十羅刹女
十羅刹女(じゅうらせつにょ)は、仏教の天部における10人の女性の鬼神。鬼子母神と共に法華経を守護する諸天善神である[1]。
概要
編集法華経陀羅尼品に登場する10柱の女性の鬼神である。なおこの10人の羅刹女には本地があるとされ、いくつかの説があるが、本文中は『妙法蓮華三昧秘密三摩耶経』の説[注 1]を一例として出す。
- 藍婆(らんば)[1]、梵: Lambā(ランバー)
- 毘藍婆(びらんば)[1]、梵: Vilambā(ヴィランバー)
- 曲歯(こくし)[1]、梵: Kūṭadantī(クータダンティー)
- 華歯(けし)[1]、梵: Puṣpadantī(プシュパダンティー)
- 黒歯(こくし)[1]、梵: Makuṭadantī(マクタダンティー)
- 多髪(たほつ)[1]、梵: Keśinī(ケーシニー)
- 無厭足(むえんぞく)[1]、梵: Acalā(アチャラー)
- 持瓔珞(じようらく)[1]、梵: Mālādhārī(マーラーダーリー)
- 皐諦(こうたい)[1]、梵: Kuntī(クンティー)
- 奪一切衆生精気(だついっさいしゅじょうしょうけ)[1]、梵: Sarvasattvojohārī(サルヴァサットヴォージョーハーリー)
法華経では、これらの鬼神が釈迦から法華経の話を聞いて成仏できることを知り、法華経を所持し伝える者を守護することを誓っている。
羅刹女の名前と数は、上記とは異なる名前が登場する十大羅刹女もある。また八大羅刹女や十二大羅刹女、また孔雀経の七十二羅刹女といった名称がそれぞれ挙げられているが、法華経に見られる羅刹女の名称については法華経陀羅尼品以前の出所が不明であり、研究の対象になっている。
なお、梵本の法華経を日本語に訳した岩本裕によると、他の仏典にもラクシャシー(羅刹女)、あるいはヤクシニー(夜叉女)としてランバーなどの名も散見されると報告しており、(ランダムに列挙されたのみで)文化史的には特別な意義あるものではないという。
神仏習合
編集神楽
編集石見神楽の演目『十羅』では、仏教に登場する十柱の羅刹女ではなく、スサノオの末娘として神仏習合した形で十羅刹女が登場する。アマテラスとスサノオの誓約で生まれた三女神のうち三女タギツヒメの事とされる。粗筋は「彦羽根という鬼神が対馬に渡ろうとして大時化に遭い、生命からがらたどり着いた。十羅刹女は彦羽根に故国へ帰るよう説得するが、彦羽根は聞き入れず戦いとなる」といった内容である[3]。また、島根県石見地方の伝説では十羅刹女を胸鉏比売命と神仏習合させたものがある。
謡曲
編集謡曲『大社』でも、神仏習合した十羅刹女が登場して舞を見せる。野上豊一郎/編『解註 謡曲全集 巻一』では「十羅刹女は元来恐るべき十人の鬼女であるが、俗説には素戔嗚尊が龍女と契を結んで生まれた娘であるという。」(405頁)と注釈している。
— われはこれ、出雲の御崎に跡を垂れ、佛法王法を護りの神、本地十羅刹女の化現なり。容顔美麗の女體の神、容顔美麗の女體の神、光も輝く玉の簪かざしも匂ふ、袂を返す、夜遊の舞樂は、面白や。、謡曲「大社」、解註 謡曲全集 巻一
十羅刹女社
編集東京都の長崎神社(豊島区長崎1-9-4)は、神仏習合期においては「十羅刹女社」と称されたとされている。また、同練馬区の春日神社(練馬区春日町3-2-4)では別当寺だった寿福寺の敷地に十羅刹女神祠がある。
注・出典
編集注釈
編集出典
編集参考文献
編集- 坂本幸男・岩本裕訳注『法華経』下巻 岩波文庫、1967年。ほか
- 石塚尊俊監修『保存版 島根県の神楽」』 郷土出版社、2003年、74頁。
- 矢冨巌夫『石見神楽』 山陰中央新報社 1985年。
- 島根県古代文化センター編『三葛神楽』 島根県古代文化センター、2004年、97-98頁。
- 竹内幸夫『私の神楽談義(3)神楽前線』 柏村印刷、2001年、140-141頁。
- 野上豊一郎編『解註 謡曲全集 巻一』 中央公論新社、2001年、397-408頁。