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「DRM普及でも補償金制度は必要」権利者側がメーカーに利益還元求める


 私的録音録画補償金制度の抜本的な見直しを図るために、文化審議会著作権分科会に設けられた「私的録音録画小委員会」の2007年第9回会合が、8日に行なわれた。今回の会合では、補償金額の決定方法や補償金管理協会のあり方などについて議論が交わされた。権利者側からは、補償金額を迅速に決定する仕組みの必要性が訴えられたほか、消費者側からは、補償金管理協会の事業の透明性を求める声などが挙がった。


対象機器・記録媒体の補償金額を迅速に決める仕組みが必要

第9回私的録音録画小委員会
 補償金額の決定方法については、前回の小委員会で「私的録音録画が可能であるすべての機器・記録媒体を補償金の対象とすべき」と発言した日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センターの椎名和夫氏が、「補償金の対象機器が私的複製に関与する割合を考慮した上で補償金額を決めるべき」と主張した。

 さらに椎名氏は、現在の補償金額が「対象機器・記録媒体の価格の定率」となっていることを挙げ、「最近の対象機器・記録媒体はオープン価格が多い。これらの価格が安くなると、それに応じて補償金額も下落する」と指摘。改善策として、定率ではなく定額で補償金を徴収するプロセスを提案した。

 私的録音補償金管理協会(sarah)で権利者側の代表として補償金額を交渉した経験があるという日本レコード協会の生野秀年氏は、金額が決定するまでに時間がかかることを指摘。「(私的録音録画が可能な機器の)技術の発達に(補償金制度が)追いつかない状況はまずい」として、補償金額を迅速に決定できる仕組みが必要であると訴えた。この意見には椎名氏も同意し、「利害関係者や学識経験者で構成された評価機関で迅速に決めるべき」と続けた。


DRM普及で個別課金が可能になっても「補償金制度は存続すべき」

 また、文化庁著作権課の川瀬真氏は、現在のDRMでは私的録音録画補償金は必要と語る。ただし、DRMの普及状況によっては「補償金制度がなくなる可能性もある」として、それまでの過渡期として補償金で調整する考えを示した。この意見については、駒沢大学教授の苗村憲司氏も同意し、「将来的に著作権保護技術が発達すれば、補償金制度は廃止するべき」と話した。

 一方、苗村氏の意見に対しては、椎名氏が「消費者と契約者の間で個別課金が可能になったからお終いというのではバランスが取れない」と反論。「私的複製の問題は、メーカーが高度な複製技術を一般に普及させたことから生じている」として、メーカー側に私的複製可能な商品を販売した利益を権利者側に還元することを求めた。

 補償金額の決定方法に関する意見に対して、主婦連合会の河村真紀子氏は「(補償金制度の存続が)既定路線であるかのように話が進むことに抵抗感を抱いている」と反論。補償金制度の本質を議論せずに、対象機器・記録媒体に対する補償金額の決定方法を検討することは「一方的と言わざるを得ない」とし、これまでの小委員会で一貫して主張してきたように「補償金制度の妥当性の見直し」の必要性を訴えた。

 IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏も、「議論を聞いていると、(対象機器・記録媒体の)範囲を迅速に拡大しようとするばかり」と河村氏の意見に同意。さらに、PCや携帯電話などが広範囲に補償金対象となるのであれば、「1つ1つの補償金額が安くなければ消費者的は納得できない」と述べた。補償金額の決定方法については、関係者が協議する際、パブリックコメントなどを通じて消費者の意見も反映すべきと主張した。


補償金の分配状況をわかりやすく伝えるべき

 私的録音補償金管理協会(sarah)と私的録画補償金管理協会(SARVH)については、最近では同一機器で録音と録画が可能な商品が販売されていることから、小委員会では「同じ機器に対して2つの団体から別々に補償金を請求する可能性がある」と指摘されている。こうしたことから、多くの委員から「2つの補償金管理協会を統合するべき」との意見が寄せられた。

 また、補償金管理協会では、徴収された補償金の一部(最大20%)は権利者団体に配分されずに、啓蒙活動などを目的とした「共通目的事業」へ支出される仕組みがある。この事業については、「存続すべき」との意見が続出。ただし、事業内容については「見直すべき」という声が多く、津田氏は「共通目的事業が継続するのであれば、その割合を20%から100%に限りなく近づけるべき」との考えを示した。

 「現在の補償金総額は5億円程度。それ(共通目的事業に割り当てられる金額)でどれくらいのことができるのか。それならば、クリエイターを守るセーフティネットのように共通目的事業を活用してみてはどうか。補償金を個々の権利者に厳密に分配できないのであれば、創作支援に使う方が良い」(津田氏)。

 このほか、補償金制度の広報のあり方についても議論が交わされた。これまでの会合では河村氏が「権利者側の努力が足りない」と指摘しているが、この点について椎名氏は、「補償金制度は権利者のためだけのものではない。制度がもたらす恩恵を考えると、権利者だけでなくメーカーも補償金制度を知らしめる活動が必要」と異を唱えた。

 この意見に対して河村氏は、「広報というのは、『私的録音録画は補償金制度によって支えられている』というものではない。補償金がどのように分配されているのかを消費者にわかりやすく伝えてほしい」と反論。津田氏も「何億円もかけて新聞広告をするより、補償金をもっと有意義に使うべき」と語り、事業の透明性を確保するためにも、事業内容の公開を義務づけるべきと主張した。

 なお、これまでの小委員会では、私的複製によって権利者などが受ける損失の有無について意見が対立。「議論が入口で終わっている」という声が多かったことから、2007年6月15日に開催された第5回会合からは「議論のたたき台」として、小委員会の事務局が「仮に補償の必要性がある」とした場合の資料を提出し、これに基づいて議論が進められていた。

 今回の会合で、事務局が提出した資料で書かれていた、私的録音録画に関する制度設計の議論がひととおり行なわれたことになる。次回の会合では、これまで寄せられた意見を踏まえた資料を事務局が提出し、これをもとにさらなる議論が進められるという。


関連情報

URL
  私的録音録画小委員会(第9回)の開催について
  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/kaisai/07072711.htm

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( 増田 覚 )
2007/08/08 19:38

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