これがアメリカ
油断すんじゃねえ
俺の生き様を見ろよ
Childish Gambino / This Is America
※意訳のアップから数日が経って、いろいろな分析記事がアップされています。合わせて読んでみてください。
http://fnmnl.tv/2018/05/08/52314
https://newreel.jp/reel/2551
※翻訳家/映像作家の友人Nに協力してもらって訳詞と注釈を作りました。
<意訳>
行け あっち行け
行け あっち行け
行け あっち行け
行け あっち行け
ただパーティーがしたい
君のためのパーティーだよ
ただお金が欲しい
君のためのお金さ
パーティーしたいんだよね
僕のためのパーティー
ガール、踊っちゃうよ
踊って 体を揺すって(※1)
これがアメリカ
油断すんじゃねえ
油断すんな
俺が用意したもんを見ろ(※2)
これがアメリカだよ
油断すんじゃねえ
油断すんな
俺が用意したもんを見ろよ
これがアメリカ
油断するな (シッシッ)
俺の生き様を見ろ
イキったサツ
イェー、これがアメリカ
そこらに拳銃(周りには)
ストラップつけて
常備しねえとな
ぶち込むぜ、イェー
これはゲリラ、イェー
バッグをゲットして、イェー(※3)
それかヤサをゲットして、イェー
冷やっとするぜ、、イェー(※4)
俺はマジでドープ、イェー
ぶっ飛んじゃうぜ、イェー(マジで)
ウーウー、誰かに教えてやれ
教えてやれよ、お前
ばあちゃんが言ってた(※5)
金を稼ぎな、坊や(金を掴め)
金を稼ぎな、坊や(金を掴め)
金を稼ぎな、坊や(金を掴め、ブラックマン)
金を稼ぎな、坊や(金を掴め、ブラックマン)
ブラックマン
これがアメリカ
油断すんじゃねえ
油断すんな
俺が作ったもんを見ろ
これがアメリカだよ
油断すんじゃねえ
油断すんな
俺が作ったもんを見ろよ
ワケわかんなくなってきたよ
俺はイケてる
グッチ中毒
カワイイだろ
一発ヤっちゃう
俺を見てなよ
これはスマホ
つうか道具
俺のKodak(Black)
ウー、知ってる(切んなよ)
一発ヤれよ(ヤれ!ヤれ!)
ヤっちまえ
10万ドル、10万ドル、10万ドル
密輸品、密輸品、密輸品
俺はオアハカの連中とコネがある
奴らからは逃げられねえ
(※7)
ウー 誰かに教えてやれ
アメリカ、フォロワーリストをチェックしたけど
てめえら俺に貸しがあるだろ
誰かに教えてやれよ
ばあちゃんが俺に言ってた
金を稼ぎな、坊や(ブラックマン)
金を稼ぎな、坊や(ブラックマン)
金を稼ぎな、坊や(ブラックマン)
金を稼ぎな、坊や(ブラックマン)
ブラックマン
この世界のただの黒人
タグ付きの
お前はただの黒人
高っけぇ外車に乗って
お前のデカい成功(※注8)
俺はアイツを裏庭で飼育した
いや、ワン公に人生なんてねぇ
デカいワン公には
以下、注釈です。
1.「アコースティックギターの軽やかなメロディとパーティーやお金と言った浅薄な歌詞」を次のHOOKが一気にぶち壊すような作りになっています。HOOKの暴力的な様を表現するためにあえて文体をソフトに変えました。
2.原文の"Look what I’m whippin’ up"を訳すのはなかなか骨が折れました。"Whip up"は「刺激する」「手早く何か(料理)を作る」「何かをかき混ぜる(ホイップクリームなど)」と言う意味があり、"Whippin’ up"はラップによく用いられるスラングで「クラック・コカインなどのドラッグを作る」と言う意味もあります。同時に、"whip"はスラングで「車」と言う意味もあり、「ドラッグのように中毒性がある曲」「車」「みんなを刺激させる曲」などの解釈ができます。すべてを含む日本語を見つけるのは難しいので、あえて抽象的に「用意したもん」と表現しました。
3.“I'ma go get a bag / Or I'ma get the pad” という部分。"bag"はもちろんただ単に「袋」と言う意味もありますが、ラップではよく「ドラッグが入った小袋」もしくは「金が入った袋」のスラングとして用いられます。死体を入れる"body bag(納体袋)"を意味している可能性もあります。"pad"はスラングでは「家」もしくは"pad of paper(メモ帳)"、"prescription pad(処方箋)"、"protective pad(スポーツ用の防備服)"という意味があります。あえて直訳的に和訳しましたが、「ドラッグをゲットして、できなければ処方箋をゲットする」「金をゲットして、家もゲットする」「金をゲットするか、成功するまでメモ帳に歌詞を書き続ける」など、色々な解釈ができます。
4.“I’m so cold like yeah, I’m so dope like yeah"。"Cold"は「冷たい」ですが、「感情的に冷たい」もしくは実際に「(体が)冷たい」それか「クール」にかけて「俺はかっこいい」って言ってるのかもしれません。もしくはスラングで「金属製のジュエリーをたくさん持っている」と言う意味もあるかもしれません。"Dope"はスラングで「かっこいい」。これらを合わせると、もしかしたらChildish Gambinoは今のラップ界で見受けられる「無感情」=「クール」を批評しているのかもしれません。
5.この訳は難しかったです。原文では"Black man"なので、直訳では「黒人」なのですが、文脈において「ばあちゃんが言ってた」と続きます。The New Yorkerの記事でDoreen St. Félixはこれは「黒人の努力を啓発する古き教義」と書いています。なので、黒人のおばあちゃんが孫に啓発するように「坊や」と訳しました。ですが、コーラスのリフレインで"Get your money—Black Man"が次第に"Get your—Black Man"と変化して行きます。解釈をすると、今でもアメリカそして世界で多大なる影響を及ぼした大西洋奴隷制度の中で、黒人を生け捕って労働者として売ると大金を儲けられる経済システムも同時に批評しているものと思われます。訳を2分割し、原文では同じ言葉である"Black Man"を「坊や」と「ブラックマン」と訳しました。
6.携帯電話を持っていただけのステフォン・クラークが銃を持っていたと誤解されて警官に射殺されたという事件を引用しているのかもしれません。さらに、こういった暴力的な事件がスマホのカメラの急増で録画されているにもかかわらず、暴力的な構造は変わらないままです。PVをみると暴力を上からスマホで撮っている子供が見えます。黒人の身体に対する暴力をスマホで撮って「メディア」と言う商品として消費する現代社会を批評しているのかもしれません。
https://www.huffingtonpost.jp/2018/03/22/sacramento-2018-0323_a_23392932/
7.曲の間に数秒間の空白があります。パークランド銃乱射事件で死んだ17人の高校生を黙祷するための17秒かもしれません。http://www.bbc.com/japanese/43067609
8."Dawg"は皆さんもご存知かもしれませんが、黒人のスラングで「仲間」を指します。"Big Dawg"になると「成功した仲間」となりますが、ここでは"Dawg"と"Dog"つまり犬をかけてます。ここでは「成功」と「ワン公」をかけて韻を踏む訳にしました。
さて本題。
「音楽に政治を持ち込むな」なんていう言葉がナイーブ(あるいはセンシティブ)かどうかはさておいて、アフロ・アメリカンの音楽が歴史や社会と切り離せないこと、露悪的なビデオよりもおそらく社会の有り様が深刻なこと、加えて複雑なこと、こうした表現が生まれて共有される土壌があること、どこを切っても考えさせられる。
「我が国スゴイ」以外のことを言うなら金も人も引き上げます、みたいな事態を妄想して自主規制したり、突き抜けた表現がただのタブー破りなだけで社会的な意味がクソほどもないどこかの国とは違って、ハリウッド俳優でグラミー受賞アーティストがこれを作るのだから、どっちがスゴイか言うまでもないような気がする(ちなみにドナルド・グローヴァーは作家でもありコメディアンでもある)。というか、本来はすごくない。表現すべきだと思ったことを表現するのは普通のことだから。
こうしたビデオや楽曲を「スゲー!」だなんて言って消費したり、アメリカ社会と音楽との有り様や彼らの意図を考える前に、俺は率直に悔しい。日本のトップクリエイター(そんなの居るのか?)がマスと向き合う現場で何を作っているのかと言えば、たったひとつ、コマーシャルだろう。販促物だ。
それでいいのかよ?っていう言葉を、「私は当事者だ」と思う人すべてに投げかけたい。私は違うって言うならば用はない。すぐにコマンドとWを押して業務やら表現やらに戻ってほしい。とりあえず俺は自分の土手腹に向かって、その言葉を3万回くらい投げ込みたい。
自分のヌルさに反吐が出る。