紳士服販売で業界2位の「AOKI」が手を染めた詐欺商法。この春大学に進学する学生を宣伝ハガキでつりあげ、セールで謳った企画商品の数を騙ったあげく、通常価格で購入させるというもの。明らかな詐欺行為である上、景品表示法にも抵触しかねない悪質な手口だ。
問題が発覚したのは、被害にあった学生の父親がたまたまHUNTERの記者だったから。売り場で「おかしい」と直感し、真相を追及した記者とAOKI側のやり取りの詳細を報じる。
学生の父はHUNTERの記者
大学の入学式を数日後に控えた3月29日、来ていくスーツを買い忘れていたことに気付いた女子学生は、あわてて近所の「AOKI 清水店」を訪れた。お目当ては、AOKIから送られてきた印刷物にあった《フレッシャーズ限定 スーツも揃う》と謳った「19,000円」の5点セット。内容は、ブラウス、バッグ、靴、ストッキングにスーツの上下。たしかにお得である。友人の多くがAOKIでスーツを買ったと聞いていたのも、同店を選んだ理由の一つだった。
ところが、昨日報じたように、このセット企画は『土日祝限定 各日5セット』。世間知らずの女子学生は、この小さな記載には目がいかなかったらしい。当然、「19,000円」のセット価格で購入できるものと思い込んでいた。
応対した店員は「セットについて説明した」というが、はじめから全部で「19,000円」だと信じている学生には通じない。単なる商品説明だと考えてしまった。商品が決まり、いざ支払いという段になって、女子学生は驚くことになる。請求金額は「43,640円」。セット価格の2倍以上の額だったのだ。すっかり青ざめてしまった。
たまたまスーツ代を届けに来た父親が、何事かとのぞいたことが、「AOKI」の運の尽きだった。女子学生の父親はHUNTERの記者。顛末を聞いて「おかしい」と直感した。あまりの金額の相違に、「手持ちがない」として購入を止めようとしたところ、店員は「入学式に間に合いませんから、一部だけの入金で商品はお渡しできます」という。印刷物の確認が先だと考えた記者は、20,000円の内金を入れ、娘を連れていったん自宅に帰った。時系列で記せば、次のような顛末となる。
当初は「売れた」と強弁
―― えっ?申し訳ございませんでしたって……、あなた、実際には売れてないんでしょ。伝票がないんだよね。5着も売れてないんでしょ。
店側 申し訳ございません。
―― 申し訳ございませんじゃなくて、何着売れたの?
店側 申し訳ございませんでした~。
―― 何着売れたの?
店側 2~3着です。
―― あなたは店長さん?
店側 責任者です。
―― これからそちらに行きます。
【店頭でのやり取り】
―― 店長は?これはどういうことか。伝票はどうなった?
店側 ここに……。
―― 2着しか売れてないじゃないか……。
―― これは詐欺だろう。学生を騙すのか?
店側 いいえ、決して。
―― 騙してるじゃないか。企画物は全部売れた。高いやつしかない。入学式は1日。そんな学生の足元を見るのか?
店側 ……。
―― 全店でこうした商売をやっているのか?
店側 いいえ……。
―― ここじゃ、やってるじゃないか。
―― 企業倫理の問題だ。許せない。何人の学生を騙したか?
店側 いいえ、決してそのようなことは……。責任者を呼びますので。お待ちいただいて……。
―― 絶対許さない。社長と話をしよう。企業の大小は関係ない。詐欺商法がばれたら、会社のトップが説明するのが道理だろう。
店側 返金が……。
―― きちんと話を聞くのが先だ。
結局、あずけた20,000円を返してもらうことと、AOKIの社長名で説明を受けることを約して九州地区責任者との話を終わった。やはり、顧客重視の姿勢に欠けているらしく、週明けの31日には、何の連絡もなかった。1日になって再び九州地区責任者から電話が入ったが、「もうしばらくお時間を下さい」。“勝手にすれば”というしかない。ヒットしたテレビドラマ風に言えばこうなる――「倍返しだ!」
詐欺行為、遅い連絡体制、いずれもAOKIの企業体質を問われる事態だ。しかも、ターゲットにされたのは学生。1日5セットの嘘を、果たしてどれくらいの客が見抜くことができただろう。「完売しました」と言われれば、おそらく大抵の客は店側の言葉を信用し、高い買い物をするのではないか。
詐欺行為発覚の翌日から、HUNTER取材陣がAOKIの各店舗や学生のスーツ購入者を取材しているが、19,000円のセットで購入できたのは一部。ほとんどの学生が、通常の割引価格で購入している。支出額は30,000円~40,000円といったところだ。店側からすれば、巧妙な客寄せが成功している状況だろう。しかし、この商法は胡散臭い。改めて、AOKIの商法について報じる予定だ。