マイクロソフトは8月22日,次期クライアントOS「Windows Vista」のイメージ展開ツール「Business Desktop Deployment(BDD) 2007」をユーザーに無償で提供することを明らかにした。イメージ展開ツールとは,OSやアプリケーションがインストールされたハードディスクのイメージ・ファイルを,複数台のパソコンにネットワーク経由などでコピーするツールである。企業ユーザーがパソコンの環境を統一するのに使用する。
これまでWindowsのイメージ展開を実行するためには,サード・パーティ製のイメージ・コピー・ツールや,マイクロソフト製の有償ツール(ソフトウエア・アシュアランス購入ユーザーにのみ提供する「Windows PE」)などを組み合わせる必要があった。
BDD 2007は複数のツールで構成されており,マイクロソフトはシステム管理者向けサイト「TechNet」でそれらを無償配布する。BDD 2007を構成するツールには,ハードディスクのボリュームやパーティションを単一のイメージ・ファイルとしてコピーする「ImageX」,イメージ・ファイルを編集してアプリケーションやデバイス・ドライバを追加する「System Image Manager」,イメージ・ファイルをコピーする対象マシンをDVD-ROMやネットワーク経由でブートするための簡易版Windows「Windows PE 2.0」などがある。
1つのディスク・イメージを異なるハードウエアに展開できる
既存のサーバーOSである「Windows 2000 Server」や「Windows Server 2003」にも,統一されたOS・アプリケーション環境をネットワーク経由でクライアントに配布する「Remote Installation Services(RIS)」というツールが搭載されていたが,Active Directory環境が必須だった。BDD 2007の場合,Active Directoryがなくてもディスク・イメージの展開が可能である(ネットワーク経由でディスク・イメージを配布する場合は,Windows Serverが必要)。
また従来のイメージ展開ツールでは,展開対象のパソコンのハードウエアが異なる場合は,ハードウエアごとに個別のディスク・イメージを用意して展開する必要があった。これに対してBDD 2007では,1つのディスク・イメージを異なるハードウエアに対して展開できる。
ひな形パソコンのディスク・イメージを配布
BDD 2007によるディスク・イメージの展開手法を説明しよう。まずユーザーは,他のマシンに環境をコピーする「ひな形」となる1台のパソコン(「参照コンピュータ」と呼ぶ)に,OSやOSの修正プログラム,アプリケーションなどをインストールする。続いてWindows 2000以降の標準ツールである「Sysprep」を使って参照コンピュータ固有のシステム情報(コンピュータ名やSID,プロダクト・キー)などを消去した上で,この参照コンピュータのディスク・イメージを「ImageX」というツールを使って取得する。ディスク・イメージは,WIM形式というWindows Vistaの新しいイメージ・ファイル形式で保存される。
イメージ・ファイルはイメージ展開サーバー(Windows Server)にコピーし,他のパソコンから参照できるようにする。なおイメージ・ファイルは,「System Image Manager」というツールで編集可能であり,アプリケーションやデバイス・ドライバ,OSの修正プログラムなどを,イメージ・ファイルに後から追加できる。また,イメージ・ファイル中のOS設定情報(Internet Explorerの「お気に入り」など)も,展開サーバーにコピーした後から編集可能である。
次の手順は,イメージ・ファイルの展開である。「Windows PE 2.0」を使ってマシンをブートし,展開サーバー上にあるイメージ・ファイルを展開対象マシンのハードディスクにコピーするのが一般的な手法になる。このほか,クライアント管理ツールの「Systems Management Server」を使ってイメージを配布したり,展開対象マシンをネットワーク経由でブートして,イメージ・ファイルをコピーしたりすることもできる。
イメージ・ファイルをコピーしたマシンにも,プロダクト・キーやコンピュータ名,IPアドレスなどを設定する必要があるが,これらの情報は自動応答ファイル「unattend.xml」にあらかじめ記述しておけば,手動で入力する必要はない。Windows XPまでの自動応答ファイル「unattend.txt」はテキスト・ファイルであり,ユーザーはテキストを自分で編集して設定情報を入力する必要があったが,Windows VistaのBDD 2007には,XML形式の「unattend.xml」を編集するための管理ツールも搭載されている。
なお,ハードウエア環境の異なるマシンにディスクのイメージ・ファイルをコピーした場合,再度プロダクト・アクティベーションが必要になるため,そのままではパソコンを利用できなくなる。こういった事態を避けるには,ユーザーはあらかじめボリューム・ライセンス制度を利用して,プロダクト・アクティベーションが不要なOSインストール・メディアを購入しておき,そのメディアを使ってイメージ・ファイルのひな形を作成する必要がある。プロダクト・キーも,ボリューム・ライセンス制度で購入できるインストール・メディアに付属するものを使用する。
イメージ・ファイルをコピーするマシンにもライセンスは必須
当然のことながら,イメージ・ファイルを展開する対象マシンにも,Windows Vistaを利用するためのライセンス(権利)が必要となる。Windows OSのライセンスはボリューム・ライセンス制度で販売していないので,Windows Vistaがプリインストールされたマシンを購入するか,Windows Vistaのパッケージを購入しておく必要がある。