堀之内軌道(ほりのうちきどう)は、静岡県にかつて存在した軽便鉄道である。

堀之内軌道運輸
種類 株式会社
本社所在地 日本の旗 日本
静岡県小笠郡堀之内町[1]
設立 1921年(大正10年)10月15日[1]
業種 鉄軌道業
事業内容 旅客鉄道事業、自動車事業[1]
代表者 社長 山下伊太郎[1]
資本金 45万円(払込額)[1]
特記事項:上記データは1935年(昭和10年)4月1日現在[1]
テンプレートを表示
堀之内軌道
路線総延長14.8 km
軌間762 mm
leer
東海道本線
BHFq
堀ノ内駅
exKBHFa
0.0 堀之内駅前駅 1926-
exBHF
0.1 堀之内駅 -1926
exBHF
0.7 五丁目駅
exBHF
1.1 万田橋駅
exBHF
2.0 三軒家駅
exBHF
2.7 円通寺駅
exBHF
3.4 西横地駅
exBHF
土橋駅 *
exBHF
4.4 奈良野駅
exBHF
4.9 上平川駅
exBHF
6.1 城山下駅
exBHF
6.8 平田駅
exBHF
7.1 橋本駅
exBHF
8.2 赤土駅
exBHF
虚空蔵新道駅 *
exBHF
9.4 南山駅 (I)
exBHF
南山駅 (II) 1923?-
exBHF
9.8 南山学校前駅
exBHF
9.9 川原駅
exTUNNEL1
佐栗谷隧道
exBHF
11.6 新野駅
exBHF
12.3 木ヶ谷駅
exBHF
13.5 大橋駅
exBHF
14.0 苗代田駅
exKBHFe
14.8 池新田駅

*: 廃止時期不明

概要

編集

路線は、堀之内町(敷設当時は西方村、現菊川市)の東海道本線堀之内駅(現菊川駅)前[注釈 1]から池新田村(現御前崎市)までの区間を通っており、内陸の東海道本線と、海岸部に近い地域を結んでいた。本社と車庫は堀之内町(現在の菊川市堀之内)にあった。

馬車鉄道として開業し、橋梁やトンネルの整備を進めると蒸気鉄道への転換を図った[3]が、第一次世界大戦に伴って石炭価格が高騰していたことと、市街地を走る軌道に黒煙を吐く蒸気鉄道はふさわしくないとして断念、電気鉄道への転換も投資額が多額にのぼるため実施されず、地元の機械製造業で姉妹会社であった松下工場の縁で小型ディーゼル機関車を導入する。同工場が販売代理店を務めた旧称N・A・オットー&Cie[注釈 2]発動機であったことから、「オット機関車」[注釈 3]と呼んで運用した。これは初期の日本のディーゼル機関車実用例である[注釈 4][注釈 5]

地元の「小笠茶産地」として伸びた茶業[3]、軍需産業等の発展に寄与したが、昭和初期に自動車輸送におされ、昭和10年(1935年)に廃止された[3][8]

併用軌道区間が多く、もともと駅・軌道設備が簡素であったことと、その後の区画整理のため、途中の佐栗谷隧道を除き[3]、現在ではほとんどその名残を見ることができない。

現在はしずてつジャストラインのバス路線(菊川浜岡線)がこの軌道線とほぼ同じ区間を走っている[要出典]

路線データ

編集

1935年12月廃止時点のもの

使用車両

編集

機関車

編集
  • 1号機関車:Motorenfabrik Deutz AG製[注釈 6] ML128形
    • 横置単気筒ディーゼルエンジン、出力14馬力
    • 出力不足のため客車を牽引できず営業運転には用いられなかった。
  • 2 - 5号機関車:Motorenfabrik Deutz AG製[注釈 6] ML132形
    • 横置単気筒オットーサイクルディーゼルエンジン、出力22馬力
  • 6号機関車:Motorenfabrik Deutz AG製[注釈 6] 形式不明
    • 横置単気筒オットーサイクルディーゼルエンジン、出力28馬力

客車

編集
  • 1・2号客車:ボギー客車
    • 定員34(座24、立12)
  • 3・4号客車:ボギー荷物合造客車
    • 定員24(座16、立8)
  • 5・6号客車:4輪客車(松下工場製)
    • 定員10

歴史

編集
 
ヤマサ醤油第一工場に展示されている「オットー機関車」
  • 1897年(明治30年)6月1日 - 堀之内 - 南山間の軌道敷設が特許を取得[9]
  • 1898年(明治31年)9月21日 - 城東(きとう)馬車鉄道設立
  • 1899年(明治32年)8月19日 - 堀之内 - 南山間が開業(馬車鉄道、軌間606mm)[注釈 7]
  • 1917年(大正6年)1月28日 - 御前崎軌道に社名を変更
  • 1919年(大正8年)4月 - 電気事業開始[12]。電灯供給からさらに自社路線の電化も目論んだが費用多額のため断念
  • 1921年(大正10年)11月28日[注釈 8] - 堀之内軌道運輸に軌道事業を譲渡
  • 1922年(大正11年)2月 - 御前崎軌道が静岡電力に合併[12]
  • 1923年(大正12年)12月29日 - 南山 - 池新田間が開業(内燃動力、軌間762mm)。内燃動力(ディーゼル機関車)を導入
    • 単気筒ディーゼルエンジンを搭載した小型機関車で、幅が極端に狭く、妻面の窓は船舶を思わせる丸窓であった。エンジンの爆音が凄まじいうえ、慢性的低出力と扱いの不慣れのために故障が絶えず、廃線まで運用されたが非常な苦労があった模様である。使用された機関車はドイツのモトーレンファブリーク・ドイツ社製のオットーサイクルと呼ばれる方式のガソリン起動型ディーゼル機関車であり、沿線の人々からは「オット機関車」の通称で呼ばれた。堀之内軌道で使われたものではないが、これと同型の機関車が千葉県銚子市ヤマサ醤油工場に静態保存されている。
  • 1924年(大正13年)
    • 7月23日 - 西横地 - 南山間を軌間762mmに改軌、同区間を内燃動力に変更
    • 11月25日 - 堀之内 - 西横地間を軌間762mmに改軌、同区間を内燃動力に変更[15]
  • 1925年(大正14年)5月 - 機関車による直通運転を開始
  • 1926年(大正15年)11月30日 - 堀之内駅を国鉄堀之内駅前に移転し、堀之内駅前駅に改称
  • 1935年(昭和10年)5月10日 - 営業休止
  • 1935年(昭和10年)12月4日 - 廃止[8]

堀之内駅前駅(開業当初は堀之内駅であった)- 五丁目駅 - 万田橋駅 - 三軒家駅 - 円通寺駅 - 西横地駅 - 奈良野駅 - 上平川駅 - 城山下駅 - 平田駅 - 橋本駅 - 赤土駅 - 南山駅 - 南山学校前駅 - 川原駅 - 新野駅 - 木ヶ谷駅 - 大橋駅 - 苗代田駅 - 池新田駅[注釈 9]

バス事業

編集

1934年時点で12路線、使用車両(常用11予備5)[16][17]

遺構

編集

[要出典]

 
佐栗谷隧道
  • 佐栗谷隧道(さぐりやずいどう)
    菊川市高橋字佐栗谷と御前崎市新野の境界にある全長93.3 m[注釈 10]のトンネル。両端は煉瓦造り、中央部は掘り放しとなっている。トンネルは静岡県道37号掛川浜岡線の旧道トンネル脇にあるが、夏場は草に覆われる。御前崎市側の坑口は既に埋められている。菊川市側の坑口は現存するが、入口は菊川市が設置したバリケードで塞がれており、立ち入ることはできない。御前崎市側には線路跡と見られる道が農道として残っている。
  • 終点に近い静岡県立池新田高校周辺には、線路跡を示す「オットのみち」と書かれた看板が住宅地に立てられている箇所も存在する。

脚注

編集

注釈

編集
  1. ^ 今尾 (2008) では東海道線は堀ノ内駅、こちらは堀之内駅前駅とする[2]
  2. ^ N・A・オットー&Cieの後継はモトーレンファブリーク・ドイツ社。
  3. ^ 画像説明より。南山学校前駅に停車するディーゼル機関車「オット」(1924年(大正12年)頃)[3][6]
  4. ^ 鉄道友の会鉄道総合技術研究所の調査によると、現在は保存状態にある同型機をヤマサ醤油第一工場が保管する[7]ヤマサ醤油#見学内容も参照。
  5. ^ オットはディーゼル機関の「現存する最古」車体であるが、内燃機関に範囲を広げると、より古い例として筑後馬車鉄道などで採用された焼玉機関を積んだ機関車や、石油発動機による機関車があった。「日本のディーゼル機関車史」を参照のこと。
  6. ^ a b c モトレンファブリク・ドイツ社の後継はドイツ社。
  7. ^ 『鉄道院年報 軌道之部』[10]、『土木局統計年報』第21回[11]では軌間を2フィート2インチ=660mmとしている。
  8. ^ 許可は1922年2月8日[13]
  9. ^ 静岡鉄道駿遠線の池新田駅(後の浜岡町駅)とは別位置。
  10. ^ 新野小学校(現・御前崎市立浜岡北小学校)による実測値。

出典

編集
  1. ^ a b c d e f 地方鉄道及軌道一覧 1932, p. 51(国立国会図書館デジタルコレクション)
  2. ^ 今尾 2008, p. 32
  3. ^ a b c d e 菊川町 2004, p. 48, 資料編 第2章 菊川市の文化環境の現状 2)【菊川市の文化を構成するもの~生活習慣・産業~】産業:22頁
  4. ^ 菊川町(静岡県) (2019-05-17 2004). “みのり : 菊川町50周年記念誌 / BA71168501”. 所蔵検索:静岡大学附属図書館. 菊川町. 2024年12月22日閲覧。
  5. ^ 菊川町50周年記念誌編さん委員会 編『みのり : 菊川町50周年記念誌』[菊川町(静岡県) 菊川町、2004年10月]”. 静岡大学附属図書館 OPAC/myLibrary > トップ画面 > 一覧画面 > 詳細(本学所蔵). 2024年12月22日閲覧。
  6. ^ 国立国会図書館のwarp事業に保存された情報[4]と、情報源[5]
  7. ^ オットードイッツ製ディーゼル機関車”. sts.kahaku.go.jp. 産業技術史資料データベース. 国立科学博物館. 2024年12月22日閲覧。 “調査機関団体:財団法人鉄道総合技術研究所/鉄道友の会”
  8. ^ a b 『官報』 1935, 「軌道営業廃止 堀之内軌道運輸株式会社(鉄道省、内務省)」
  9. ^ 『鉄道院年報』明治42年度 1909, p. 76
  10. ^ 鉄道院 1911a, p. 13, 「軌道之部」
  11. ^ 鉄道院 1911b, p. 362
  12. ^ a b 静岡県保安課・土木課 1926, p. 3
  13. ^ 『鉄道省鉄道統計資料』大正10年度, p. 129
  14. ^ 『官報』 1924, p. 677, 「起終点=静岡県小笠郡新池田村池新田字稲代割–同村同字下道北坪 零八十鎖」
  15. ^ 1924年11月25日に堀之内軌道運輸株式会社に対して軌道特許状を下付[14]
  16. ^ 『全国乗合自動車総覧』 1934, pp. 35
  17. ^ 『全国乗合自動車総覧』第2-3巻 2004[要ページ番号]

参考資料

編集

主な執筆者、編者の順。

  • 今尾恵介(監修)『日本鉄道旅行地図帳』 7 東海、新潮社、2008年、32頁。 
  • 大庭正八「(42) 堀之内軌道」『鉄道ピクトリアル』1977年2月号、3月号、[要ページ番号] 
  • 「軌道特許状下付 堀之内軌道運輸株式会社(鉄道省、内務省)」『官報』第3680号、大蔵省、大正13-11-27、677頁、国立国会図書館書誌ID:000000078538-d29558282024年12月22日閲覧。「一昨二十五日堀之内軌道運輸株式会社ニ対シ軌道敷設特許状ヲ下付セリ 其起業目論見ノ概要左ノ如シ(改行)動力/軌間/起終点/延長哩程/建設費(改行)瓦斯2 静岡県小笠郡新池田村池新田字稲代割–同村同字下道北坪 零哩八十鎖 1万6千円」 
  • 「軌道営業廃止 堀之内軌道運輸株式会社(鉄道省、内務省)」『官報』第2680号、大蔵省、1935年12月7日、国立国会図書館書誌ID:000000078538-d29591592024年12月22日閲覧 
  • 「資料編 第2章 菊川市の文化環境の現状 【菊川市の文化を構成するもの~生活習慣・産業~】」『みのり:菊川町50周年記念誌』菊川町、菊川町(静岡県)、2004年10月、48頁。 
    • 収載資料
      • 『第2次菊川市文化振興計画(案):令和4年度–令和13年度(2022年–2031年)』菊川町、未完。「ディーゼル機関車(オット)。大正12年(1924)頃、南山学校前。」 
      • 菊川町郷土史研究会 編『郷土史研究』第6号(菊川町郷土史研究会)。
      • 菊川町史編纂委員会 編『菊川町三十年の歩み・資料編』(菊川町、1985年)
      • 菊川町史編さん委員会 編『菊川町郷土史料目録』第6集(菊川町史編さん委員会、1988年)国立国会図書館デジタルコレクション、NDLJP:12157684
      • 菊川町史編さん委員会 編『菊川町史 別編』菊川町〈菊川地域鉄道史〉、1989年、[要ページ番号]頁。 NCID BN04631654 
  • 静岡県保安課・土木課『静岡県電気事業概要』1926年、3頁。NDLJP:976231/18 
  • 『鉄道院年報』(明治42年度)鉄道院、1909年、76頁。NDLJP:805361/45 国立国会図書館デジタルコレクションに収載。
  • 鉄道省 編『全国乗合自動車総覧』鉄道公論社出版部、昭和9年、35頁。NDLJP:1234531/869 
    • 鐵道省(編) 著、野田 正穂、老川 慶喜、旅客運送 編『全國乘合自動車總覽 第2-3巻』 16-17巻、丸善〈戦間期都市交通史資料集〉、2004年、[要ページ番号]頁。 NCID BA69145547 第16-17巻は鐵道公論社、1934年刊の復刻。ISBN 4839503168, 4839503176
  • 鐵道院『鉄道省鉄道統計資料』 大正10年度、鐵道省、1921年、129頁。NDLJP:974244/474 国立国会図書館デジタルコレクション
  • 「軌道之部」『鉄道院年報』2024年12月、13頁。NDLJP:974219/11 | volume = 明治44年度 |year=1911| author = 鉄道院}}
  • 『土木局統計年報』第21回、内務省土木局。NDLJP:974213/188 
    • [鐵道院]『各驛間旅客發著及通過一覽表』鐵道省、19--、[要ページ番号]頁。 NCID AA12189293 大正10年版より、『各驛間貨物發著及通過一覽表』<AA12189329>と合冊刊行。
    • [鐵道院]『各驛間貨物發著及通過一覽表』鐵道省、19--、[要ページ番号]頁。 NCID AA12189329 
  • 内務省土木局 編内務省土木局〈土木局統計年報 第21-26回〉、大正2年11月。 
  • 鉄道省監督局『地方鉄道及軌道一覧 : 附・専用鉄道』昭和10年4月1日現在、鉄道同志会、1932年、51頁。 NCID BN14890116NDLJP:1190630/121 (国立国会図書館デジタルコレクション)
  • 和久田康雄『私鉄史ハンドブック』電気車研究会、1993年、114頁。 NCID BN10904740 

関連項目

編集