モクレン科
モクレン科(モクレンか、学名: Magnoliaceae)は、モクレン目に属する被子植物の科の1つである。2属230–340種ほどが知られ、コブシ、ホオノキ、オガタマノキ、タイサンボク、ユリノキなどを含む。すべて常緑性または落葉性の木本であり、精油を含み、葉は単葉で互生する。托葉は芽を包み、早く脱落する。花は大きく、ふつう3数性の花被片をもち、多数の雄しべと雌しべがらせん状についている(図1)。果実は集合性の袋果または翼果。アジア東部とアメリカに隔離分布するが、世界各地で観賞用に植栽されている。
モクレン科 | |||||||||||||||
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分類 | |||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||
Magnoliaceae Juss., 1789[1] | |||||||||||||||
タイプ属 | |||||||||||||||
モクレン属 Magnolia Plum. ex L. (1753)[2] | |||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||
magnolias[4], magnolia family[4][2] | |||||||||||||||
下位分類 | |||||||||||||||
特徴
編集常緑性または落葉性の高木から低木[5][6][7][8](下図2a–c)。節は多葉隙、多葉跡性[9][10]。道管の隔壁はふつう階段穿孔[9]。植物体はふつう精油をもつ[7][9]。ふつうアルカロイドを含む[9]。フラボノイドとしてケンペロールやクェルセチンをもつ[9]。アルブチンやエラグ酸を欠く[9]。
葉は互生でふつう螺生し(下図2d)、ときに枝先に集まってつく(ホオノキなど; 下図2e)[5][6][1][8][9]。葉は単葉、葉柄をもち、葉脈は羽状[5][6][7][1][8][9](下図2d–f)。葉身はふつう全縁だが、ユリノキ属では頂端と左右に切れ込みがあり、特徴的な形態となる[6][1][9](下図2f)。
芽は合着した2枚の托葉からなるキャップ状の芽鱗で覆われる[5][6][7][1][10](下図2g, h)。この托葉は早落性であり、しばしば枝を一周する托葉痕を残す[6][7][10](下図2g, i)。
花は大きく、放射相称、枝の先端または葉腋に単生する[5][6][1][8][9](下図2j–l)。ふつう両性花、まれに単性花で雌雄異株または雄性両性異株[6][1][8][9][11]。花被片は離生、6–9(–45)枚、ふつう3枚ずつ2–多輪につき(下図2j–l)、花弁状だがときに最外輪が萼片状(下図2k)[5][6][7][1][9]。雄しべや雌しべは多数、しばしば伸長した花托(花軸)にらせん状につく[6][7][1][8][9][10](下図2j, l, m)。雄しべは離生、求心的に成熟し、花糸はふつう太く短く、葯隔はふつう突出する[5][6][7][1][8][9]。葯は細長く、2半葯からなり、沿着し、内向から側向まれに外向(ユリノキ属)、縦裂する[5][6][7][8]。小胞子形成は同時型[9]。タペート組織は分泌型[9]。花粉は2細胞性、単溝粒[5][9][10]。雌しべは離生心皮で多数、ときに数個、有柄または無柄、多少とも花柱が伸長し、柱頭は頂生または花柱に沿って線状、子房上位、縁辺胎座で胚珠は1心皮あたり2-20個、腹縫線上に2列につく[5][6][7][8][9][10][12]。胚珠は倒生胚珠、2珠皮性[8][10]。胚嚢はタデ型[9]。虫媒花であり、甲虫、ハエ目、ハチ目などによって送粉される[6][9][10]。花はふつう匂いを放ち、その成分について比較的詳しく研究されている[13]。
果実はふつう裂開する袋果だが(下図2n–p)ユリノキ属は非裂開性の翼果(下図2r)、1つの花の果実が集まって集合果を形成し、ときに部分的に融合する[6][9](下図2n–r)。1個の果実は1–12個の種子を含む[6]。モクレン属では、種子は赤い肉質の種皮で覆われ、果実から出て珠柄でぶら下がる[6](下図2n, p, q)。一方、ユリノキ属では種皮は果皮に融合している[6][7]。胚は小さく、内胚乳は脂質またはタンパク質が豊富[5][6][8][9]。胚乳形成は細胞型[9]。基本染色体数は x = 19[9][10]。
分布・生態
編集東アジアから東南アジアおよび南アジアの一部と、北米東部から南米の一部の温帯域から熱帯域に隔離分布する[5][6][10]。東南アジアでは、森林の重要な構成要素となることがある[10]。
人間との関わり
編集ハクモクレンやタムシバなどいくつかの種のつぼみ(花芽)は、乾燥して辛夷(しんい)とよばれる生薬となり、鼻炎や頭痛、熱、咳に対して用いられる[6][14][15][14][16](下図3a)。またホオノキやコウボクなどの樹皮も
系統と分類
編集モクレン科の花は大型でふつうらせん状に配置した多数の雄しべ・雌しべをもち、このような特徴は被子植物における原始的な特徴とされることが多い[12][21]。これは、北アメリカの白亜紀の地層で発見された最初期の被子植物の化石がモクレン類によく似ていたことから、この化石がモクレン類の祖先植物ではないかとも考えられている[22]。ただしこのような特徴は、モクレン科またはモクレン目の一部における派生形質であると考えられることもある[10][23]。
モクレン科には、230–340種ほどが知られる[5][1][10][11]。このうち2種がユリノキ属(Liriodendron)に分類される。残りの種はモクレン属(Magnolia)、オガタマノキ属(Michelia)、モクレンモドキ属(Manglietia)、Manglietiastrum、Kmeria、Pachylarnax、Dudandiodendron、Elmerilliaなど複数の属に分けられることが多かったが[6][12]、2022年現在ではふつうモクレン属にまとめられている[5][1][10][11]。この広義のモクレン属は、15節に分類することが提唱されている[11](下表)。
ユリノキ属とそれ以外の属は葉、葯、果実などの特徴で明らかに異なり、亜科のレベルで分けられることもある(ユリノキ亜科、モクレン亜科)[12][11]。ただしユリノキ属以外の属を全てモクレン属にまとめた場合は各亜科はそれぞれ1属のみを含むことになるため、このような亜科は不要ともされる[10]。
表1. モクレン科の分類体系の一例[1][12][11][24]
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脚注
編集出典
編集- ^ a b c d e f g h i j k l m “Magnoliaceae”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2022年3月13日閲覧。
- ^ a b “Magnoliaceae Juss.”. Tropicos v3.3.2. Missouri Botanical Garden. 2022年8月6日閲覧。
- ^ GBIF Secretariat (2022年). “Liriodendraceae F.A.Barkley”. GBIF Backbone Taxonomy. 2022年3月13日閲覧。
- ^ a b GBIF Secretariat (2022年). “Magnoliaceae”. GBIF Backbone Taxonomy. 2022年3月13日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 大橋広好 (2015). “モクレン科”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. pp. 71–74. ISBN 978-4582535310
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x “Magnoliaceae”. Flora of China. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2022年3月13日閲覧。
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関連項目
編集外部リンク
編集- “モクレン科”. 三河の植物観察. 2022年3月19日閲覧。
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- Watson, L. & Dallwitz, M.J. (1992 onwards). “Magnoliaceae Juss.”. The Families of Angiosperms. 2022年3月19日閲覧。 (英語)
- “Magnoliaceae Juss.”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2022年3月19日閲覧。 (英語)
- GBIF Secretariat (2021年). “Magnoliaceae”. GBIF Backbone Taxonomy. 2022年3月19日閲覧。
- 東浩司 (2003). “モクレン科の分類・系統進化と生物地理: 隔離分布の起源”. 分類 3 (2): 123-140. doi:10.18942/bunrui.KJ00004649577. NAID 110006342785.
- 東浩司 (2004). “モクレン科の花の匂いと系統進化”. 分類 4 (1): 49-61. doi:10.18942/bunrui.KJ00004649594. NAID 110006342785.
- 植田邦彦 (1987). “モクレン科の分類・地理概説”. 植物分類, 地理 38: 339-348. doi:10.18942/bunruichiri.KJ00002992275. NAID 110003762534.