押切蓮介の作品を初めて読んだのは、太田出版のゲーム雑誌CONTINUEに載っていた『ピコピコ少年』で、古き良き時代のファミコンやゲーセンの話という30代ホイホイなネタベースの漫画だったと思いますが(指を使わないと暗算できない女子を小バカにする描写が凄く印象に残ってる笑)、今回の『ハイスコアガール』もその路線を踏襲しつつ、なんともほろ苦くて淡いラブコメ要素も新たに足されていて、気を抜いて読んでたらちょっと涙ぐんでしまいましたよ!『ピコピコ少年』の一部だけ読んで面白いとは思っていましたが、ここまで物語を巧みに描ける実力派だとは知りませんでした。
ハイスコアガール
扱っているゲームのネタ上、ウケる世代に差がある内容だとは思いますけど、90年代前半を小・中学生ぐらいで過ごしたファミコン・スーファミ世代で、かつゲーセンにも足繁く通うといった生活を送っていた人にとっては、懐かしさを通り越したある種のモラトリアム的な切なさまでも体感させられる作品となっています。しかも通奏低音的に流れるラブコメ要素が一気に花開く後半の展開など読みどころ満載。ゲームネタと話全体の進め具合のバランスが抜群で素晴らしく面白いです。そう考えればネタを知らなくても十分に楽しめるかも。
あらすじは、ゲームをすることを除きすべてが劣等生である主人公の矢口ハルオと才色兼備のお嬢様である大野晶、この交わるはずの無い両者が出会ってしまったとき、そこに奇跡のゲーセン珍道中が生まれる!……というほど鼻息荒い展開ではないですが、ゲームネタ・時事ネタを豊富に挟み込みつつ、対極的な二人の関係がゲーセン巡りを中心に親密になっていく流れをうまく描いています。
話の序盤では、クラスのマドンナ的存在であるにも関わらず、校外ではゲーセンを荒らし回っている大野のことを地味に毛嫌いしていたハルオですが、彼女の置かれた家庭環境を理解するにつれて同じゲーマーとして仲間意識を高めていくという構成になっていて、かなり説得力がありつつ後の展開にもうまく繋がる重要な役割を果たしていると思います。二人とも現実逃避したくてゲーセンに通っていたという共通の事実をハルオが認識することで、ゲームを通した友情が育まれていくわけです。
でも、ハルオは小学生なので純粋に男女間の友情として大野晶を色々なゲーセンに連れ回るだけで満足してますが、そうは問屋が卸さないという読者サービス、よっ!待ってました!(笑)こういったハルオの認識力の弱さは経験値の乏しい男子小学生ならではだし、小学生だからこそ許される鈍感さで良いなと。これ以上書くのも野暮なので、続きはぜひご自分で確かめてみてください。けっこうインパクトあるキュンキュン展開ですよ、小学生同士の恋心ともつかない複雑な心情風景が巧みに描かれてます。ついでに、大野が全編通して無口な理由もあきらかに!窮屈な家庭環境にふせぎ込んでるのもあると思うけど、「あぁ、このシーン描きたかったんだな」っていう作者の意図に気づくとハッとします。かなりネタバレ的に書いてしまった、でもまだ語り足りない感じ。
なので蛇足でまだ書くと、ゲームの走馬灯はズルいけど素敵な演出、ハルオに語りかけてくるゲームたちも(笑)「グラディウス」、「レインボーアイランド」、「キング・オブ・ザ・モンスターズ」、「ダライアス」、この辺りのタイトルはドンピシャだし一杯やったな~。なんか……、なんか凄い破壊力だよ、この漫画!
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