ウィーナー過程
数学におけるウィーナー過程(ウィーナーかてい、英: Wiener process)は、ノーバート・ウィーナーの名にちなんだ連続時間確率過程である。ウィーナー過程はブラウン運動の数理モデルであると考えられ、しばしばウィーナー過程自身をブラウン運動と呼ぶ。最もよく知られるレヴィ過程(右連続かつ定常な独立増分確率過程)の一つであり、純粋数学、応用数学、経済学、物理学などにおいてしばしば現れる。
概要
編集ウィーナー過程は純粋数学、応用数学の両方で重要な役割を演じる。
純粋数学においては、ウィーナー過程は連続時間マルチンゲールの研究から生じ、より複雑な確率過程を記述する鍵となる確率過程である。そのため、確率解析、拡散過程、あるいはポテンシャル論においてさえも、極めて重要な役割を果たしている。
応用数学においては、ウィーナー過程はホワイト・ノイズの積分を表すものとして用いられ、それゆえに電子工学におけるノイズ、フィルタリング理論における機器誤差、制御理論における未知の力 (unknown force) などの数理モデルとして有用である。
応用
編集ウィーナー過程の応用は数理科学の様々なところに現れる。
物理学においては、ブラウン運動、流体に浮遊する微粒子の拡散、フォッカー-プランク方程式やランジュバン方程式を通した様々な拡散の様子などを研究するのに用いられる。 こういった応用は量子力学における経路積分の厳密な定式化(ウィーナー積分として表されるシュレーディンガー方程式の解であるファインマン-カッツの公式によるもの)や宇宙論における永久インフレーションの研究の基礎を形成している。
また、数理ファイナンスの理論、特にブラックとショールズのオプション価格モデルなどにも顕著に現われている。
特徴づけ
編集ウィーナー過程 Wt は次の条件
によって特徴付けられる。ここで、N(μ, σ2) は期待値 μ, 分散 σ2 の正規分布を表す。 また独立増分とは、「0 ≤ s ≤ t ≤ s′ ≤ t′ であるならば、Wt − Ws と Wt′ − Ws′ とが独立な確率変数となる」ことを意味する。
レヴィ条件 (Lévy characterization) からウィーナー過程を特徴づけられる。この場合、ウィーナー過程は、ほとんど確実に連続なマルチンゲールで W0 = 0 かつ二次変分 [Wt, Wt] が t になるものとして特徴づけられる。
また、係数が標準正規分布 N(0, 1) に従う独立な確率変数であるような正弦級数で表されるスペクトル表現を持つ確率過程としてウィーナー過程を特徴付ける方法もある。このような表現はカルーネン-レーヴェの定理を用いることで得られる。
平均 0, 分散 1 の独立同分布な離散時間連鎖のスケーリングの極限は、ウィーナー過程に確率収束する(ドンスカーの定理)。酔歩と同様にウィーナー過程は、一次元または二次元において再帰的 (recurrent) (つまり、出発点の半径任意の近傍に確率 1 で無限回戻ってくる)となるが、三次元以上では過渡的である。酔歩と異なる点は、それがスケール不変であることである。つまりいかなる非零定数 α ≠ 0 についても
はウィーナー過程となる。ウィーナー測度はウィーナー過程によって誘導される、g(0) = 0 を満たす連続関数 g たちの成す関数空間上の確率分布である。ウィーナー測度に基づいて定義される積分をウィーナー積分と呼ぶことがある。
一次元ウィーナー過程
編集時刻 t における確率密度関数は
期待値は
でそれぞれ与えられる[1]。
関連のある確率過程
編集以下のように定義される確率過程
はドリフト項 μ と無限小分散 σ2 を持つウィーナー過程と呼ばれる。
ウィーナー過程に、条件 W0 = W1 = 0 が与えられることによって定まる条件付確率分布をブラウン橋と呼ぶ。
と表され、株価のように決して負の値をとることのない確率過程のモデルとして用いられる。
関連項目
編集出典
編集参考文献
編集- Kleinert, Hagen (2004). Path Integrals in Quantum Mechanics, Statistics, Polymer Physics, and Financial Markets (4th ed.). World Scientific. ISBN 981-238-107-4
- Stark, Henry; Woods, John W. (2002). Probability and Random Processes with Applications to Signal Processing (3rd ed.). Prentice Hall. ISBN 0-13-020071-9