こんにちは、クックパッドで技術部長をしていました井原です。
「していました」というのは、僕は5/15付けで人事部に異動して、技術部長ではなくなりました。人事部副部長兼エンジニア統括マネージャ、が今の肩書きです(長い)。以前から、「井原さんて何やってるんですか?」と言われると説明するのが難しかったのですが、確実に、より答えづらくなった気がします。
ちなみに、同日にセコンさんが新しい技術部長に就任しました。僕よりもよっぽど技術に尖った人ですし、よっぽど本来の技術部長ぽいと思います。彼がやってくれるのであれば、クックパッドの技術はよりエンジニアにとって楽しい方向に向かうだろうし、クックパッドのエンジニアはよりユーザのためにその技術を使える人たちになっていけると思っています。本当に楽しみです。
というわけで、異動することについて。
今回僕は、自分から希望して人事部に異動したのではありませんでした。代表が佐野さんから穐田さんに替わる中で、指名されての異動です。聞いたのは、Rails Conference 2012に参加中のテキサスで、自分のプレゼンが終わった日の夜でした。正直、かなり戸惑いがあって、意味もよくわからなかったし、自分がやってきたことに対する若干の自信も全くなくなりました。なんでなんだろうって。
やる、やらない、会社を去ることも含め、いろんなことを考えましたし、いろんな選択肢がありました。
僕が約2年半前、クックパッドに転職したのは、「自分でものづくりがしたい」というのと、もう一つ、「エンジニアがその能力を活かして世の中に価値を提供する組織をつくりたい」という二つの理由がありました。
当時まだエンジニアは10人くらいしかいなくて、これから組織も文化もつくっていくような状態でした。もちろん今だってできているわけではないし、終わりなんかないのですが、いろんなチャレンジをさせてもらって、いろんな人が来てくれる会社に少しはなったと思っています。例えばその当時、Perlのすごい人と一緒に働くことになるなんて想像すらしなかったし、Googleから転職してくる人がいるなんてあり得ないと思っていました。
それはもちろん、自分一人でやれたことでは全くなくて、たくさんの人がしてくれた、たくさんの協力があってのことだと本当に思っていますし、本当に感謝しています。また、クックパッドで働くことを選んでくれた人たち一人一人が、そのエンジンであり燃料でした。僕は、それが少しでも上手に回り続けるように、若干のメンテナンスをやってきたつもりです。
ただそこには同時に、結構頑張ってきたんじゃないの、という多少の自負もありました。異動の話を聞いたときに、それを認めてもらえていないのではという不安がありました。それは、僕は、そのために会社の名前や肩書きを最大限に利用してきたと思っているからです。
例えば僕自身が素晴らしいソフトウェアを書いていたりするわけでは全くないので、皆さんは「素の僕」の話を聞いてくれたのではなくて、「クックパッドの技術部長である僕」の話を聞いてくれたんだと。だから、肩書き一つとっても、それがなくて同じくらいの成果を出せるのか、自信もなく、ただ混乱するだけでした。
そのとき僕はテキサスにいたので、メールやSkypeで執行役の方とも話をしましたし、本当に気を遣っていただいているのがよくわかりました。新社長は、直接話をすべきだから、ということでSkypeでは話してくれなくて、帰国した日に会社で対話する時間をくださいました。
その中で、正直に自分の全部の思いを話して、僕が今までやってきたことも、これからやりたいことも、結局組織をつくりたいってことなんだなあって改めて思えました。僕は、エンジニアとして自分が出せる成果がそもそも大したものではないと認識しているし、自分が成果を出すよりも、自分の周りにいる人たちが成果を出してくれた方が嬉しいんだと。だから、ここに異動した方がもっと成果を出せるだろうし、出して欲しいという期待もすごく感じました。じゃあやってやろうじゃんと。肩書きがあろうがなかろうが。
もう一つ、外国人のエンジニアが多かったのですが、僕の異動についてすごく心配してくれて、異動前から、大丈夫?大丈夫?ってずっと声をかけてくれました。それが本当に嬉しかったしありがたくて、僕はやっぱり、この人たちのためにできる限りのことをやりたい、と心から思えました。
会社全体の仕組みをどうするか提案できる人事部なら、技術をきちんと理解して、きちんと利用することで成果を出す、そしてそれがきちんと評価される会社にする、という目標をよりやりやすいだろうし、その想いは別にエンジニアに限ったものではなくて、全社員のためにやりたいのです。
今までと情報の入り方も違うし、入ってくる情報が変わる分、自分で拾いにいかないと得られなくなることだってたくさんあるんだろうし、いろんなことを学ばないといけないだろうけど、自分がやりたくて信じていることを、どこにいたってやろうと。
今まで、エンジニアの代表だったからなのですが、エンジニアのことばかり考えていました。逆に、他のことを考えられていませんでした。エンジニアのことは、自分がそうだったから、話も気持ちも、ある程度自分ごととしてわかったので、やりやすかった。
でも、これからは視点を変えないといけないんだなあって。良いところを残しながら、いろんな人がいることを考えて、全員が幸せであるように。難しそうだけど、前を向いて。
これは、僕自身が自分を今でもエンジニアだと思っていようがいまいが、明確なキャリアチェンジです。やれることも、やるべきことも確実に変わる。僕みたいに、背中を押される方もいらっしゃれば、自分の意志でそうされる方もいらっしゃるでしょう。
僕は今までも、エンジニアとして、マネージャとして、ずっと葛藤がありましたが、今回は自分がエンジニアからさらに離れるときでした。ただ、思えば今までも、ずっとそれを繰り返してここまで来たのです。
もし、同じような瞬間があって考えられる方がいらっしゃって、誰かの話を聞きたくなられたとしたら、何の役にも立たないかもしれませんが、僕は少しだけ話せるかもしれません。そのときは、ご連絡いただければ幸いです。
というわけで最後に。
僕は引き続き、エンジニアの人たちにとってもエンジニアではない人たちにとっても、僕がいるこの場所が働きやすい組織であるように、各人が自分の能力を最大限に活かせる組織であるように、そして、技術の力を活かして世の中に少しでも笑顔を届けられる組織であり続けられるように、この微々たる力であっても、努力したいと思うのです。