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在特会デモ&カウンター「観光」記

こんにちは。東浩紀です。

今回は特別編でちょっとしたレポートを。

去る9月5日、ゲンロンカフェで政治学者の五野井郁夫さんと「デモの現在と未来」と題するトークショーを行いました。会場には、在特会へのカウンター活動で有名な野間易通さんもいらっしゃり、活発な議論が交わされました。その模様はここのtogetterにまとめられていたり、またここのブログにまとめられていたりします。

さて、その会場でも述べ、また後日のツイッターでも記したのですが、ぼくはこのトークショーをきっかけに、デモや野間さんたちのアクションについて考えを微妙に改めました。そこで、まずはいちど彼らの活動を直接生の目で見なければ始まらないと思い、本日(9月23日)、登場の六本木で行われたカウンターアクションを「観光」してまいりました。

以下、その簡単な記録です。これは、あくまでも、デモのまったくの初心者が、なんとなく在特会とカウンターを見て感じたことを記した、甘っちょろい「観光」記です。観光記ですので、あえて政治的なことは記していません。その点もご了承ください。

注1

ここで「観光」というヘンな言葉を使っていることの理由については、拙著『弱いつながり』(幻冬舎)をご一読くださると嬉しいです。

ぼくはかつて、同じ理由で、福島第一原発敷地内の取材についても「福島第一原発『観光』記」というタイトルの文章を記したことがあります。そちらはいまはゲンロン観光地化メルマガ第10号で読むことができます。

注2

参考までに、Googleマップで簡単な地図を作りました。これを参考にお読みください。赤が在特会のデモのルート、青がぼくが実際に併走したルート、黄色は写真撮影のポイントです。

ただし、今回はあまり取材の準備なく行ったので、きちんとGPSデータなどをとっていたわけではありません。すべて記憶でプロットしているので、正確な場所とは違うこともあるかもしれないことをご了承ください。

注3

取材中はツイッターでもつぶやいていました。その模様はここにまとめられています。

さて、今回のデモは港区六本木の三河台公園で行われると聞いていました。そこで、野間さんたちがやっている(?)C.R.A.C.という組織(?)のtumblrによると、カウンターのひともその公園に集まるようなので、まずは六本木駅からそこに向かうことに。

ところが実際には、いきなり歩道がバリケードで封鎖されてます(地図のポイント1)。

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ノーチェックで通れるひともいたのですが、ぼくは、どこか怪しく見えたのか「なんのご用ですか」とばっちり職務質問。いま振り返ればさくっと「在特会メンバーです」とか嘘ついておけばよかったのですが、馬鹿正直に「えっと、むこうでやっているデモの、そのカウンターのほうの見学で、野間さんってひとが知り合いで」とか答えていたら、速攻で排除。だめだめ、デモ参加者しか通れないからと追い出されました(これ法的な根拠あるんですかね……)。

というわけで、いきなり出鼻をくじかれた体で呆然としつつ、ツイッターを打ちながら駅のほうに戻ると、野間さんに出会います。早速写真を撮影され、ツイッターにノリノリの姿がアップされたことで、微妙にこっそり取材しようという目論見は早くも崩れ、ぼくのなかにも覚悟が決まってきました。

#alloutwarantifasoldiers #0923smashfash #antifajp pic.twitter.com/H5lDOMqiLR

— 野間易通 (@kdxn)
2014, 9月 23

まあ、いずれにせよ在特会もヘイトスピーチも嫌いなのだから、今日はカウンタの側にたって取材するかと……。

で、正攻法で公園にたどり着けないことはわかったので、六本木通りの対岸を見ると、カウンターのひとが集まってなにかやってます。六本木交差点まで戻り横断歩道をわたり、そっちに向かうことにしました。

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で、こっちから見ると向こう側はこんな様子(地図のポイント2)。警官がこちらに向けてずらりと並んでいる、その向こう側で在特会が集会をやっているということらしいです。

この構図、やはりどうしても在特会を警官が「守っている」ように見えます。むろん、在特会こそが届け出を出しての「合法的」なデモ、カウンターは路上に勝手に集まった管理されない群衆ということで、警察がまずは警戒すべきはその「管理されない群衆」の暴走ということで、それはそれで法治国家として当然ということになるんでしょうけど、たがいの主張の内容を考えると微妙な感情がよぎります。

なお、公平を期して言えば、カウンターのほうの演説はかなり暴力的です。「おまえらこそ帰れ」の繰り返しで、汚い言葉や挑発的な台詞もメガホンでどんどん出てきます。おそらく一般の通行人からすれば、カウンターの人々も、在特会と同じく「怖い人々」という印象だったのではないかと思います。反差別や共存を訴える人々こそが中指をつきあげて絶叫というのは、なんというか、できの悪いSF映画を見ているかのような光景でもありました。

いずれにせよ、ここで対立しているのは「権力」と「市民」ではありません。市民対市民の対立がここまで暴力的に顕在化するというのは、やはりそれなりに新しい局面で、真剣に対策を考える必要があるでしょう。

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在特会とカウンターのあいだを通過する外国人満載の観光バス。彼らの目にこの光景はどう映ったのでしょうね……。

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在特会のデモが始まると、あたりはさらにヒートアップ。耳ががんがんするほどの絶叫で、在特会もカウンターもどちらのメッセージもまともに聞こえません。狂騒状態。

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デモはそのまま六本木交差点に向かいます。カウンターの目的はデモつぶし。というわけで、そのままついていこうとするのですが、当然のように警官隊に阻まれます。この種のバリケードは、今後いくども現れることになります。

このバリケードは数分すると解けたので、カウンターは駆け足でデモを追いかけます。デモは六本木交差点で左折し、飯倉方面へ向かっていました。

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ここらへんでデモの全体像が見えてきました(ポイント3)。

まず、在特会の参加者の方々は意外と年齢が高いように思いました。あくまでも個人的な印象ですが、40代あるいは50代の方々が多い。対照的にカウンターのほうは若いひとが目立ちます。ちょっと意外でしたが、考えてみれば、カウンターには明確な組織がなく参加者はみなネットでの情報をもとに集まっているのだし、のちに記すように、在特会とは対照的にそもそも小走りでバリケードを突破し絶叫し続けるような運動形態なので、これは若者にしかできないのかもしれません。男女比については、双方にあまり差があるようには思いませんでした。つまり男性中心。

つぎに人数ですが、その点については、警官がやたらと目立ち、旭日旗が派手なわりには、そんなに列が長くないと感じました。つまり意外と人数が少ない。のちに出会った五野井さんやその仲間の方に尋ねたところ、在特会側の参加者は200人くらいではないかとのこと(数えたようです)。他方でカウンターは600人は集まったのではないかとのことでした。カウンター側は、明確な主催者がおらず、組織もなにもないただの「自発的に集まった人々」なので(ですので、さきほどC.R.A.Cを紹介するときに「?」マークを挿入したのです)、正確な数字を出しようがないようですが、たしかにぼくの体感的にも、カウンターのほうが在特会よりも人数が多いようでした。

そして、おそらくは、その両者よりもぜんぜん警官のほうが多い。むむむ……という感じです。

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ちょっと上から撮影するとこんな感じ(ポイント4)。警察とカウンターがデモのボリュームを3倍ぐらいにしているのがよくわかります。

この六本木通りを歩いているときが、在特会とカウンターの物理的な距離がもっとも近づき、デモが緊張に包まれたときでした。怒号が飛び交い、挑発が相次ぎ、つかみあい寸前までいくすがたもいくつも見られます。

しかし、せっかくの休日に六本木に遊びに来ていたひとは、これはなんだと思ったでしょうね……。ちなみに、たまたまですが、ぼくはこの写真を撮影している、まさにそのビルに一昨日家族で家具を買いに来ていたので、複雑な気持ちになりました。

撮影場所のすぐ先で、ふたたびバリケードが張られ、カウンターはデモに併走できなくなります。そこでぼくたちは左折し、飯倉公園に向かいました。ここで政治学者の五野井さんに遭遇。

ついに東浩紀さん、カウンターに登場。政治学者の五野井郁夫さんと。 pic.twitter.com/ab93x20G3e

— 久保憲司 (@kuboken999)
2014, 9月 23

ここからさきは、五野井さんの解説を聞きながら併走します。

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デモは飯倉から一の橋へ向かうのですが、ここにも警官隊がいます(写真左奥、ポイント4)。ここからさきは併走できないので、五野井さんの指示に従い別ルートへ。

あたりを見回すと、同じように小走りでバリケードを回避しようとしているカウンターの人々がたくさんいます。五野井さんと、これこそマルチチュードだとかドゥルーズのいう「漏れ出し」だとか、そんな話をしながら一の橋交差点にたどり着くと……。

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やってる、やってる。

というわけで、デモにようやく追いつきます(ポイント5)。カウンターのみなさんも、まだまだついてきている——とはいえ、やはり数は少なくなってきます。

警察からすれば、組織もあり責任者もいる在特会のほうがぜんぜん安心な集団で、むしろ不定形の群衆であるカウンターの人々こそがリスクでしょうから、そんな彼らの人数をどんどん減らしていく道路封鎖はきちんと効果を上げていることになります。

ちなみに、ここらへんには在日韓人歴史資料館があります。六本木に始まり古川橋で終わるという今回のデモのルート、もしかして目的はこの施設への抗議だったのかもしれませんが、ぼくの観察のかぎりではよくわかりませんでした。資料館前でシュプレヒコールがいちだんと高くなったという声は聞きました。

ただ、実際に併走していると、バリケード突破に急がしくてそれどころではなかったりするんですよね……。

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だって、とにかく、突破しても突破してもバリケードは出てくるのです(ポイント6)。これは横道から撮影しました。撮影できるということは簡単に突破できるということなのですが、警察からすればそこで人数さえ減らせばいいので、それでいいわけです。水漏れ対策みたいなもんですね。

ところで、この写真を見るとわかるように、警察はやたらとカメラとビデオでカウンターの人々の撮影をしています。メガホンの音量も測ってます。記録にかなりの数のスタッフを動員しています。なにに使うのかは知りませんが、今回、その記録への執念にはちょっと感銘を受けました。

そして、そんなことをやっているあいだに……。

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仙台坂の入口でちょっとした小競り合いが起きて、カウンターのひとがひとり警察に身柄を拘束されてしまいます(ポイント7)。「(在特会は)帰れ」「帰れ」の大合唱だったのが、「(仲間を)返せ」「返せ」の大合唱に。

とはいえ、同行の五野井さんは冷淡で、「まあたいしたことないでしょう、さきに行きましょう」とのこと。再会した野間さんもいたって冷静で、「ああまたか」という反応でした。

どうも、このようなトラブル自体が、カウンターの群衆を拡散し自然消滅させるひとつの方法になっているようなのですね。実際、この身柄拘束をきっかけにカウンターの人々が集結した結果、肝心のデモ併走はこのあと急速に萎んだ印象でした。

で、さらに追いかけること数百メートル。もうカウンターのひともあまりいません。

そして、デモは古川橋周辺で唐突に終わり、ぼくたちがたどり着いたときはすでに静かになっていました(ポイント8)。

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写真のように、交差点付近にはやはり大量の警官隊がいます。しかしもはやなにも起きていません。

ぼくはデモというものをよく知らないのですが、終着地点ではとくに集会とかやらないものなんですかね? なんかとっても静かに、すっと解散し町のなかに消えていったのが印象的でした。そして同じように、カウンターの方々も(といっても、すでにここにまでたどり着いているひとが少数派なのですが)、総括をやるわけでも二次会を行うわけでもなく、静かに解散していきます。2時間ほどまえの、あの六本木での一触即発の喧噪が嘘のようです。

五野井さんとは最寄りの地下鉄駅まで話し込み、別れてからもいろいろ考えたのですが、それを書いたり話したりするのはまた別の機会に。今回の報告は、ここまでとしておきます。

ただひとつ、今日、数時間前に在特会とカウンターの衝突をはじめて見てきて、素人目線で思うのは、ひとことで言えば、これはやはりいまの日本人はいちど生で見たほうがいい、ということです。

みなさんいろいろ政治的な立場はあると思います。しかしやはり、さきほども書いたのですが、市民と権力ではなく、市民と市民が、イデオロギーのちがいでこんなに先鋭的にぶつかり、憎悪まるだしの暴力的絶叫をぶつけ合うという光景は、いままでの日本でそうそうなかったことはまちがいない。戦後日本のひとつの転換点が刻まれている、と思いました。

五野井さんとは、今回のぼくのこのデモ初体験を踏まえて、年内にもういちどゲンロンカフェでイベントを、という話になっています。お楽しみに。

そしてこんな「観光」報告がおもしろいと思ったかたは、ぜひ友の会に入ってゲンロンの活動を応援してください!

Notes

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