人文科学
人文科学(じんぶんかがく、英語: humanities[1][2][3])、あるいは人文学(じんぶんがく、英語: humanities[4][5][6]中国語: 人文学科)は、人間社会と文化の側面について研究する学問分野であり、人間が抱く根本的な疑問を含むものを指す。自然科学、社会科学、形式科学、また応用科学と並ぶ学問の分類である[7]。リベラル・アーツの和訳としても扱われる[8]。
英語における「Humanities」は「人文学」のことを指し、人文学部(人文科学部[9])はFaculty of Humanitiesと英訳される[10]。
歴史
編集元々「Humanities(ヒューマニティーズ)」は、ルネサンス期に栄えた人文主義(ヒューマニズム)に由来する[要出典]。明治期以降の流入時に、「humanities」は「人文学」と訳された。学問を二分する分類法が採用されていた時代には、自然科学に対して、現在の社会科学に分類される学問とあわせて「文化科学」と分類されていた[11][12][13][14][15][16][17]。岸本は、18世紀から19世紀にかけて政治学・経済学・法学などがいずれも固有の領域を確定したことで、20世紀の半ば以降それらは「社会科学」と呼ばれて分けられるようになり、残りが人文学と呼ばれるようになったとしている[11]。
現代において、学問は大きく自然科学、形式科学、社会科学および人文学(人文科学)に分けられる。
ルネサンス期における学者や芸術家はヒューマニストと呼ばれた。当時、「Humanities」という言葉は古典や言語についての研究を指し、宗教や神学に対置されるものとして当時の大学における世俗的なカリキュラムの重要な部分を占めていた[18]。
「人文学」と「人文科学」
編集Humanities(人文学)という英語は、Science(科学)という意味は含まない。中国語では人文学とのみ表記されており、人文学と科学とは分けられている。
安酸敏眞は、「一言でいえば、「人文学」は本来的にはlearningであり、「人文科学」は文字通りscienceである[19]」とし、「人文学」という概念の洗い直しの必要性を指摘している[20]。
中田力は、人文科学という用語は日本独特のものであり、学問の二大体系ともいえる人文学と科学を同等に列記するためには科学という言葉を共有する必要があったとしている[信頼性要検証][21]。
人文学とされる分野
編集日本の大学ではたいてい、「人文系」の学問分野の教育・研究を主に文学部などがおこなうが、大学によっては「人文(科)学部」という学部を設置しているところもある[22]。
- 語学 - 該当教育機関が設置されている国の標準語(英語圏なら英語、ドイツ語圏ならドイツ語、フランス語圏ならフランス語、日本なら現代日本語など母語)や外国語
- 言語学
- 文学
- 歴史学
- 倫理学
- 哲学/思想
- 美学/芸術学
- 宗教学/神学
- 民俗学
- 人類学-文化人類学[注 1]
- 地理学-人文地理学[注 2]
人文学要素がある社会科学
編集人文科学系の学びと就職
編集日本
編集大学通信オンラインによる547大学を対象にした学部別集計においては、2017年の「文・人文・外国語」 区分の就職率が85.0%であり、資格取得を主としない学部では最も実就職率が低かったが、これは一般的な就活にこだわらず自らの学びたい分野の学問に邁進する学生が一定層いることが一因であるとしている[23]。
90年代の前半では「人文学系の学部を卒業しても、実際に習った「人文学知識」は就職先で求められる専門と一致しないため、人文学系は同大学卒業者との比較において、最も就活で強い「自然科学系」とだけでなく、「社会科学系」とでも就職率や就職先レベルが低なる就職不利」という認識があり、人文学系の不人気に拍車をかけた[信頼性要検証][24]。
上記のような差別的な認識を抱かれていた理由としては、昔は育休制度やワークライフバランスといった概念が薄く、女性は結婚や出産で離職してしまう可能性が高いと考えられており、女性の多い文学部は、企業から敬遠される傾向にあったのも一因とされる[独自研究?]
合同会社渡部俊和事務所のキャリアコンサルタントである渡部俊和は、「職場で最も重要なのはコミュニケーションであり、その土台となるのは言語能力である。文学部出身者は少なくとも言葉についての感性に優れ、適切な使い方に長けている」としている[信頼性要検証][25]。
アメリカ合衆国での縮小傾向
編集アメリカでも人文系学部の就職率低下と縮小傾向がある。アメリカでは、日本よりも「大学の専攻分野」と「就職内容」の一致率が高く、工学系や自然科学系学部出身者の就職率が高くなってきているのに対して、人文科学・社会科学系の学部は就職率が悪化し、それに気付いた若者の間で人文系志望者・人文系専攻学生の減少が起きており、その結果、一部有名大学でも縮小や閉鎖が進んでいる。2010年時点で、米国内大学の卒業者の中で人文科学系卒業者が占める割合は7%だけとなっている[信頼性要検証][26]。
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ JST科学技術用語日英対訳辞書. “「人文科学」の英語・英語例文・英語表現 - Weblio和英辞書”. ejje.weblio.jp. Weblio英和辞書. GRASグループ株式会社. 2022年12月22日閲覧。 “cultural science; humanities”
- ^ “「人文」の英語・英語例文・英語表現 - Weblio和英辞書”. ejje.weblio.jp. 2024年4月18日閲覧。
- ^ “紀要『人文科学研究』|新潟大学人文学部 -Faculty of Humanities, Niigata University-”. www.human.niigata-u.ac.jp. 2024年4月18日閲覧。
- ^ JMdict. “「人文学」の英語・英語例文・英語表現”. ejje.weblio.jp. Weblio和英辞書. GRASグループ株式会社. 2022年12月22日閲覧。 “humanities; arts”
- ^ https://ura.sec.tsukuba.ac.jp/archives/6244
- ^ https://sy.rikkyo.ac.jp/web/preview.php?nendo=2023&kodo_2=HB004
- ^ "Humanity" 2.b, Oxford English Dictionary 3rd Ed. (2003)
- ^ 南出 & 中邑 2023, p. 1196.
- ^ https://www.meiji.ac.jp/cip/recruitment/mkmht0000001pwc1-att/401003.pdf
- ^ “Faculty of Humanities | Study at NU |” (英語). NIIGATA UNIVERSITY. 2024年4月18日閲覧。
- ^ a b 岸本 美緖 編『宗教と学問』 11巻、弘文堂〈歴史学事典〉、2004年2月、382頁。ISBN 4-335-21041-8。OCLC 959681322。
- ^ 「文化科学」『日本大百科全書(ニッポニカ)』 。コトバンクより2023年1月24日閲覧。
- ^ 「文化科学」『精選版 日本国語大辞典』 。コトバンクより2023年1月24日閲覧。
- ^ 「文化科学」『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』 。コトバンクより2023年1月24日閲覧。
- ^ 「文化科学」『デジタル大辞泉』 。コトバンクより2023年1月24日閲覧。
- ^ 「文化科学」『世界大百科事典 第2版』 。コトバンクより2023年1月24日閲覧。
- ^ 「世界大百科事典内の文化科学の言及」『世界大百科事典 第2版』 。コトバンクより2023年1月24日閲覧。
- ^ "humanism." Encyclopædia Britannica. Encyclopædia Britannica Online. Encyclopædia Britannica Inc., 2012. Web. 11 Apr. 2012. [1] Archived 2015-06-05 at the Wayback Machine.
- ^ 『田中美知太郎全集』 14巻、筑摩書房、1987年、333-335頁。
- ^ “現在、あらためて≪人文学≫を問う”. 2024年9月2日閲覧。
- ^ 中田力『日本古代史を科学する』PHP研究所、2012年2月1日。ISBN 978-4-569-80235-0 。
- ^ “人文科学部”. 就実大学・就実短期大学. 学部学科の紹介. 就実大学・就実短期大学. 2023年1月25日閲覧。
- ^ “2020年 学部系統別実就職率ランキング | 大学通信”. 大学通信オンライン (2020年8月18日). 2024年10月3日閲覧。
- ^ 人文学報第247~251号 p157,1994年
- ^ PORTキャリア 文学部は就職で不利なのか | 文学部の強みや就職先を徹底解説R6.7.15閲覧
- ^ 「ハーバードの学生たちに広がる急激な文系離れの波紋」『クーリエジャポン』2013年11月号、講談社、2013年9月25日、43頁。ASIN B00F496G64。「アメリカのハーバード大学で人文科学専攻の学生が急激に減っている。また、クーリエ・ジャポンの調査でどの学科専攻ならば大学4年間の学費と卒業後のリターンが得られるのか15位まで調査した。その1位が医学部卒業、2位がコンピュータシステム工学部卒、3位が薬学部卒。15位までをリストアップしたが、文系科学・社会科学系は13位の経済学のみである。この順位外の「就職には役に立たない」という枠外扱いがリベラルアーツ(学)だった。例えばアメリカのスタンフォード大学では、人文科学系の教員は全体の45%いるが、学生はわずか15%にまで下がっている。同国のハーバード大学でも1954年の36%から、2012年には20%まで人文科学系の学生割合が落ち込んだ。2010年には全米で人文科学系を卒業した人はわずか7%で、1966年から半減している。また、アメリカでは大学を卒業した学生の失業率は人文科学系の学生は自然科学系の2倍だった。志願者数の減少傾向から人文科学系学部の閉鎖や縮小が進んでいる。[信頼性要検証]」
参考文献
編集- 南出, 康世(編)、中邑, 光男(編)「liberal (arts)」『ジーニアス英和辞典』(第6版)大修館書店、2023年1月1日。ISBN 978-4-469-04187-3。