ピラタス PC-7

スイスのPilatus社による練習機ファミリー

ピラタス PC-7 ターボトレイナー

スイス空軍のPC-7

スイス空軍のPC-7

ピラタス PC-7(Pilatus PC-7)は、スイスピラタス社が開発した単発練習機。愛称はターボトレイナー(Turbo Trainer)。ターボプロップ練習機の先駆的存在で、これまでに世界で20ヶ国以上に採用されている。

概要

編集

1950年代後半にピラタス社が開発したレシプロエンジン搭載の初等練習機P-3の後継機として開発されたのが本機で、試作機はP-3のエンジンプラット・アンド・ホイットニー・カナダPT6Aターボプロップエンジンに換装して作られ、1966年4月12日に初飛行した[1]。しかし、テスト飛行中に燃料管理のミスが発生し緊急着陸したことが原因で計画は一時的に棚上げされた。その後1973年に計画が再開されるとボリビアミャンマーなどから受注を獲得したが、量産化に当たっては性能向上や操縦性の改善など多くの改良が必要であったため、機体構造や主翼などに大きな変更が加えられ、結果としてP-3とは大きく異なる外見になった。こうして量産型初号機が初飛行したのは、試作機の初飛行から10年以上が経過した1978年8月18日のことだった[1]

PC-7の量産型はエンジンにPT6A-25Aを採用し、485kWの最大出力を410kWに減格して使用している[1]1985年からはオプションで座席をマーチン・ベイカー製の射出座席にすることが可能になった。PC-7は軽快な運動性を持つだけでなく、兵器訓練が可能なように主翼下に計6箇所のハードポイントを設置しているため、COIN機としての運用も可能である。このため、軽攻撃機として採用した国も少なくない。イラン・イラク戦争ではイラン・イラク両軍で実戦に投入されている。

1992年には、南アフリカ空軍からの要求に基づいて、次世代練習機として開発したPC-9で用いた新技術をフィードバックしたPC-7 Mk.IIが登場している。このPC-7 Mk.IIは、PC-9と同じスタイルのコックピットを採り入れており、後席を一段高く配置して後席からの前方視界を確保[1]し、射出座席を標準装備している。計器類も近代化され、ヘッドアップディスプレイを設置することも可能である。他にも、エンジンはPT6A-25C(最大出力632kWを522kWに減格)を搭載したことでPC-7よりも約30%パワーアップしており、それに伴いプロペラブレードは3翅から4翅に増やされ[1]、胴体下にはエアブレーキが追加された。このためPC-9とよく似た外見となり(機体寸法もPC-9と同じである)、1996年からはPC-9と共通の胴体を使用して製造されている。ハードポイントもPC-7同様に6箇所あるが、南アフリカ空軍へ引き渡された機体は政治的理由からハードポイントが塞がれている。後に登場したPC-9MはPC-7 Mk.IIの技術がフィードバックされたため、外見での識別が困難なほどPC-7 Mk.IIと瓜二つとなった。

現在ピラタス社では、初等練習機としてはPC-7MKXを、より高性能の練習機としてはPC-21を販売している。

採用国

編集
 
マレーシア空軍のPC-7 Mk.II。PC-9とよく似た外見をしているのがわかる

派生型

編集
 
NCPC-7
PC-7
初期生産型。
PC-7 Mk.II
PC-9の技術を取り入れた改良型。南アフリカ空軍では「アストラ(Astra)」の愛称を持つ。
NCPC-7
スイス空軍の近代化改修機。完全なグラスコクピットを装備し、新世代機へ移行しやすいように改造されている[4]。外見上はほとんど変化がないため従来型と塗装が変更されている。
PC-7U
ウルグアイ向けの生産型。ウルグアイ空軍での呼称はAT-92。
PC-7 MKX
2021年11月14日に発表された最新型。3つの多機能ディスプレイを備えたグラスコックピットを含む「スマートアビオニクス」と呼ばれるアビオニクスの実装により、PC-21よりも低コストで、新世代機へ向けた効率的な基礎訓練の提供を可能としている。オプションでPC-21に近い高度なシミュレーションを提供することも可能[5][6]丸紅エアロスペースが航空自衛隊のT-7後継に提案していた[7]が、2024年11月29日に航空自衛隊はT-6を選定した[8]

性能諸元

編集
 
三面図

出典: Lambert, Mark (1993). Jane's All The World's Aircraft 1993-94. Jane's Data Division. pp. 359–360. ISBN 0-7106-1066-1 , “The Svelte Switzer......Pilatus”. Air International (Key Publishing Ltd) 16 (3): 111-118. (9 1979). , Pilatus Aircraft Ltd.. “PC-7 MkII - Aircraft Data” (英語). 2012年6月17日閲覧。

諸元

性能

  • 超過禁止速度: 500 km/h (270 kt, 310 mph)
  • 最大速度: 412 km/h (222 kt, 256 mph) ※高度6,100 m (20,000 ft)、最大巡航速度
  • 巡航速度: 330 km/h (180 kt, 210 mph)
  • 失速速度: 119 km/h (64 kt, 74 mph) ※フラップとギアを下げ、動力を切った状態
  • 航続距離: 2,630 km (1,420 nmi, 1,634 mi) 高度5,000 m、巡航出力、20分の余裕を含む
  • 実用上昇限度: 10,060 m (33,000 ft)
  • 上昇率: 10.9 m/s (2,150 ft/min)
  • 離陸滑走距離: 415 m (※ Mk.II)
  • 着陸滑走距離: 665 m (※ Mk.II)
  • 翼面荷重: 114.5 kg/m² (23.44 lb/ft²)

武装

  使用されている単位の解説はウィキプロジェクト 航空/物理単位をご覧ください。

脚注

編集
  1. ^ a b c d e 青木, 謙知 (2019-03-31). 戦闘機年鑑2019-2020. イカロス出版. p. 111 
  2. ^ The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2023-02-15) (英語). The Military Balance 2023. Routledge. p. 74. ISBN 978-1-032-50895-5 
  3. ^ The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2023-02-15) (英語). The Military Balance 2023. Routledge. pp. 476-478. ISBN 978-1-032-50895-5 
  4. ^ Pilatus PC-7 Turbo-Trainer” (英語). Swiss Armed Forces. Swiss Armed Forces. 2020年10月5日閲覧。
  5. ^ Pilatus unveils PC-7 MKX smart Basic Trainer” (英語). 2020年10月5日閲覧。
  6. ^ 徳永克彦英語版、DACT「写真「DUBAI AIRSHOW」」『航空ファン』第830号、文林堂、2022年2月、28頁。 
  7. ^ “丸紅エアロ、空自T-7後継にピラタス「PC-7MKX」”. 航空新聞社. (2023年8月21日). https://www.jwing.net/news/68181 
  8. ^ 田嶋慶彦 (2024年11月29日). “航空自衛隊の「T7初等練習機」、後継に米社製の「T6」を選定”. 朝日新聞デジタル. https://www.asahi.com/articles/ASSCY2PGNSCYUTFK00ZM.html 2024年11月30日閲覧。 

参考資料

編集

関連項目

編集

外部リンク

編集