ガジェット通信 短期集中連載~「ノンフィクション界の巨人」佐野眞一氏の「パクリ疑惑」に迫る(第1回)~

橋下徹大阪市長の人となりを描く、ノンフィクション作家佐野眞一氏の大型連載「ハシシタ」が差別表現により第一回目にして打ち切りとなった。

「人権問題」「編集権問題」など、様々な「権利の問題」が交錯する中で、クローズアップされるのが佐野眞一氏の「剽窃癖」の問題だ。

ガジェット通信特別取材班は、佐野眞一氏の過去から現在までの作品を渉猟し、検証していくことにした。

連載第一回目は、猪瀬直樹東京都副知事がツイッターで指摘した27年前の剽窃事件だ――。

【特別取材班より:この短期集中連載のすべての記事一覧はこちらです】

「テキヤの口上」「人間のクズ」と悪口雑言のオンパレード

佐野眞一氏といえば、大宅壮一ノンフィクション賞(97年『旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三』)や講談社ノンフィクション賞(2009年『甘粕正彦 乱心の曠野』)を受賞した「ノンフィクション界の巨人」として知られる。今年初頭に発刊した『あんぽん 孫正義伝』 (小学館)は、ベストセラーとしておおいに話題になった。1947年生まれの佐野氏は現在65歳。ノンフィクション作家として、まさに円熟のときを迎えている。

その佐野氏が「週刊朝日」(10月16日発売/2012年10月26日号)に執筆した新連載「ハシシタ 奴の本性」が大問題になっている。「新党の結成宣言というより、テキヤの口上」「田舎芝居じみた登場の仕方」「香具師(やし)まがいの身振り」「その場の人気取りだけが目的の動物的衝動」「一夜漬けのにわか勉強で身に着けた床屋政談なみの空虚な政治的戯言」など、大阪市の橋下(はしもと)徹市長をボロクソに非難。日本維新の会の面々については「国会議員というより、場末のホストと言った方が似合いそうな男たち」「人間のクズ」とまで言い切った。

さらに橋下市長が被差別部落出身であるとして地名をはっきり記し(「週刊文春」や「週刊新潮」は、これまでの報道でさすがに地名までは伏せてきた)、父親の自殺や親族に刑法犯がいる事実を晒している。被差別部落出身であることに加え、犯罪者がいる家系が現在の橋下徹というパーソナリティを作った、と言わんばかりだ。
「週刊朝日」の表紙には「橋下徹のDNAをさかのぼり本性をあぶり出す」と大書されている。本文はDNAのらせん構造を思わせるいびつなデザインだ。

「週刊朝日」VS橋下徹市長のバトルが勃発

この記事が発表されるや否や、橋下市長は猛反発。自身のツイッター(アカウントは@t_ishin)を使い、10月18日以降猛烈な勢いで反撃を始めた。

【橋下市長によるTwitter発言過去ログ】
http://twilog.org/t_ishin/asc [リンク]

【10月18日の橋下市長会見録(zakzak)】
http://goo.gl/nKXxl [リンク]
http://goo.gl/SmnEK [リンク]
http://goo.gl/EJu26 [リンク]

橋下市長は「週刊朝日」のみならず、系列の朝日新聞や朝日放送までも取材拒否すると表明(その後撤回)。「週刊朝日」VS橋下市長のバトルは、ほぼすべてのメディアでトップニュース扱いになった。

こうなることを想定して「週刊朝日」が全面戦争に打って出るのかと思いきや、編集部は連載1回目にして「ハシシタ」の打ち切りを決定。執筆者の佐野氏は10月19日に「遺憾の意」を表明している(以下を参照)。

『橋下市長「これでノーサイド」…週刊朝日おわび』 読売新聞 2012年10月20日
http://goo.gl/i0Zm7 [リンク]

こうした動きを踏まえ、10月23日発売の「週刊朝日」がどのような報道をするのか注目が集まる。

東京都・猪瀬直樹副知事が暴露した驚愕の事実

今回の騒動に関連し、佐野氏にまつわる驚愕の事実が次々と指摘されている。10月19日午前1時35分、東京都の猪瀬直樹副知事がツイッター*1 で驚くべき指摘をした。

《1985年11月号月刊『現代』「池田大作『野望の軌跡』」(佐野眞一)は1981年三一書房刊『池田大作ドキュメントー堕ちた庶民の神』(溝口淳著)【※註/正確には「溝口敦」】からの盗用が10数箇所もあり、翌月『現代』12月号に「お詫びと訂正」があります。このときから品性に疑問をもち付き合いをやめました。》

*1 : 猪瀬直樹副知事ツイッター
http://goo.gl/pmYRx [リンク]

猪瀬副知事はさらに、これ以外にもいくつもの前科があることを明かしている(本連載の第2回以降で順次検証しよう)。
いったい佐野氏は、過去にどのような盗用や剽窃を繰り返してきたのだろう。佐野眞一氏は「ノンフィクション界の巨人」なのか。はたまた「ノンフィクション界の虚人」だったのか。猪瀬副知事が指摘した書物を取り寄せ、短期集中連載を通じてファクト(事実)を積み上げていきたい。

まずは月刊「現代」(85年12月号)「編集室だより」に掲載されたお詫び文を全文ご紹介しよう。

《■本誌十一月号「池田大作『野望の軌跡』」(筆者佐野真一)の記事中、出所を明記せずに、溝口敦氏の著書『堕ちた庶民の神』から引用した個所がありました。同氏にご迷惑をおかけしたことをお詫び致します。(T)》

「T」というのは編集人の田代忠之氏を指すと思われる。このお詫び文を読むだけでは、いったい佐野氏が溝口氏の著書のどこから何を無断引用したのか皆目わからない。
そこで「現代」(85年11月号)に掲載された佐野氏のレポート(『池田大作『野望の軌跡』/合計32ページに及ぶ)ならびに溝口敦著『池田大作ドキュメント 堕ちた庶民の神』(三一書房、81年6月刊行)を付き合わせながら検証してみた。

以下、「現代」と『堕ちた庶民の神』はそれぞれ「佐野レポート」「溝口本」と略する。
なお、佐野氏は1947年生まれの65歳だから、「現代」に問題の原稿を書いたのは38歳ということになる。

 それでは、佐野レポートにまつわる6件の疑惑を検証していこう。

疑惑その1

《四月二十八日、大石寺で宗旨建立七百年記念慶祝大法会が挙行された。その前日から戸田は創価学会員約四千名を引きつれ、大石寺に乗りこんでいた。(略)「狸祭り」といわれる暴力事件を敢行した。
 狸とは日蓮正宗の老僧・小笠原慈聞をさした。
 小笠原は戦時中、日蓮正宗の身延への合同を策し、神本仏迹論(神が本体で仏はその影)を唱えていた。戸田は創価教育学会弾圧の発端は彼が作ったとし、その責任を問う形で彼をデモンストレーションの犠牲に供した。》(溝口本110ページ)

《昭和二十七年四月、立宗七百年を記念する大石寺への登山において、創価学会は「狸祭り」事件という暴力事件を起こす。狸とは、日蓮正宗の老僧・小笠原慈聞のアダ名で、小笠原は戦時中、日蓮正宗の身延派への合同を策し、神本仏迹論(神が本体で仏はその影の意)を唱えていた。戸田は、戦時下における創価学会弾圧の発端は彼が作ったものとして、その責任を問う形で、小笠原を下着姿にしてかつぎあげ、牧口常三郎の墓前でリンチを加えた。》(佐野レポート127ページ)

一見してすぐわかるとおり、両者の記述はあまりにもソックリすぎる。

■疑惑その2

《水滸会の教材には『水滸伝』『モンテ・クリスト伯』『永遠の都』『三国志』『太閤記』『レ・ミゼラブル』等が使われた。これらはいずれも、不信と自信喪失の現代小説より前期の、血わき肉踊る情熱と行動の書といった点で共通しており、たしかに新興宗教幹部という一種の社会運動家を育成する教材としてはふさわしいものであった。》(溝口本122ページ)

《池田は若き日の愛読書として、『三国志』『水滸伝』『レ・ミゼラブル』『モンテ・クリスト伯』などをあげているが、これらはいずれも正義と悪という単純な図式と、血わき肉躍る物語という点で共通しており、たしかに庶民をオルガナイズする新興宗教組織の幹部が身につける素養としてはふさわしいものだったかも知れない。》(佐野レポート118ページ)

表現を変えてはいるものの、この記述も剽窃(=他人の文章を盗み取り、自分のものとして発表すること)と見られても不思議はない。

■疑惑その3

《かつて池田は日本最大最強の組織である創価学会のうえに君臨して「天皇にかわる時の最高権力者」と自らを規定し、あるいは池田組閣を夢見、また華々しい海外著名人との「民間外交」によって、ノーベル平和賞の受賞を真剣に望んだ人物である。》(溝口本8ページ)

《かつてこの人物は“池田内閣”構想に真剣な思いをめぐらせ、さらには、おびただしい数の海外著名人との“民間外交”活動によって、いまなおノーベル平和賞受賞を夢想する人物である。》(佐野レポート113ページ)

■疑惑その4

戸田にインタビューした大宅壮一は彼の印象を「如才がなく、ぬけめのなさそうなところは、小さな印刷屋や製本屋のオヤジ、でなければ、地方の小学校校長か役場の収入役といった感じである。……そういえば金貸しにもむきそうな面がまえである」(『婦人公論』32年10月号)と記した。》(溝口本88〜89ページ)

戸田をインタビューした故大宅壮一はその印象を、「如才がなく、抜け目のなさそうなところは、小さな印刷屋や製本屋のオヤジ、でなければ、地方の小学校長か役場の収入役といった感じである。そういえば金貸しにも向きそうな面がまえである」と記した。》(佐野レポート122ページ)

溝口本には「婦人公論」からの引用を示すクレジットが入っているが、なぜか佐野レポートには引用元の明示がない。また、書物からの引用であるにもかかわらず、佐野レポートでは表記に変更が加えられているのも不思議だ。

■疑惑その5

前青年部員の要職占拠により、古参幹部は後退し、古参幹部に繰り入れられた石田も後退した。石田は聖教新聞編集部長の職を秋谷に追われ、実権のない主幹にタナ上げされた。また彼の妻・栄子は青年部参謀から本部婦人部常任委員に移され、彼の母・つかも婦人部長を柏原ヤスに譲り、婦人部最高顧問に祭りあげられねばならなかった。》(溝口本163ページ)

《理事に就任した池田は、主要ポストに青年部出身者を配したが、この青年部の要職占拠で古参幹部は後退し、古参幹部に繰り入れられた石田も後退した。石田が聖教新聞編集部長の座から実権のない主幹にタナあげされたばかりか、妻・栄子も青年部参謀から本部婦人部常任委員に移された。また石田の母・つかも婦人部長を柏原ヤスに譲り、婦人部最高顧問に祭りあげられた。》(佐野レポート134〜135ページ)

いかがであろうか。これを「盗作」と言わずして何と表現したらいいのだろう。

インターネット全盛時代であれば、ネット上に転がっているテキストをパソコンの画面にペタリと貼りつけ、労力をかけずに盗用や剽窃ができてしまう。佐野氏が「現代」にレポートを執筆した85年当時は、パソコンなど一般家庭には普及していなかった。ワープロさえほとんど普及していない時代だから、おそらく彼は手書きでこの原稿を書いていたのだろう。

デジタル機器を使ったコピー&ペーストができない時代に、他人が書いた書物を片手に手書きで一文字一文字原稿を複製していく――。
溝口氏の書物から丹念に活字を写し取る佐野氏の姿を想像すると、もはやこれは「魔がさした」というレベルを通り越して「病的」と思えてならない。

極めつけは、次に紹介する6番目の疑惑である。

■疑惑その6

《同年五月から池田は『冒険少年』の編集を手がけはじめ、原稿とりに野村胡堂や西条八十、挿絵画家などの家を訪ね、また時に山本紳一郎というペンネームで穴埋め記事を書いたという。》(溝口本83ページ)

《池田はここで、大八車を引く「小僧」時代を経たのち「冒険少年」編集部に配属された。時に山本紳一郎というペンネームで穴埋め記事を書いたというから(略)》(佐野レポート121〜122ページ)

《時に山本紳一郎というペンネームで穴埋め記事を書いた》という記述が一文一句同じだ。
ここでガジェット通信特別取材班は「山本紳一郎」という固有名詞に着目した。
溝口本にある「山本紳一郎」というペンネームは明らかな誤植であり、正しくは「山本伸一郎」だ。ペンネームについて、「SOKAnet」(創価学会の公式サイト)*2 を参照してみよう。

*2 : SOKAnet
http://www.sokanet.jp/kaiin/kofushi/12.html [リンク]

《小説『人間革命』に登場する「山本伸一」は、池田名誉会長のペンネームです。
1949(昭和24)年1月、戸田第二代会長が経営する出版社に入社した若き日の名誉会長は、少年雑誌の編集を任され、「山本伸一郎」のペンネームで、ベートーベンの伝記などを執筆しました。戸田会長は「山に一本の大樹が、一直線に天に向かって伸びてゆく」と、このペンネームを評し、若き弟子の奮闘を温かく見守ったのです。》

佐野氏が自ら一次資料に当たって調べていれば、正しく「山本伸一郎」と書いたはずだ。おそらく佐野氏は溝口本を参照しながら原稿を書き、「山本紳一郎」という間違ったペンネームに何の疑問ももたなかったのだろう。

「タネ本」に誤植があったおかげで、はからずも佐野氏による盗用の事実が浮き彫りになった格好だ。

以上、合計6件の盗用・剽窃疑惑を指摘してみた。

上記で紹介した以外にも、溝口本と佐野レポートには聖教新聞をはじめとする引用文献の一致があまりにも目立つ。これはあくまで推測だが、佐野氏は一次資料の原典に自ら当たらず、溝口本を片手に資料を孫引きしながら原稿を書いたのかもしれない。

その一端が「山本紳一郎」という固有名詞の誤植の共通点にあらわれている(固有名詞であるにもかかわらず、誤植を見事にスルーしてしまった月刊「現代」編集部の責任も大きい)。

佐野氏は「週刊ポスト」(2012年1月1・6日号からスタート)で「化城の人 池田大作と創価学会の80年」という大型連載を執筆中だ(第1部が終了し、現在は連載休止中)。

「現代」での悪質な前科があるテーマをズバリ扱った連載だけに、「化城の人」にも盗用・剽窃があるのではないかと疑いたくもなる。

「週刊朝日」の「ハシシタ」が大問題とされるなか、佐野氏の取材手法や盗用・剽窃癖を検証することなく「週刊ポスト」は「化城の人」の連載(第2部)を再開して良いのだろうか。

ことによると「週刊ポスト」編集部の面々は、月刊「現代」(85年11月号)で繰り広げられた悪質な盗用・剽窃の事実を知らないのかもしれない。

「化城の人」が月刊「現代」と同じ轍を踏めば「週刊ポスト」の看板は地に堕ち、取り返しがつかないことになるだろう。

(2012年10月21日脱稿/連載第2回へ続く)

情報提供をお待ちしています

追記:「現代」の佐野眞一氏レポートには、今回指摘した以外にも溝口敦氏の著作からの盗用・剽窃があるかもしれません。「これも盗用ではないか」と気づかれた読者がいれば、メールで [email protected] まで情報をお寄せください。また、佐野氏の盗用・剽窃疑惑についての新情報提供も歓迎します。(ガジェット通信特別取材班)

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