イタリア語万華鏡34 『 カキとカコ 』
2012年 03月 13日
34 『 カキとカコ 』
「カキ」と言っても、日本語には同音異義語が多く、少し考えただけでも
「柿」・「牡蠣」・「垣」・「下記」・「夏期」・「火気」・「火器」・「花器」などが
脳裏に浮かんでくる。
しかし、祇園坊の熟柿が大好物の筆者には、何と言っても「柿」が真っ先
に思いあたる。それと同時に「隣の客はよく柿食う客だ」という早口言葉
も思い出される。
広島県尾道市御調町(みつぎちょう)菅野(すがの)の前前後(まえぜんご)
地区では、穏やかな立冬の頃、300余年の伝統を受け継ぐ串柿の赤い
カーテンが山里を彩る。福を呼ぶ飾り物として正月の床の間には欠かせ
ない串柿である。皮むきした渋柿十個を一本の竹串に刺し、30串ほどを
二本の紐で結んで干し場につるすのであるが、その際、紐の外側に二個
ずつ、中側が六個になるように紐を掛けていく。「外はニコ(二個)ニコ(二
個)、仲(中)睦(六つ)まじく」という縁起物である。
さて、この柿は、日本語からの借用語として、kakiとローマ字書きされて
イタリアの文学作品にも登場する。時にはcachi(発音はカキ)とイタリア
語ふうの綴り字になる場合もある。このcachiは既にイタリア語の単語と
しての市民権を得ていて、新たな単数としてのcaco(発音はカコ)という
語形も定着し、イタリアの国語辞典に掲載されている。
したがって、八百屋の店先にはcachiとかcacoとかが値札に書かれて
売られているのである。cachiもcacoも単数形であって、複数形は特に
無い。一般にイタリア語に借用された外国語語彙は単複同形である。
ゴシック建築のシエナ大聖堂(13~14世紀建立)
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カテゴリ:イタリア語万華鏡 古浦敏生
古浦敏生(こうら・としお)
広島日伊協会理事 故マリーザ・バッサーノさんよりイタリア語を学ぶ。
広島大学名誉教授。言語学専攻。