「図書館で本を借りたらTポイント」TSUTAYAが公立図書館運営へ――Facebook市長「本の貸出履歴は個人情報ではない」

Facebook市長とも呼ばれる佐賀県武雄市の樋渡市長が新しい図書館の構想を発表。TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・ストア株式会社(CCC)の増田社長も同席し、共に夢を語った。「図書館内で雑誌や文具販売」「図書カードはTカードに移行」「本を借りたらTポイントが増える」「Tカードがあれば市民じゃなくても誰でも本を貸し出せる」という、サービス面で意欲的な試みを伴う公立図書館となるようだ。オープンは来春4月を予定。

※TカードとはTSUTAYA会員証のこと

5月4日にCCCの増田社長と共に新図書館の構想発表、その後記者会見などがおこなれた。その様子はUSTREAMでも公開されているが、要点を簡潔にまとめてみた。

まとめ

・佐賀県武雄市が図書館の運営をCCC(TSUTAYA)に委託。来年4月スタート。
・図書館で雑誌・文具の販売がおこなわれ、本を借りたらTポイントがつくという初の試み。
・雑誌の貸出はおこなわない(雑誌が痛むため)。
・年中無休365日、朝9時から夜9時までオープン。
・蔵書20万冊に倍増する。
・図書カードはTカードへ移行する予定。市民でなくてもTカードを持っていれば貸出してもらえる。返却は郵送でも可。
・セキュリティ専門家から本の貸出履歴情報はCCCへ提供するのか、との質問に「何を借りたのかという情報は個人情報ではない」と市長が会見中に語気を荒げる
・会見にはFacebook市長とも呼ばれている武雄市長とCCC増田社長が出席。
・同市では市職員が全員Twitter、Facebookのアカウントを取得し、市のサイトはFacebookへ移行中
・市長は日本Twitter学会会長 兼 日本Facebook学会会長という肩書きを持っているらしい
・現状の図書館年間運営コストは1億4500万。これを運用費としてCCCに渡す。1割のコストカットを目指す。

TSUTAYAを運営するCCCが公立図書館づくりに挑む

TSUTAYAを運営するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)が佐賀県武雄市立図書館と提携し、はじめて公立図書館運営に乗り出すことが明らかとなった。来年4月から図書館での雑誌・文具の販売やカフェダイニングを開始。さらに図書カードをTカードへ移行し、図書館でTポイントやTカードも利用できるようにする。本を借りた人へのポイント付与も検討されているという。図書館で本を借りて貯まったポイントを使ってTSUTAYAで本や雑誌を買うという斬新な使い方もできることになるのだろうか。映像や音楽コンテンツ(DVD・CD)も強化していくとの構想と「代官山のツタヤみたいにしたい」という夢が市長から語られたが、となると将来ここは「TSUTAYAに無料の本の貸出エリアがついたような施設」になるのかもしれない。

確かに利用者側からすれば便利そうに見えるこのTカードを使った図書館運営の構想だが、会見ではセキュリティ専門家の高木浩光氏から本の貸出履歴のCCC側への提供等に関するいくつかの質問が出され、市長が答えに詰まる場面もあり、さらには「何を借りたかっていうのは、何でこれが個人情報だ」との発言もあった。ふつう「誰がどんな本を借りたか」というのは個人情報そのものじゃないかと思うのだが、そのあたりを何も考えてないとしたらちょっと驚きだ。市長はそれでいいとしても市民はどうなのだろう。

セキュリティ専門家、高木氏の質問と市側の回答は高木氏のサイトにまとめられている
参考)
武雄市長、会見で怒り露に「なんでこれが個人情報なんだ!」と吐き捨て
http://takagi-hiromitsu.jp/diary/20120504.html

フェイスブック市長は個人情報をどう捉えているのか

佐賀県武雄市長は「日本ツイッター学会会長 兼 日本フェイスブック学会会長」という肩書きも持ち、市職員全員にFacebookアカウントを取得をさせた市長として有名だ。もちろんみなさんご存知の通り、Facebookのアカウントを取得するには実名を含む個人情報の登録が必須。そして市のホームページはFacebookページへ絶賛移行中だ。もちろん既存のある程度こなれた民間のサービスを使えば便利な部分も多いだろうし、自前のサイトを持つよりコストは削減できるだろうが、実名に紐付けられた情報発信のリスクについての意識は低いようだ。「本の貸出履歴は個人情報ではない」という発言がそれを象徴している。

今回の新図書館構想は、図書館でもネット・PCを活用したい人にとってはやや物足りない内容だ。ネット情報端末や、持ち込みノートPCに対する電源やネットワーク提供については言及されなかった。図書館で調べ物をしたりする際に、ノートPCを活用する人も増えてきているが、現状電源すら提供しない図書館も多い。また、データベース利用等についてはどうなっているのだろうか。

図書館で本をたくさん借りたらポイントが貯まって本が買えたり、365日夜遅くまで開館しているというのは斬新だし実現すれば便利だと感じる人も多いだろうが、図書館を使いたかったらTカード必須、というのであればCCC側の思惑だけが先行しすぎていると取られても仕方ない。そもそも本を借りたいだけの武雄市民全員にTカードが必要だというのはどうも変で、従来通りの図書カードを選択する人が居てもよいのではないだろうか。そこにこだわる意味がよくわからない。

参考

会見USTREAM中のツイート引用

・Tカード最強!!!だけど、今までは出生後申請すれば武雄市の図書カードがつくれたけど保育園児にもTカードをつくらせるのかしら・・・
・図書館の中にTSUTAYAスペースができるような感じ??
・かわいい文房具売ってくれたら近所の小学生も高校生もよろこびますね
・樋渡市長 カフェ等のものは 図書館法外の施設/サービスとして今後整理していく
・ライブ視聴中! 一度図書館を見に行ってみたいですね。 前例がない行政と企業(蔦谷書店)とのコラボで、指定管理者方式での運営&喫茶コーナー&雑誌文具販売コーナー
・コストは今まで以下で、365日朝9時から夜9時まで開館するのか。なるほどー
・武雄市民でも、郊外ではなかなか足がないから、郵送ありがたい

武雄新図書館構想発表記者会見(樋渡啓祐市長、 増田宗昭CCC社長)

質問と回答の抜粋と要約:
記者:今回指定管理者の公募をおこなっていない理由
市長:特殊な事業なので市長権限でそうする
記者:何故CCCなのか
市長:テレビで観た増田社長にシビれたため。そしてCCCのスタッフが素晴らしい。代官山蔦屋書店を地域につくりたい。
増田社長:CCCの創業理念はカルチュア・コンビニエンス・クラブという社名があらわす通り「本や映画や音楽」を手軽に楽しめるようにする会員制の組織・インフラをつくること。これを地域でやっていきたい。

記者:実際のお金の流れは?
市長:図書館の維持の部分に関しては運用費をCCCに渡す。雑誌文具販売に関しては図書館法の枠外のスペースを設けてそこでおこなう。賃料はCCCに払ってもらいつつそこで販売してもらう。

記者:市外から来た観光客もTカードがあれば本を借りられるようにするとのことだが実際の運用はどうするのか。
増田社長:郵便返却ができるように検討している。観光客が気軽に図書館へ立ち寄り、旅の途中で本を読み、郵送で返却できるような形を検討している。

※上記は会見の模様を一部抜粋して要約したものですので、実際の内容はUSTREAMで確かめてください。USTREAMの録画版

5/4 17:00 〜武雄新図書館構想記者会見(樋渡啓祐市長、CCC側担当者)

質問と回答の抜粋と要約:

記者:どのくらいの利用者増を見込んでいる?
市長:いやー……ヤマダさん、どうなんでしょうね?
ヤマダさん(市の担当者?):爆発的に増えるとおもいます。
市長:爆発的だそうです。(会場笑い)
記者:現在どのくらいの利用があるんでしょうか。
市長:34万冊ですね。まぁ、100万冊いくでしょうね。
記者:この図書館の利用は地元の方だけでは、ない?
市長:じゃないです。Tカードをお持ちの方であれば使えるようにします。第一義的には武雄市のみなさんに豊かな環境をご用意する、ということになりますが、これまでも図書カードさえ作れば市外の方にも使ってもらっていた。

記者:今のスタッフはどうなるのでしょう
市長:指定管理者がCCCさんになりますので、両者合意のもとCCCさんが(新図書館に)雇い入れるというのであればそれでOK。公務員との(給与の)差額については市の方で現状補償する。ただ、(新図書館に)そんなに数いらないよ、という場合がある。そういう場合、司書さんを学校に置きたい。

記者:雑誌の貸出をしないというのはなぜ
市長:雑誌に関してはソファーやカフェを準備して雑誌を読む環境をつくる。家で読みたい場合は購入していただく。ハードカバーの書籍と違って雑誌は傷みやすい。なのでそこは分けて考えたい。

記者:公立の図書館で本を借りたら換金性のあるポイントがつくというのは問題はないのか。
市長:前代未聞だと思います。が、1冊の本を借りたら100ポイントだったらまずいかもしれないが1ポイントならいいのでは。民間でいう販促費のようなものだと考えている。
記者:図書館法では無料で貸し出すことになっている。無料といえば無料だが、そこにポイントが付与されるということに問題はないのか。
市長:それは図書館法の枠内だと考えている。図書館で本を貸すのにお金を取ってはいけないが、渡すというのであれば問題ないし、そもそもポイントなのでお金ではない。図書館を利用しようという動機づけになればいい。

記者:雑誌や文具の販売をするということだが、地元の書店や文具にとってフェアではないのでは。
市長:これをきっかけとして切磋琢磨して欲しい。生き残ろうというのであれば他と違うことをしてもらう、ということになる。

記者:DVDやCDはTSUTAYAが持ってくるのか。市で購入するのか。
市長:そこはまだ決まってないが、市で購入するのであれば無償で貸出することになる。
記者:映画や音楽の占める割合はどうなっているのか
CCC:我々が重要視しているのは市民価値にとって一番いいものは何かということ。市民と協議して一番価値の高いものを導入したい。

※上記は会見の模様を一部抜粋して要約したものですので、実際の内容はUSTREAMで確かめてください。USTREAMの録画版

関連リンク

武雄新図書館構想発表記者会見
https://docs.google.com/document/d/1YwSZkmD5kcrO11OQY5AR9f8VDvuMLztB9RYrsY6LR6o/edit
(午前におこなわれたCCC増田社長が出席した会見。その日午後にも会見がおこなわれています)

高木浩光@自宅の日記 – 武雄市長、会見で怒り露に「なんでこれが個人情報なんだ!」と吐き捨て
http://takagi-hiromitsu.jp/diary/20120504.html

カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社のニュースリリース
http://www.ccc.co.jp/fileupload/pdf/news/20120504-Takeo-CCC-agreement.pdf

武雄市立図書館の企画・運営に関する提携基本合意について
http://www.ccc.co.jp/company/news/2012/20120504_003337.html

図書館の運営、ツタヤに委託 佐賀県武雄市 – 中国新聞
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201205040135.html

ツタヤ運営企業に図書館委託 佐賀県武雄市 – 47NEWS(よんななニュース)
http://www.47news.jp/CN/201205/CN2012050401001052.html

武雄市役所 | Facebook
http://www.facebook.com/takeocity

武雄市長 日本ツイッター学会長 樋渡啓祐(@hiwa1118) – Twilog
http://twilog.org/hiwa1118

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深水英一郎(ふかみん)

トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。

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