von_yosukeyanさんのエントリー「政府日銀は電子決済を真面目に推進する気があるのか?(1)」 に触発されて、電子決済が普及した場合に日銀が受ける影響について考えてみた。
電子決済が進展すると、当然のごとく現金の決済需要が減退し、現金(銀行券)流通残高が減少する。ありとあらゆる場所での電子決済が可能となると、手元に現金を持つ必要がなくなるので、銀行券残高はほとんどなくなってしまう事態も考えられる。 この場合、日銀のバランスシートはどうなるのか。銀行券は日銀の負債だが、これがごっそりとなくなる。現在113兆円規模のバランスシート(8月31日時点の日銀『営業毎旬報告』を参照)を前提にすると、74兆円程度が消える。残るのは「当座預金」や「政府預金(プラス『売現先勘定』=実質的な政府預金)」など40兆円程度だ。一方、資産側ではまず国債(約56兆円)が消え、さらに短期供給オペが約18兆円減る。 バランスシート縮小は一見すると健全化する印象を受けるが、特に銀行券がなくなる形で規模激減というのは実は大変に困った事態を招く。銀行券は無コストの負債であり、反対側には運用資産として国債がある。両者が消えてしまうのは、日銀にとっては収益の源泉であった負債・資産を失うことを意味する。 残った40兆円ではどう見ても食えない。当座預金は無利息だが、政府預金(売現先勘定含む)は利息が付いている(これも面白い論点があるのでいずれ取り上げたい)。しかも反対側の資産は短期供給オペ(低利回り)で構成されるので、日銀は単独では人件費など賄えない赤字特殊法人となる公算が大きい。政府の補助金に依存する組織になるわけで、これでは法的独立性は形骸化する恐れがあるわけだ。 日銀は過去、今でもそうかもしれないが、電子マネーなどの動きにはやや懐疑的(または警戒的)なスタンスを取ってきたように見受けられるが、これは金融政策運営上の不透明要因になるという問題意識というより、むしろシニョリッジ喪失への危機感が根っこにあるのではないかと推測する次第だ。 なお、銀行券がなくなったらなくなったで、日銀は政府と交渉して食っていくための新たな仕組みを模索するはずだが、それがどのようなものかは私には正直なところノーアイデアである。金利の付かない売手を発行? うーん、誰も買わないなあ。準備預金率の大幅引き上げ? 全銀協は猛反対しそうだ。みなさん、何かアイデアありますか。 ⇒先ほどコンビニで晩飯を買った帰りにばったりと会った日銀マンいわく ・無利息の売手の強制発行と準備預金率引き上げは同じこと ・現実味があるのは準備預金率引き上げ(英中銀が似たことをしていた) ・普通に売手を打ち、調達した金で長期債・超長期債を買うのも手である(積極的に長短利ザヤを取りにいく→中銀ヘッジファンド化) やけにすらすらと話していた。これぐらいの思考は簡単なのか、前に考えたことがあったのか。機会があったら聞いてみよう。 von_yosukeyanさんはエントリーで「政府日銀は銀行券が減少することによる金融政策の変化を恐れているのではないか、という陰謀論も考えてみたりする。もっと斜め上の考え方をすれば、『銀行券が減ると、日銀資産が減るので国債を押し付けられなくなる』んじゃないかとMOF近辺が心配してるとか思ったりする(銀行が引き受けるので問題はないと思う)。まぁそこまで策謀をめぐらすほど行政はスマートではないと思う(失礼)が、次期政権においては行政の効率化のために現金決済を減少させるための効果的な政策立案を期待したい」と述べられている。私が思うに政府・日銀、単にスマートじゃないので陰謀もめぐらせないし、電子決済化も進められないのだろう。 ps von_yosukeyanさんがお書きになった「BW21に見る地銀システム開発の失敗」のシリーズはドラめもんさんが9月1日に紹介されているように力作であり、興味のある方にはお勧めです。
by bank.of.japan
| 2006-09-05 20:24
| 日銀
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Comments(6)
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元IB現PB
at 2006-09-07 10:35
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小学生の娘がおととし「おかねについて」と言う題で自由研究をしまして、日銀の役割を調べていた際に、娘から出た難解な
(=私には明確な答がわからない)疑問のひとつでした。 「日銀はどうやって独立採算をしいているのだろう」 「日銀は紙幣発行でどのくらい儲かるか」 そしてまさに今回の 「将来の、紙幣量が激減したら日銀はどうなるか」 娘が小学校の宿題にそれを書いたわけではないですが(^^) そもそも、日銀が収支をウンヌンするような組織(実は古くからの公開企業!)であることの方がフシギで、本来は機能面だけ考えればひたすらパブリックで面倒見るべき組織ですよね。収支どちらに傾いても、それを誰に帰属させるかと言う問題を考えると、特に。そのくせ天下り関連会社をこっそり持つような構図といい、大きく稼ぐことなく適当な黒字が一番って収支意識のようですから、役職員のフリンジベネフィットお手盛りを生む構図が生じてしまうんだろうなーと邪推してしまいます。 もちろん、特殊法人になってしまった場合、政府からの独立性をどう保つか、ってのは当然別にある論拠なわけですけど。
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bank.of.japan
at 2006-09-07 11:49
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元IB現PBさん、どうもです。仰るとおり、機能として「適切な政策運営」が担保されていれば、中央銀行の独立採算は本質的な問題ではないと思われます。予算を牛耳られる存在だと、金融政策は政府の財布になるリスクがあるのは確かですが、極論を言えば、予算面で兵糧攻めに遭っても日銀マンが無給で適切な金融政策に身を捧げる覚悟があればよいわけです。まあ、餓死のリスクを冒してまで奉職するというのは非現時的ですから、現在のバランスシートが歴史的な知恵としてあるんじゃないかと考える次第です。今後ともよろしくお願いします。
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壱万円札
at 2006-09-07 20:04
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日銀券残高が増える方法。それは円がドルに替わる基軸通貨になり、海外で円をもってもらう。それには日本の国力、経済力と軍事力が飛躍的に高まる事が必要。
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bank.of.japan
at 2006-09-07 20:14
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壱万円札さん、こちらにもコメント頂き多謝です。ご指摘の件で、書こうと思いながらも忘れていたネタを思い出しました。円の国際化の話です。ありがとうございます。
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壱万円札
at 2006-09-09 21:30
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日銀が国債の利息で潤っても、日銀も日本国家の一組織なのだから、右手から左手に資金が移っただけで何にもならないと思います。連結決算すれば一種の粉飾決算となるのは明らかで、これは壮大な経済詐欺事件に他ならない。遠からず東京地検特捜部が動くであろう。そもそも日銀が国債を持つ事が原理的には許される事でないと思います。
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bank.of.japan at 2006-09-10 11:16
壱万年札さん、どうもです。日銀の国債保有は確かに政府・日銀間ではタコが足を食うような感じです。国債を持たない場合を想定するのは非常に興味深いテーマで、民間債務を持つべきではないか、との考えも合理性はあります。後は資金調節がうまくいくかどうかの技術論がなかなか難しいですね。
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