こんな感じで「会社組織の衰退」という話から「ノマド」についての考えを展開しています。
なぜ一部の若者が大企業を辞めたり、成長もしない社会起業系の小さなビジネスをやったりしているかと言うと、これは明らかに危機感の表れ。脱サラは確かにかっこいいかもしれません。でも、起業するモチベーションとしては、かっこいいことをやりたい、といった短絡的な理由ではなく、10年後、20年後の生活設計を考えることを自分なりにやっているわけですよね。(中略)今後、明らかに社会構造は変わると思っているんです。何年か、あるいは何十年かかるか、スパンは分からないですけど、おそらく会社組織は衰退していくと思います。
この引用のすぐ前では「大企業を中心に仕事が回っていて、ビジネスの中心は会社組織であり、そこでOJTによって仕事を覚えていくという構造が20~30年後も続くと思っているんでしょうか。僕はそうは思いません」なんてことも言っていますが、僕も同感で、企業というものが働き方の中心に位置するような社会構造はこの先、そんなに長くは続くはずがないという想定で今後のあり方を模索しています。
「就職」という言葉の再定義
例えば、このインタビューを読んであらためて思ったのは「就職」という言葉の意味を定義しなおさないといけない時期なんだろうなということでした。「職に就く」という就職も、従来のように「企業に社員として採用されること」ではなく、「社会における価値を創造する役割を果たすためにコミュニティやネットワークにつながること」であるという感じで捉え直す必要があると思うんです。
会社というクローズドな組織のなかに自分を位置づける契約をするのが職に就くということではなく、たとえ会社員という立場は変わらなかったとしても、社会というオープンな場において、おなじ企業の人以外のいろんな人たちといっしょに新しい社会価値を生み出していく職に参加する。
自分の会社のために働くのではなく、自分が生きる社会のために働く。
「就職」もそんなイメージに変わっていかざるを得ないように考えます。
インタビュー内で佐々木さんはこんなことを言っています。
今は「第3次起業ブーム」と言っていいのではないでしょうか。第1次がホリエモンや楽天の三木谷さんの1990年代終わり頃で、第2次が「WEB2.0」がもてはやされた2005年ごろぐらいです。
ただし第3次の起業ブームがそれまでと違うのは、必ずしも会社の成長や巨大化が目的ではない人たちが出てきているところです。社会起業的な、価値の創造に重点を置く人が増えているんです。でもこれは、今までの社会人から見ると理解しにくい。会社を大きくしたいとか、お金儲けしたいとかの方が上の世代にはまだ分かりやすいわけですね。
これは本当にごく一部の都市部の優秀な若者に限られるんだけど、彼らは会社を成長させるわけでもなく、お金持ちになるわけでもなく、ただ単に社会に価値を与えたいというような抽象的なことを言って、就職もせずにいる場合がある。
この「第3次の起業ブーム」の変化/ギャップは、どんなに「理解しにくい」ものであろうと理解していないとむしろこれからを生きる上で危ないのではないか?
「社会に価値を与える」というマインドがしっくりこないのであれば、それはあまりにいまの状況が見えていなさすぎるという気がするのです。
個人の戦略もCreating Shared Value(共有価値の創造)に
先日、以下のプレゼンテーション資料を共有させてもらいました(以下は途中の25ページ目から表示しています)。このスライドのP25-28あたりで、マイケル・ポーター教授が、これからの企業がとるべき戦略として提唱するCreating Shared Value(共有価値の創造、以下、CSV)を紹介しています。CSVは、簡単にいえば、企業もこれからは「社会に価値を与える」ことを第一に考えないと、この先の市場での競争に勝ち残れないよという考え方です。まさにマインドとしては先の「第3次の起業ブーム」を生きる若者と共通しているのです。
そういう意味でも、僕はこのCSVを戦略として採用する必要性は、個人でもおなじくらい必要になっていると考えています。
自分たちが生きていくために必要な共有価値をつくる
企業という閉じた組織のなかで価値を生み出す時代から、社会において他の人びとのネットワークすることで社会的な価値を生み出す生き方・働き方が当たり前になる時代。まさにその仕事の価値は、自分が参加している社会にとって価値があるかどうかで決まってしまいます。
商品が売れるか売れないかなどという時間的に先送り可能な評価ではなく、いま目の前にいる人にどんな価値を提供できるか、そして、同時にそれが未来の社会価値を生み出すことにつながるかという、より直接的な評価にこれからの僕らの仕事は晒されるわけです。
佐々木さんがインタビューでいっているようにこれからは黙っていても「会社組織は衰退していく」社会環境なわけです。
その際、自分たちが生きる社会、生きるコミュニティのなかで、どうやって自分自身を生かし、さらにまわりの人びとと生きていくかということは、個々人がそれぞれが“自分事”として向き合っていかなくてはいけない問題です。
従来のように、自分たちの仕事や生活がうまくいかないのを、会社の経営者や上司、あるいは、政治家や官庁のせいにして、傍観者を気取っていることはできません。
CSVが必要不可欠な戦略なのは、そこでつくることが目指される共有価値とは、まさに自分たち自身が暮らし働くことができるようにするために必要な価値あるものをつくることにほかなりません。
CSVとは、誰かにとって価値あるものをつくることを目指す活動ではなく、まさに自分(たち)自身にとって価値あるものをまわりの人びとといっしょになってつくることを目指す活動を選ぶという戦略です。
それは「自分たちのための新しい未来をつくる」ということにほかなりません。
垂直統合から水平統合へと
そのとき、佐々木さんがインタビューの最後のほうで話題にしている企業における垂直統合から、企業組織の枠を超えた水平統合へという変化の意味がわかってきます。私は今後の社会の仕組みとしてはギルド化していくんじゃないかな、と思うんです。広報(PR)の仕事が分かりやすいんですけど、PRするべき自社の業務の中身に詳しくなることよりも、メディアとのネットワークが大事なんですね。そうすると、たくさんのメディアの人を知っていれば、どこの企業に行っても広報の仕事ができてしまうわけです。
(中略)
例えば、会計士だったら会計士だとか、広報だったら広報とか、編集者とか、営業マンとか、職人的に仕事をする人たちの、横のつながりをうまく活かすことよって、現在の水平統合型のモデルにも対応することは十分可能です。
企業に就職して働くという旧来的な働き方ではない、新しい働き方を模索する場合でも、ひとりひとりが悩んでアイデアを出すより、おなじような問題意識をもった人同士が新しい働き方、生き方のアイデアを出し合い、実現していくことが必要なんだと僕が思っています。
というのは、いくら新しい働き方の模索が各自が“自分事”として向き合っていかなくてはいけない問題なのだとしても、その新しい働き方の実現はひとりで成り立たせるものというよりも、いかにまわりを巻き込んで成立させるかというものだと思うからです。
野村恭彦さんの『フューチャーセンターをつくろう ― 対話をイノベーションにつなげる仕組み』にも、こんなことが書かれています。
フューチャーセンターには、きわめて強力な「思想」があります。「世界観」と呼んだほうがしっくりくるかもしれません。その世界観とは、「世界は私たち一人ひとりの関係性でできあがっている」というものです。
まさにこの「関係性」のなかで、新しい働き方やそれを可能にするしくみなどの共有価値を生み出していくのが、CSVという戦略です。そのための方法論としては、野村さんが先導して進めているフューチャーセンターによる対話もとても有効だろうと感じています。
「垂直」から「水平」へという変化のもう1つの意味
野村さんは上の引用のあとにこんな風にも書いています。今、日本人のなかに「ヒーローが現れてほしい。その人は何かを変えてくれるはずだ」という依存的マインドが広がっているように思います。これは、フューチャーセンターの思想と相反する思想です。
ヒーローを待ち望む姿勢はまさに垂直統合的です。上司に、政治家に、何か自分たちの行動を指示してもらわないと働くことも生活することもできない。
その発想ではもはや立ち行かなくなっているなかで、フューチャーセンターに代表される、いろんな人びととのコミュニティやネットワークという水平統合的な状態のなかで、自分たちの生きる術、働く方法を模索し実現していくしかなくなっている。
それがもうひとつの「垂直」から「水平」へという変化のもう1つの意味なんだろうなと感じています。
このブログを書く時間を割いてまで僕がやってる「Think Social」も、やはりおなじ時代感を感じながら、新しい未来をいっしょにつくる方法とその実践を目的としてやっています。
Think Social Facebookページ
手のうちにある「デザイン思考」という小さく未知の未来を切り開いていく方法を効果的に持ちいながら、いわゆるリーンスタートアップの発想で、いろんな方と未来を模索していく活動をしていければ。
まだまだ微力ではありますが、おなじような意識をもって活動しているみなさんと連絡しあいながら、僕たち自身の未来をつくっていければと思いますので、よろしくお願いいたします。
関連記事