大和本草
概要
編集全16巻に附録2巻を付けた本編18巻と諸品図で構成される[3]。補遺の附録は『大和本草附録』、諸品図は『大和本草諸品図』と称されることもある[2]。宝永5年(1708年)に成立し、同6年(1709年)に刊行されたが、附録と諸品図は正徳5年(1715年)に刊行された[1][4]。
収載された品目は動物、植物、鉱物など1,362種である[2]。品目ごとに中国名と日本名を対照させ、日本固有種には和名を用い、名称、来歴、形状、性質、産地、効能などを和文で記載している[2][3]。
『大和本草』は明の李時珍が著した『本草綱目』に対する批判的研究と益軒自身による調査研究を基本としている[3]。『本草綱目』は他の歴代本草と異なり、その基底に博物学的思考があり、構成と内容の清新さが受け入れられ日本でも権威をもつに至っていた[5]。平賀源内『
評価
編集本来の本草学とは薬用植物を扱う学問であるが、この大和本草に於いて日本の本草学は博物学に拡大された[6]。「大和本草」には漢名のない品目も多数収載されている[6]。
小野蘭山の著書に『大和本草』の講義録にあたる『大和本草批正』や『大和本草会識』がある[2]。蘭山は『大和本草批正』で問題点を批判しており、例えば「海鰌(くじら)」について「海鰌 泥鰌と形似と云は誤なり」「おさ のどの下にありとは誤なり」としている[7]。ただし、クジラ(鯨)とドジョウ(泥鰌)の形状が似ているとする同様の記述は『和漢三才図会』にもみられる[7]。
益軒は自序で「本草学は以つて民生日用に切なりとなす」と述べている[3]。諸品の名称が各地で異なることが「もの」の認識を難しくしていると考え、『大和本草』には方言名も調査して記しているが、このことは江戸時代の方言研究の源流となった[3](名物学も参照)。また、益軒による日本での本草学の確立は江戸時代に飢饉に備える救荒書が多く成立する要因になった[3]。
各巻
編集- 巻之一
- 序
- 凡例
- 論本草書
- 論物理
- 巻之二
- 論薬用
- 巻之三
- 水類
- 火類
- 金玉石土
- 巻之四
- 穀類
- 醸造類
- 巻之五 草之一
- 菜蔬類
- 巻之六 草之二
- 薬類
- 民用類
- 巻之七 草之三
- 花草
- 園草
- 巻之八 草之四
- 蓏類
- 蔓類
- 芳草
- 水草
- 海草
- 巻之九 草之五
- 雑草
- 菌類
- 竹類
- 巻之十 木之上
- 四木類
- 果木類
- 巻之十一木之中
- 薬木類
- 園木
- 巻之十二木之下
- 花木
- 雑木
- 巻之十三 魚
- 河魚
- 海魚
- 巻之十四 蟲
- 水蟲
- 陸蟲
- 介類
- 巻之十五
- 水鳥
- 山鳥
- 小鳥
- 家禽
- 雑禽
- 異邦禽
- 巻之十六
- 獣類
- 人類
- 付録 巻之一
- 付録 巻之二
- 諸品図上
- 諸品図中
- 諸品図下
脚注
編集- ^ a b 矢嶋道文「貝原益軒『大和本草』にみる「薬種」理論・製法・服用法(五)」『関東学院大学人文学会紀要』第137巻、関東学院大学人文学会、2017年12月、233-274頁、ISSN 2189-8987、NAID 120006382459、CRID 1050001337812116224。
- ^ a b c d e 大村 勅夫「非文学古典の教材化―貝原益軒『大和本草』栗本丹州『魚譜』などをもとに―」『全国大学国語教育学会国語科教育研究:大会研究発表要旨集』129回西東京大会研究発表要旨集、全国大学国語教育学会、2015年、421-424頁。
- ^ a b c d e f “温故知新 農学・本草学シリーズ 3 貝原益軒の『大和本草』”. 静岡県立中央図書館. 2023年4月15日閲覧。
- ^ “所蔵資料展示 本草学から博物学へ”. 三重大学附属図書館. 2023年4月16日閲覧。
- ^ a b 上野益三「本草綱目と日本の博物学」『甲南女子大学研究紀要』第7巻、甲南女子大学、1971年3月、153-163頁、ISSN 0386-4405、CRID 1050845763312377216。
- ^ a b 吉田忠 (2013-02-03). “本草学”. 東京人 (都市出版) 321: 40-45.
- ^ a b 高正晴子「鯨について―近世中期と後期の史料から―」『会誌食文化研究』第10巻、日本家政学会食文化研究部会、2014年。