2010年 02月 09日
ナイの日米関係についてのご意見 |
今日のイギリス南部は朝から曇りでしたが、午後からなんと雪がチラホラ降りはじめ、一時はほとんど吹雪ともいえるような状態にまで激しくなりました。
さて、今日はちょっと古いものですが、ジョセフ・“ソフトパワー”・ナイの日米関係論の紹介を。一ヶ月以上前のものですが、アメリカの微妙なニュアンスが伝わるかと。
例の通りポイントフォームでいきます。
=====
An Alliance Larger Than One Issue
by Joseph S. Nye Jr.
●東京からみると、アメリカの日本との関係は危機に直面しているように見える。
●直近の問題は沖縄の米軍基地の移設問題であり、これは簡単な問題のようではあるが、実は長年にわたって論じられているもので、潜在的にはこの重要な同盟関係を揺るがしかねないものだ。
●私が十年以上前に国防省で務めていた時、われわれは日本に駐留している米兵四万七千人がいる沖縄の負担を軽減しようと計画しはじめた。とくに海兵隊の普天間基地は、人口の密集している宜野湾にあり問題が大きかった。
●長年にわたる交渉のあと2006年に日米両国は、2014年までに基地を人口の密集していない場所に移設し、8000人の海兵隊をグアムに移転させるという合意に至った。
●ところがこの合意は昨年の夏に民主党が政権をとってから危機に陥っており、まだ経験の浅い鳩山新首相は、選挙公約である米軍基地の沖縄からの完全撤退に向けて動きだしたのだ。
●米国防省が不快感を示したのは無理もない。なぜなら鳩山首相の決定はせっかく長年かけて至った合意をくつがえすものであり、海兵隊の予算にも大きな影響を与えるからだ。去年の10月にゲイツ国防長官は日本を訪問した時に、どのような合意の見直しは「非生産的である」として不快感を示している。
●オバマ大統領も11月に日本を訪れたが、そこでは普天間問題について政府高官同士で作業部会を設置することに合意したが、鳩山首相は自身の決定を5月まで遅らせると行っている。
●こうなると米政府側にも日本の新政府に厳しく対応しようという意見が出てくる。
●ところが鳩山首相を攻めるのはあまり賢明とはいえない。彼はアメリカ政府と、アメリカから一歩も引くなという連立政府内の小さな左翼党(社民党)に板挟みになっているからだ。また、沖縄の人々にとっても普天間の将来については議論の的である。
●最終的に鳩山氏が普天間問題についてアメリカ側の要求に従うとしても、とにかくアメリカ側は慎重かつ戦略的に対応すべきである。
●われわれの東アジアにおける長期的な戦略にとっては、普天間以外にも重要な問題がある。なぜなら日本の新政府はアメリカとの対等な同盟関係の他にも中国との良好な関係、そして東アジア共同体の創設(もちろんこの共同体が何を意味するのかは全く明確ではないが)を求めているからだ。
●私が1995年のいわゆる「ナイ・レポート」を共同で書いていた時、われわれは東アジアには日・米・中という三つの大国があり、日本との同盟関係は中国が勃興しつつあるこの地域の環境を形成する役割があるという認識から分析していた。
●この時には中国をWTOのような機関に参加させ、国際システムに組み込みつつも、将来強力になった中国が侵略的にならないように股がけ(ヘッジ)する必要があるという考えがあった。
●このレポートの一年半後の1996年に、橋本首相とクリントン大統領は日米同盟がこの地域の安定にかかせない存在であることを、冷戦時代のレトリックとは違う形で表明し、これが「1996年東京宣言」に結実している。
●この「組み込め、しかし股がけせよ」(integrate, but hedge)という戦略は、その後のブッシュ政権までこの地域における米国政府の外交政策の指針となってきた。
●今年は日米安保締結50周年であるが、両国政府はこのまま基地問題で言い争って遺恨を残したり、在日米軍のさらなる撤退につなげてしまうと、大きなチャンスを失うことになってしまう。
●中国が長期的な脅威であり、核武装した北朝鮮が明らかな脅威であるこの地域の安定を保障するのは、日本が受け入れ国として寛大な援助をしている、米軍のプレゼンスなのだ。
●日本側の政府高官たちは、自分たちの官僚的な問題を解決する際に利用できるということから、「外圧」を歓迎することもある。
●ところがここでは「外圧」は使えない。なぜならアメリカが日本の新政府に対して圧力をかけすぎると、日本国民の感情を害してしまうし、普天間の交渉で勝ったとしてもも「犠牲の大きすぎる勝利」となってしまうからだ。
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日本が受け入れ側として「思い入れ予算」を払っていることにはしっかり言及しておりますね。
ナイは普天間問題は「(海兵隊の)予算問題にもつながる」という、いわば国防省側の官僚的な問題にもあると言っていることはやはり興味深いですね。
「ヘッジ」という言葉が出てきましたが、これを日本の大戦略であると論じている学者もおりました。しかしナイの解釈によれば、これは明らかに日本とアメリカの合意の元に出てきた大戦略の案である、という風にも言えますな。
こういう記事を読むにつけ、日本の事情を理解するのも大切ですが、相手側であるアメリカの事情や悩みというものを(かならずしも同意する必要はないですが)ある程度理解することも大切である、ということを実感せざるを得ません。
さて、今日はちょっと古いものですが、ジョセフ・“ソフトパワー”・ナイの日米関係論の紹介を。一ヶ月以上前のものですが、アメリカの微妙なニュアンスが伝わるかと。
例の通りポイントフォームでいきます。
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An Alliance Larger Than One Issue
by Joseph S. Nye Jr.
●東京からみると、アメリカの日本との関係は危機に直面しているように見える。
●直近の問題は沖縄の米軍基地の移設問題であり、これは簡単な問題のようではあるが、実は長年にわたって論じられているもので、潜在的にはこの重要な同盟関係を揺るがしかねないものだ。
●私が十年以上前に国防省で務めていた時、われわれは日本に駐留している米兵四万七千人がいる沖縄の負担を軽減しようと計画しはじめた。とくに海兵隊の普天間基地は、人口の密集している宜野湾にあり問題が大きかった。
●長年にわたる交渉のあと2006年に日米両国は、2014年までに基地を人口の密集していない場所に移設し、8000人の海兵隊をグアムに移転させるという合意に至った。
●ところがこの合意は昨年の夏に民主党が政権をとってから危機に陥っており、まだ経験の浅い鳩山新首相は、選挙公約である米軍基地の沖縄からの完全撤退に向けて動きだしたのだ。
●米国防省が不快感を示したのは無理もない。なぜなら鳩山首相の決定はせっかく長年かけて至った合意をくつがえすものであり、海兵隊の予算にも大きな影響を与えるからだ。去年の10月にゲイツ国防長官は日本を訪問した時に、どのような合意の見直しは「非生産的である」として不快感を示している。
●オバマ大統領も11月に日本を訪れたが、そこでは普天間問題について政府高官同士で作業部会を設置することに合意したが、鳩山首相は自身の決定を5月まで遅らせると行っている。
●こうなると米政府側にも日本の新政府に厳しく対応しようという意見が出てくる。
●ところが鳩山首相を攻めるのはあまり賢明とはいえない。彼はアメリカ政府と、アメリカから一歩も引くなという連立政府内の小さな左翼党(社民党)に板挟みになっているからだ。また、沖縄の人々にとっても普天間の将来については議論の的である。
●最終的に鳩山氏が普天間問題についてアメリカ側の要求に従うとしても、とにかくアメリカ側は慎重かつ戦略的に対応すべきである。
●われわれの東アジアにおける長期的な戦略にとっては、普天間以外にも重要な問題がある。なぜなら日本の新政府はアメリカとの対等な同盟関係の他にも中国との良好な関係、そして東アジア共同体の創設(もちろんこの共同体が何を意味するのかは全く明確ではないが)を求めているからだ。
●私が1995年のいわゆる「ナイ・レポート」を共同で書いていた時、われわれは東アジアには日・米・中という三つの大国があり、日本との同盟関係は中国が勃興しつつあるこの地域の環境を形成する役割があるという認識から分析していた。
●この時には中国をWTOのような機関に参加させ、国際システムに組み込みつつも、将来強力になった中国が侵略的にならないように股がけ(ヘッジ)する必要があるという考えがあった。
●このレポートの一年半後の1996年に、橋本首相とクリントン大統領は日米同盟がこの地域の安定にかかせない存在であることを、冷戦時代のレトリックとは違う形で表明し、これが「1996年東京宣言」に結実している。
●この「組み込め、しかし股がけせよ」(integrate, but hedge)という戦略は、その後のブッシュ政権までこの地域における米国政府の外交政策の指針となってきた。
●今年は日米安保締結50周年であるが、両国政府はこのまま基地問題で言い争って遺恨を残したり、在日米軍のさらなる撤退につなげてしまうと、大きなチャンスを失うことになってしまう。
●中国が長期的な脅威であり、核武装した北朝鮮が明らかな脅威であるこの地域の安定を保障するのは、日本が受け入れ国として寛大な援助をしている、米軍のプレゼンスなのだ。
●日本側の政府高官たちは、自分たちの官僚的な問題を解決する際に利用できるということから、「外圧」を歓迎することもある。
●ところがここでは「外圧」は使えない。なぜならアメリカが日本の新政府に対して圧力をかけすぎると、日本国民の感情を害してしまうし、普天間の交渉で勝ったとしてもも「犠牲の大きすぎる勝利」となってしまうからだ。
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日本が受け入れ側として「思い入れ予算」を払っていることにはしっかり言及しておりますね。
ナイは普天間問題は「(海兵隊の)予算問題にもつながる」という、いわば国防省側の官僚的な問題にもあると言っていることはやはり興味深いですね。
「ヘッジ」という言葉が出てきましたが、これを日本の大戦略であると論じている学者もおりました。しかしナイの解釈によれば、これは明らかに日本とアメリカの合意の元に出てきた大戦略の案である、という風にも言えますな。
こういう記事を読むにつけ、日本の事情を理解するのも大切ですが、相手側であるアメリカの事情や悩みというものを(かならずしも同意する必要はないですが)ある程度理解することも大切である、ということを実感せざるを得ません。
by masa_the_man
| 2010-02-09 04:10
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