲覧
  61. ^ 東大病院で死亡事故 カテーテル使用の心臓病最先端治療”. 毎日新聞. 2019年1月24日閲覧。
  62. ^ 医学部附属病院で最先端治療と患者の死に関する調査”. 東大新聞オンライン (2019年2月4日). 2019年2月8日閲覧。
  63. ^ 東大病院のマイトラクリップによる死亡事故で考えられること|天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」”. 日刊ゲンダイヘルスケア. 2019年2月8日閲覧。
  64. ^ 第197回国会 120 東京大学医学部附属病院における不適合患者の死亡事件といわゆる医療事故調の対処に関する質問主意書 衆議院 尾辻かな子 2018年12月5日 2018年12月9日閲覧
  65. ^ かのう重雄『脳卒中・循環器病対策基本法成立の歴史とその危うさ その3』”. 不可能をかのうにする かのう重雄 オフィシャルブログ「一つ、ひとつを重ねて」 Powered by Ameba. 2019年2月18日閲覧。
  66. ^ 病院からのお知らせ|東京大学医学部附属病院”. www.h.u-tokyo.ac.jp. 2020年12月4日閲覧。

関連事項

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