内容証明(ないようしょうめい)とは、郵便物文書内容ならびに差出人および名あて人を証明する特殊取扱のことである[1]。内容証明の特殊取扱とする郵便物は、同時に一般書留の特殊取扱としなければならない。用途は問わないが、法的トラブルの解決に当たって用いられることが多い[2][3]

概要

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内容証明は、郵便物の差出日付・差出人・宛先・文書の内容を、国の特殊会社である日本郵便が謄本により証明する制度である[1]。つまり、「この手紙をいつ、誰に、この内容であなたが出しました」ということを、国(総務省)から業務を受託している日本郵便が証明するものであるが、それ以上の法的効力は無い。

裁判所への提訴調停裁判外紛争解決手続非訟手続損害賠償請求検察庁や労働基準監督署、警察などの公的機関への告訴告発といった、俗に「訴え」と言われる法的措置の前段階として常用されている。

郵便法第47条で、「内容証明の取扱いにおいては、会社(日本郵便)において、当該郵便物の内容である文書の内容を証明する。」[4]と規定され、同条2項で「前項の取扱いにおいては、郵便認証司による第五十八条第一号の認証を受けるものとする。」と定められている。

郵政民営化が行われる前日の2007年平成19年)9月30日の時点では、郵便事業は日本郵政公社が運営しており、郵便職員の身分はすべて公務員であった。そのため郵便職員であれば誰でも内容証明の認証にあたることが出来たが、日本郵政公社が郵便事業株式会社となり、郵便職員の身分がすべて会社員となった同年10月1日以降は、日本郵便の社員の中から社内推薦され、総務大臣が任命する「郵便認証司」が内容証明の認証にあたっている。

認証された文書には、「この郵便物は何年何月何日第何号書留内容証明郵便物として差し出されたことを証明します。日本郵便株式会社」の文言が入ったスタンプと、郵便認証司の日付印が押される[注釈 1]

同時に配達証明も利用すると、郵便物が配達された事実の証明および配達日付の確認が可能である。内容証明を用いるような郵便物は、法的紛争もしくは紛争予防のための証拠とすることを意図されることが多いため、配達証明と併用することが一般的である。

内容証明は必ず一般書留扱いとしなければならない。同時に利用できる特殊取扱には、速達本人限定受取郵便引受時刻証明配達証明配達日指定代金引換がある。

また、電子内容証明を除けば、集配郵便局(日本郵便が配達を行う事業所のある郵便局)および日本郵便が指定する一部の郵便局の窓口で差し出さなければならない。ただし、これらの受付箇所においては、通常の窓口だけではなく時間外窓口(ゆうゆう窓口)においても、2名以上の郵便認証司が執務していれば受付が可能である。

非集配郵便局(日本郵便が配達を行う事業所のない郵便局・一部を除く)での受付、ゆうパックなど文書以外の物を内容証明の対象とするは出来ないので注意されたい。

内容証明はあくまでも「日本郵便が第三者として、文書の存在とその内容を証明するもの」であり、日本郵便は記述内容の法的な正当性の有無、文書に関して生じた紛争には一切関与しない。

内容証明は、出すこと自体が上記のように訴えの提起を予告することもある。また、悪徳商法業者や売掛金を言を左右にして払わない者に対して、「不法・不当なことには泣き寝入りしない」という強い意志を持っていることを相手方に伝えることで、相手方の出方を牽制できるという面も大きい[5]。訴えを起こすことを予告して相手を心理的に威迫しようとする時は、更に法律家や法的機関の関与を匂わせることもある。具体的には、

  • 文面で、「法的手段を取る」「提訴する」「法的機関へ告発する」ことを述べる
  • 法律の専門家による文書作成、代理人委任、職印の押捺[注釈 2]
  • 裁判所内の郵便局からの発送[6]

が行われている。当然ではあるが、上記の手段を取らなければ発送できない訳ではない。

用途

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実質的には日本郵便郵便物の内容を証明するだけであるため用途を問わないが、平常時の郵便物には内容証明が必要ないことが殆どであるため、主に下記のような法的トラブルの解決、特に「契約解除」・「債権回収」に用いられることが多い[7]法的トラブルの始まりを表す「内容証明を送る」「内容証明が送られてきた」という慣用表現も存在するほどに特定用途との結びつきは強くなっている[2][3]

判例

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法律上の意思表示効力の有無についての争いがしばしば起きる。意思表示の手段として内容証明を使った場合にも、その扱いなどについての判例が見られる。遠隔地への意思表示の到達は書面によらなければならない[9]。しかし、内容証明郵便が相手方に届かない場合でもその効力が有ると認められた例がある[判例 1]。民法97条到達 とは、抽象的には相手方にとって了知可能な状態に置かれれば足りると多くの判例で認められているが、より具体的には、

  1. 受取人が郵便物の内容を推知できること
  2. 郵便物が容易に受領可能であること

の2要件が求められる[判例解説 2]。ただし、正確にいつをもって到達時と見なすかは争いの余地が残されている[判例解説 1]

料金(加算料金)

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紙で差出す場合

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  • 最初の1枚が480円、以下1枚ごとに290円を加算する。例えば3枚の場合は480+290×2=1,060円となる。
    • 内容証明料金に限り、料金の支払手段として郵便切手貼付と別納(現金支払)・計器別納(証紙貼付)は利用できても料金後納のみ利用ができない。

電子内容証明で差出す場合

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  • 最初の1枚が382円、以下1枚ごとに360円を加算する。
    • 差出人が郵便局に出向く必要がないのと本文の文字数が無制限である反面、これと別に謄本を差出人に送付するための料金が必要(個別送付:304円、2件以上一括送付:503円)。
      • 料金の支払手段は、差出人が郵便局に出向く必要がないため、クレジットカードか新東京郵便局が利用局として承認を受けた料金後納に限られる。

様式

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紙による場合

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日本郵便の内国郵便約款(以下、約款)[注釈 4]の規定により、紙様式による内容証明の様式は以下のとおりである。

  • 用紙は自由。約款に基づき作成されている、日本法令等が売り出している内容証明用の原稿用紙を利用すれば後述する文字数制限を使う必要はない。ただし、日本郵便での文書の保存期間は5年となるため、感熱紙は使用できない。公文書にA4判が採用されてからはA4判で書くことが標準的となった。
  • 筆記具は自由だが、手書きで作成する場合は通常インクの出る筆記具を用いる。パソコンやワープロの使用も可能で、実務上はパソコンやワープロにより、裁判文書と同様に12ポイントで作成することが多い。手書きでの作成の場合、正本および謄本合わせて1枚あたり3通となる文書は、コピー・カーボン紙の利用などで謄写するのが一般的である。
  • 内容証明では、使用可能な文字が以下のように限定される。
    • ひらがな・カタカナ
    • 漢字
    • 数字(算用数字・漢数字)
    • 句読点、かっこ、記号。記号は、一般的なものに限る。
    • 英字(アルファベット)は、氏名・会社名・商品名などの固有名詞のみ使用できる。たとえばJRは「ジェイアール」と書いても誤りではなく認められるが、「JR」と書くことも認められる。
  • 内容証明は日本語でのみ作成可能である。
  • 内容証明の形式は自由でいいが、同時に提出しなければならない謄本2通には、以下のような制限事項がある。
    • 表裏合わせてで1枚520字以内。1枚の表に520字を書いた場合、その裏に一文字でも何かを書くことは許されない。以下における1枚あたりの行数も同じ。
    • 横書き1行20文字1枚26行で作成するのが標準的である。また、以下の様式もある。
      • 縦書き1行20字以内、1枚26行以内。
      • 横書き1行13字以内、1枚40行以内。
      • 横書き1行26字以内、1枚20行以内。
    • 句読点や記号を1個1字と計算する。記号は一般的な記号に限る。単位を表す記号などは通常認められるが、カタカナで「パーセント」「キログラム」などと書く方が確実である。句読点については文末文頭にあるものも1字と数える。このため、手書きの場合は文頭に句読点が来ることもある。パソコンやワープロで文書を作成する場合、禁則処理を外すか、もしくは1行の文字数を規定よりも1文字減らした設定(1行を20字にして書こうとしている場合は1行を19字に設定するということ)で文書を作成する必要がある。
    • パソコンやワープロを用いる場合、半角文字についても1字と計算する。
    • 後述する字の訂正や挿入部分は字数に数えない。
    • 行の追加挿入は認められない。
  • 内容証明が複数頁にわたる場合綴じたもののつなぎ目に契印を押す。文書自体に押印があるときはその押印と同じ印章で押印をするのが普通。
  • 郵便に付する際、正本1通と謄本2通を作成する必要がある。正本は相手に送達され、謄本の1通は日本郵便が5年間保存し、もう1通は差出人が保存するために返却される。
  • 文書以外の資料等の同封は認められない。内容証明では文書の存在そのものが証明されるものからである。

電子内容証明

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内容証明郵便と類似の制度として、電子内容証明サービスが存在する[10]Microsoft Word(Word2018を含む)がインストールされている、インターネット環境を有するMicrosoft Windows搭載PCがあれば利用できる。紙による文書よりも準備する物が少なく、規則が少ない。

脚注

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注釈

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  1. ^ 総務省令の郵便法施行規則に基づく。なお、認証時に字数などの書式が内国郵便約款に沿わない場合には、同規則により差出人に訂正を指示することになっている。俗に「郵便局でも簡単なことは教えてくれる」というのはこの規則に基づくが、文章の内容は無論確認してくれるわけではないので注意を要する。文書内容は法律の専門家に聞くのが望ましい。
  2. ^ 書類作成は弁護士・司法書士・行政書士に依頼する場合が多く、代理人の場合は法律上弁護士・司法書士(140万円以内)に限られている。
  3. ^ 内容証明の文例の載っている参考書は数多くあるが、「役所・公権力などに関するトラブル」に一章を割いている珍しい本。もちろん警察にたいする例もある。
    保田行雄 (2009-10-01). 内容証明 文例200. 株式会社金曜日. ISBN 978-4-906605-61-3 
  4. ^ 郵便法第67条及び第68条の規定に基づき定められている。内国郵便約款は、郵政民営化前の郵便規則(昭和22年12月29日逓信省令第34号)に代わるものである。

出典

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  1. ^ a b 郵便局 | 日本郵便株式会社”. 郵便局 | 日本郵便株式会社. 2024年11月12日閲覧。
  2. ^ a b 内容証明郵便を受け取られた方へ”. 大阪・本町の弁護士による企業法務|グロース法律事務所. 2024年11月12日閲覧。
  3. ^ a b 身に覚えのない内容証明は無視してもいい? 対応方法を弁護士が解説”. ベリーベスト法律事務所 姫路オフィス. 2024年11月12日閲覧。
  4. ^ 郵便法(昭和二十二年十二月十二日法律第百六十五号)”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局. 2014年1月4日閲覧。
  5. ^ 中小企業庁 「相談事例その7:内容証明郵便の出し方、支払督促制度、少額訴訟制度について」
  6. ^ 松沢直樹『うちの職場は隠れブラックかも』三五館、2013。
  7. ^ 労働問題以外は多比羅誠『内容証明の書き方と活用法』自由国民社による。
  8. ^ “辞めさせない”ブラック企業への対処法は「とにかく退職届を出して出社しないこと」、週プレニュース、櫻井英樹、2012年5月1日配信
  9. ^ 民法第97条
  10. ^ 電子内容証明サービス”. 日本郵便. 2018年8月19日閲覧。

判例情報

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判例解説

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  1. ^ a b 山本, 敬三 (1999年6月). “遺産分割協議の申し入れと遺留分減殺の意思表示/書留内容証明郵便の不在返戻と意思表示の到達”. 平成10年度重要判例解説(ジュリスト臨時増刊1157). p. 88-90. ISBN 4-641-11573-7 
  2. ^ a b 稲田, 龍樹 (1999年9月). 遺産分割協議の申し入れに遺留分減殺の意思表示が含まれると解すべき場合/遺留分減殺の意思表示が記載された内容証明郵便が留置期間の経過により差出人に還付された場合に意思表示が到達したと認められた事例. “平成10年度主要民事判例解説”. 判例タイムズ (臨時増刊1005): 150-151. ISSN 0438-5896. 
  3. ^ 大石, 忠生 (1999年7月). “遺産分割協議の申し入れと遺留分減殺の意思表示/内容証明郵便の不在返戻と意思表示の到達”. 私法判例リマークス[19]<1999[下][平成10年度判例評論]>(法律時報別冊). p. 84-87. ISSN 03873420. 

関連項目

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外部リンク

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