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カンヌ国際クリエイティブ祭2011受賞の社会派広告(11)Film Lions(2)

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カンヌ受賞の社会派広告、今日はフィルムの続きをご紹介します。政治的な内容にどうアプローチしているか。政治については及び腰になりがちな日本人のみなさん、要チェックですよ。

【SILVER】

●WAKING UP THE NEIGHBOURHOOD / POWA

これは南アフリカの家庭内暴力防止のためのCMです。家庭内暴力は近所の人が気づいて通報すれば防げるケースが多いのですが、トラブルに巻き込まれるのを恐れて気づかないふりをしている人が多いのが問題でした。

「自分がやらなくても、誰かが通報してくれるだろう。」みんながそう思えば、結局通報もされず、暴力を止めることはできません。このCMは、ある実験をすることで、ひとりひとりの無関心が社会全体の無関心になっていることを示す内容になっています。

実験はこうです。住宅街で夜中静まり返った夜中、ドラムセットを激しく叩きます。すると、苦情を言ってくる人が出てきます。そして次は、暴力が行われている音をスピーカーで流します。外からは、その家で家庭内暴力が行われているように聞こえます。でも、さっきのドラムのときのように何かを言いにくる人もおらず、警察に連絡する人もいません。

最後のコピーは、「毎年1400人の女性がパートナーに殺されています。この事実を前に、沈黙するんですか。」家庭内暴力の気配を察して何もしないことは、殺人に加担するのと同じことだということですね。

●DEVIN AND GLENN / OPPOSITION TO PROP 8

カリフォルニアに住む人の44%が同性愛の結婚を違法とすることに賛成していました。それを覆すために制作されたのがこのムービーです。ゲイのカップルが男女のカップルと同じように出会い、恋に落ち、ともに暮らし、倦怠期を迎える様子がなんともリアルに描かれています。

彼らがもういちど新しいパートナーを見つけて再出発するためには、同性愛同士の結婚を認めてあげないとだめでしょ、というメッセージ。同性愛ではない人でも共感できるストーリーで訴えているので説得力がありますね。

●PROFILE THE GOVERNOR / BORDER ACTION NETWORK

アリゾナの州知事ジャン・ブリュワーは、人権の観点から問題があるとされているSB1070という法律にサインしました。この法律は、移民の疑いがあると見なされた場合、警察官は逮捕状がなくても拘留できるほか、身分証明書を持っていない場合は犯罪者として扱うことを認めるという法律です。たとえばヒスパニックやアジア系の人などに声をかけて、突然逮捕することができます。

この人種差別的な法律がいかに異常かを伝えるために、人権団体がつくったのがこのムービーです。キャスターのような男性が、ブロンドヘアの白人女性に次々と声をかけていきます。「あなたはジャン・ブリュワーですか?髪はブロンドだし、肌は白いし。」声をかけられた女性たちはみんな複雑な顔をして逃げます。

街で突然、見た目の人種だけで「あなたですよね」と決めつけられる不快さと異常さをユーモラスに表現しています。政策に関するアメリカのムービーが続きましたが、どれも同じ民主主義国であるはずの日本では考えられない主張に満ちた表現ですね。

【BRONZE】

●WHERE IS YOUR LINE? / THE HAVENS

同意の上だったのか、強引にやったのか。これは大きな問題です。セックスの場合は特に。このムービーは、セックスの同意のあいまいさについて、「あなたの一線はどこまでですか?」と質問するためにつくられたインタラクティブ・ムービーです。

映像は、男の子と女の子がそれぞれクラブに行くところから始まり、音楽の中で酔いながら男女がもつれるような展開になっています。女性がどんどん酔っていって、男性が強引に事に及ぼうとしています。視聴者は、この段階でヤッたらレイプでしょう、と思った段階でクリックをすることになっています。

そのクリックしたタイミングで統計が取られる仕組みになっていて、クリックした後は同意のないセックスについての統計数字が現れるようになっています。クリックしないまま最後まで行くと、こういうコピーが現れます。「同意なしに一線を越えてしまうことは、レイプにあたります。」

広告主である団体の調査では、18歳から25歳までの男性の約半数が拒まれながらセックスしたとしてもレイプではないと考えていて、5%の人が女性が酔っていて拒んでいてもセックスをした経験があると回答しています。youtubeで展開されたこのムービーはソーシャルメディアで広がり、16万回も再生されたそうです。罪の意識がないまま女性を傷つける男の子、そして無防備なまま酔っ払う女の子にその危険性を伝える難しさを、メディアの選定とゲーム的なつくりでクリアしたんですね。

●ENCOURAGEMENT / SPECIAL OLYMPICS GREAT BRITAIN

これは、発達障害がある人たちが参加するスペシャルオリンピックの認知を高め、寄付を募るためにつくられたムービーです。発達障害は見た目にはわかりにくいため、障害そのものの認知が低いということもあり、スペシャルオリンピックについてもより多くの人に知ってもらう必要があったのです。そのためにつくられた映像はシンプルでエモーショナル。

実際スペシャルオリンピックに出る体操選手を主人公に、彼が緊張しながら素晴らしい演技をするところがテンションの高い映像で流れます。決めのコピーは「励ますことが、学習障害をもつ人の人生を変えていく」。ウェブに誘導し、学習障害のある人がスポーツをする意味と、彼らのためにできることを伝えるしくみになっていました

次回はいよいよ最終回。フィルムクラフトとチタニウムからの受賞作をご紹介します。

※これまでに紹介した以下の部門からの受賞作と重複するものは省いてあります。