納屋茶寮「MEGURU」で真薯東寺豆腐鹿尾菜煮朱果絹田巻土地の小麦の武蔵野うどん

埼玉県南部のおよそ中央辺りに「三富地域」と呼ばれるエリアがある。
元禄時代に開拓された「三富新田(上富・中富・下富)」を中心にして、川越市、所沢市、狭山市、ふじみ野市、三芳町の5市町に跨る地域であり、農地が5割、林地が2割を占めているという。
三富地域とはつまりは、めっちゃ郊外にして、自然豊かな地ということになる。
そんな三富地域の一角に、
まさにその土地の魅力を体現したような、
ひと時が過ごせる場所があると小耳に挟んだ。

県道126号所沢堀兼狭山線を、
武蔵野うどんの「柿屋うどん」近くの、
下富通りが交叉する信号で右折する。
ここ辺りかと車のスピードを緩めると、
左手に案内表示が見付かった。

車を降りてまず目に飛び込んでくるのが、
太鼓橋の向こうにある水車小屋。 水草の浮いた綺麗な池を見下ろしながら、
太鼓橋を渡り、水車そのものを腕組み眺める。
小屋の中へと闖入すると、木の香りに包まれる。
なんちゃって水車小屋などではなく、
ちゃんと水車を稼働させていることが判る。

行き届いた管理の手を思う敷地内には、
井戸があったり、白独活栽培の室があったり。 スチール製だと思われる朱色のポストが、
挿し色になりつつ、郷愁を誘っています。

ポストの並びに建つ立派な構えの農家は、
江戸時代から昭和期までの暮らしを伝える、
資料館「三富今昔語り部館」。
それを左手に見乍ら奥へと歩みます。 次第によく見えてきたのが、
納屋茶寮「MEGURU」の平屋家屋だ。

どんなひるご飯がいただけるかなぁー、
そう思いつつ引き戸に手を掛けようとして、
その手が止まる。 なんと満席でごめんなさいとの手書き文字。
訊けば、予約で一杯で、
それに対応する分の食材しか用意がないと云う。
食材を残さないようにとの配慮と思料するところ。
うむー、残念だけど、なるほどだ(^^)。

満席を詫びてくれたスタッフさんが、
この先にも昼食が摂れる施設があると、
そう教えてくれて、ふむふむと頷く。 懐かしのオート三輪が置かれた様子を横目に、
竹の小径を抜け、オーガニック農園の中を進み、
横断歩道を渡ったところに大きめの施設があった。

そこが「三富今昔村」の玄関口となる、
「くぬぎの森交流プラザ」だ。
ここから、三富の土地と自然を活かす、
サステナブルなフィールドが広がっている。
県で唯一”体験機会の場”の認定を受けたという。
ほー、へーと感心しつつ、
ゆったりとした「くぬぎの森交流プラザ」内にある、
レストランで美味しいランチをいただいた。

納屋茶寮「MEGURU」へ改めて出掛けなきゃ。 今度は予約して、と思っている裡に、
季節は移ろって、遅く短い秋になっていました。

予約の名を告げると、
奥側のテーブルへとご案内。
店内から振り返れば、開口部が横長に広く、
そこに硝子引き戸が据えられている。 成る程、店名の副題にあるように、
納屋をリノベーションしたのでしょう。

硝子戸越しには実り豊かな柿が覗く。 椅子が不揃いなのはもしかしたら、
“狙い”かもしれません(^^)。

奥側の壁沿いには、
様々な農機具が飾られている。 頭上を見上げれば、大きな竹籠が、
ランプシェードに仕立てられている。

なにかの実を選別する器具でしょうか。 動かしている様子を観察したい気もします。

熱い焙じ茶、そして、
小さくクルクルした可愛らしいおしぼりに、
“自然と美しく生きる。つぎの暮らしへ。”と題した、
リーフレットが添えられた。 過日「くぬぎの森交流プラザ」でも読んだけれど、
これで、「三富今昔村」の趣旨や全体像が判る。

神無月のお献立の口開き。 それは「新蓮根の真薯 香りお出汁のお吸い物」と、
ファームからの贈り物「季節の天ぷら」。

旨味しっかりめのお出汁の底に、
朧月を浮かべるように真薯がいる。
うんうん、ほっこり美味しい。
真薯、真丈と云えば大方、
魚の白身や海老・蟹などによるものだけれど、
蓮根メインの”しんじょ”も、大ありだ。

天ぷらの青い葉はなんと、
ハルジオンの葉だという。
きっと畑の脇に自生しているものだ。 その下には、生姜の天ぷら。
なんかこー、心地良い辛さが、いい。
有機無農薬の生姜だというから、
近くの石坂オーガニックファームあたりで、
収穫したものなんだね。

続いて四品が丸盆に載ってやってきた。
手前のお皿に「ポートリーガーデンの卵焼き」。
エディブルフラワーが可憐だね。

つまりは、湯葉豆腐の揚げ出し、
「大豆の滋味 東寺豆腐の揚げ出し」には、
胡瓜に似た香りがするというハーブ、
バーネットをあしらってある。
おー、ホントだ、瓜っぽい青い香りがする。 「ふろふき蕪のかぶら蒸し」には、
蕪と百合根を摺り下ろしたものをトッピング。

木組みの塗りの籠に載って来たふた品。 角小鉢の「甘麹の田舎鹿尾菜煮」に、
「彩り鮮やかな朱果の絹田巻 黄身酢添え」。
そーかー、これで”ひじき”なんだね。
お恥ずかし乍ら読めなかった課題、
“鹿尾菜”問題が漸く解決した(^^)。

品書きを眺めていて、議論が収束しなかった、
もうひとつの課題が、”朱果”問題。 そーかー、これが柿を指す言葉なのかー。
そうそう、表の硝子越しに覗く、あの柿だ。
ペーストにしたじゃが芋を芯にして、
その柿とサーモンを大根で巻いていて、
施設の里山で飼っている鶏が産んだ、
玉子を用いた黄身酢を下敷きにしている。

そして選べるお食事から選んだ、
メインのお食事がどんぶりでやってきた。
「具だくさんの武蔵野うどん(手打ち)」だ。 椎茸、人参、大根、牛蒡に豚肉の温かい汁に、
ひもかわに近いくらいに幅広の麺が泳いでいる。
元来の武蔵野うどんが、
肉汁のつけうどんであるとすると、
こちらの肉うどんは、その派生形とも云える。

褐色を帯びたうどんそのものを見ると、
所謂「ふすま」も織り込んでいるのが判る。 卓上の七味ならぬ「八味」もちょっと振って、
スルルンと完食して、胃の腑から温まる。
訊けば、小麦も収穫しているそうで、
店内に小麦の穂が飾られている。
ややクセの強い小麦なので、
県内の別の小麦とブレンドしているという。
そーかー、小麦まで栽培しているんだね。
収穫して粉にするまでの作業も、
施設内で行っているに違いない。
あ、庭先の水車小屋、
あそこで小麦を突いているのかもしれないね。

この日のお昼の甘味は、
発酵デザート「峯岡豆腐」。 クリームチーズ、牛乳、生クリームを、
葛で練り上げたものだという。
豆腐のようで豆腐でない、
チーズのようでチーズでない。
きっと女子の大好物だろうけど、
オジサンもこっそり大好きであります(^^)。

埼玉県南部中央辺りの郊外、
三富今昔村の一角の下富地区に、
納屋茶寮「MEGURU」は、ある。 暖簾のロゴマークが表すは、
取り組みを展開している里山に陽の出る光景か。
ポストの脇にあった案内の副題には、
“土からの恵みの循環を食を通じてMEGURUカフェ”とある。
ただ畑や雑木林の広がるところと思うだけで、
三富の土地と自然を活かす取り組みをしている、
「三富今昔村」の存在を今まで知らなかった。
色々な試行錯誤が続いているものとは思うけれど、
理想とするところを着実に実現しているところ、
そしてそれを継続しているところが素晴らしい。
今度は外気が気持ちのいい頃に、
入口脇の外テーブルでランチしたい。
「くぬぎの森交流プラザ」にもまた出掛けて、
周辺散策もしなくっちゃ、だ。

「MEGURU」
埼玉県所沢市下富157-1 [Map]
0492574433
https://www.ishizaka-farm.co.jp/connected/#meguru

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