これまで、アーリーリタイアをする際に必要な金融資産額の計算方法をいくつか紹介して来ました。
1.ACR(アセット・コスト・レシオ)
2.線形シミュレーション(ハッピーリタイア計算ツールver1.0)
3.ランダム・シミュレーション(FIRECalc、リタイア計算ツール2(仮))
4.取り崩し率
これらの手法を用いて、ある仮定を置いたときに実際に必要な金融資産を算出してみようと思います。そのものずばりという答えはこれまで書いていませんでしたし、算出手法の違いがよくわかるかと思います。
第1回目は45歳独身の節制型完全リタイアです。
以下の前提を置いた場合に、45歳時点で最低限いくら資産があれば、私としてリタイアに踏み切れるかを計算してみました。
・45歳独身
・女性の平均余命まで生き延びる(平成21年度で42.44歳なので87歳まで)
・年間支出額は150万円(賃貸の場合は賃料、持ち家の場合は修繕費が含まれる)
・インフレ率は2%想定(消費税分についてはリタイア年に10%上昇)
・インフレ率と同等の資産運用を目指す
・年金は70歳から年間100万円受給(マクロ経済スライドは-1.5%)
・リタイア後は特にお金をかせがない
基礎生活費については、私は
145万円と計算しています。これだけあれば、エクストリームな節約をしなくても暮らしていけるという考えです。
結果だけ先に書くと、以下のとおりです。
1.ACR : 6,450万円(年金を完全に当てにすると4,750万円)
2.線形シミュレーション : 5,800万円
3.ランダム・シミュレーション : 6,400万円
4.取り崩し率(3%) : 5,000万円
1.ACR(アセット・コスト・レシオ)
ACRは
高等遊民の備忘録(高等遊民さん)で紹介されていた、リタイア可否の単純な判定法です。
・ACR = 資産額 / 年間支出額
・ACR > 平均余命 であればリタイア可
というもの。単純かつ直感的でわかりやすい計算方法だと思います。
さて、資産額を A とすると、
ACR = X ÷ 150万円
ACR > 42.44 ≒ 43
A ÷ 150万円 > 43
A > 43 x 150万円 = 6,450万円
となります。もし年金を当てにするのであれば、70歳から87歳まで1700万円もらえるので、
X > 6,450万円 - 1,700万円 = 4,750万円
とも考えられます。ただ、消費税によるインフレ分については考慮できないので、この金額でリタイアには踏みきりがたいですね。
2.線形シミュレーション
上記前提で、
ハッピーリタイア計算ツールで計算してみました。
資産は5800万円あると、87歳まで生き延びられるようです。その際のACRは39.3と、43より小さくなります。年金が考慮されているため、70歳から資産の下落カーブが緩やかになっているお陰です。
3.ランダム・シミューレション
ランダム・シミュレーションをするためには、期待リターン(ここでは=インフレ率)と同時にリスク(標準偏差)を調べなければいけません。
・
ファンドの海 | アセット・アロケーション分析 →リターン2%の時の効率性フロンティアをみると、リスクは6%くらいか
・
myIndex 資産配分ツール →リターン2.1%の時、リスクは1.7%(現金50%、日本債券40%、先進国債券7%、先進国株3%のとき)
うーん、だいぶ違いますね…。
堅めの予想をするために、ファインドの海の2%-6%を採用して計算してみます。まだ公開していませんが、ランダム・シミュレーションツール「
ハッピーリタイア計算ツール2ダッシュターボ(仮)」を使いました。
黒い線が、一番起こりそうな運用結果(リターンの最頻値)を表す線です。
いちばん起こりそうな運用結果での資産がマイナスになるのが87歳と設定して調べてみると、6400万円という数字が出ました。この場合、80歳時点で資産がマイナスにならない確率は83%で、一番起こりそうな運用結果は1379万円でした。ACRで計算した結果とほとんど同じになるのは面白いですね。
4.取り崩し率
取り崩し率については、「
運用資産の取り崩し方(1)取り崩し率とは」をご参照ください。簡単に言うと、毎年資産の何%を取り崩していけばリタイア生活が破綻せずに送れるか、というもの。直感的には、配当が何%のポートフォリオであれば配当だけで暮らしていけるか、と考えるとわかりやすいと思います。アメリカでは4%とも言われていますが、少なくとも日本だとこの取り崩し率は高すぎるように思われます。
ybさんのブログ「Passiveな投資とActiveな未来」の「
ファイナンシャル・インディペンデンスまでの距離」という記事で、以下のように書かれていました。
一方で、以前のエントリーにおいて、ゴールのイメージとして、運用資産残高の3%が年間支出とバランスが取れたときと数値的に示してもいます。
この3%という数字はいわゆるリタイア後の資産の引き出しルールでよく引き合いに出される数字で、運用会社の米Vanguardなどもこの数字を目安としてしばしば用いています。
この数字が個々人の将来において結果的に正しいルールであったかどうかは未確定な部分が多いので今の時点ではわかりませんが、運用を継続しながら引き出しをするという状況を考えたとき、まあ理にかなっている数字かなと思いますので、この数字を用いるとします。
(中略)
支出代替率=(運用資産残高×3%)÷(年間支出)=54%
となりました。
ファイナンシャル・インディペンデンスの状態は支出代替率が100%以上の状態と考えていますので、まだ道半ばといったところ。
ybさんはまた、「
資産運用の目標額ってどれくらい?」という記事で、「この目標が達成出来れば、資産は恐らく50年近く枯渇しないと言われています」と書かれています。妥当な取り崩し率についてはまだ私は勉強不足でよく分からないのですが、今回は、この3%という数字と、支出代替率が100%以上というのを使用して計算してみます。
必要資産額を A とすると、
0.03A ÷ 150万円 > 1
A > 150万円 ÷ 0.03 = 5,000万円
これまでの中で一番低い数字が出ましたね。年金についてはまったく考慮していませんが。
まとめ
もう一度、それぞれの手法で出した必要な早期リタイア資金をまとめてみます。
1.ACR : 6,450万円(年金を完全にあてにすると4,750万円)
2.線形シミュレーション : 5,800万円
3.ランダム・シミュレーション : 6,400万円
4.取り崩し率(3%) : 5,000万円
年金とインフレの考慮でだいぶ変わってくるというイメージです。今回は税金については考えませんでしたが、税金についても考慮するともう少し金額は大きくなるでしょう。
ただ、完全リタイア前提ですので、いざとなれば再度働くなりなんなりしてお金を稼いだり、さらに節約に励んだりすれば良いわけです。ここから考えると、以前、「
早期リタイアに必要な資金(3)」で述べた、
・45歳までに7000万円貯まったらその時点でリタイア
・45歳時点で5000万円貯まっていたら覚悟を決めてリタイア
・45歳時点までに5000万円貯まっていなかったら、5500万円貯まるまで労働を続ける
というのは、なかなか的を射ている指摘だったと思います。
個人個人で条件はかなり違うでしょうから、単純には使えないと思いますが、一つの指針として参考にしていただければと思います。