菅総理が「官僚ファシズム」への道を開かないことを祈ります

「官僚を排除せず上手に使う」などと突如言い出す始末

渡辺 喜美

 菅総理の国会答弁は最悪だった。天下りや、公務員給与削減など聞かれたくない質問についての答弁は、官僚作文の棒読み。それも早口小声で何をしゃべっているのかわからなかった。野党席からは大ブーイング。

「与党党首である総理のクビがすげ替えられたら、解散総選挙をやれ」

 というのが、もともと菅氏の持論だったはずだ。この点を私が追及すると、「参院選で勝つ自信がないからそんなことを言う」などと、まるで理屈になっていないことを口走る始末だった。

 なるほど国会論戦をやりたがらない理由がよくわかった。新内閣が誕生したのに衆参の代表質疑だけで、予算委員会は開かないという驚天動地の国会運営。高支持率のままボロ隠しで選挙に突っ込みたい意図がありありだ。

 脱小沢路線が受けているらしいが、総理も官房長官も反小沢と言われた与党幹部も、みんな小沢氏をかばいに入った。これでは国会で追及されるのは目に見えている。

 ならば、総理交代によるロスタイムを延長せずに国会を閉じてしまおう、という常識では考えられない行動に出たのである。

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 菅氏は政権交代の当初、副総理権国家戦略担当大臣であった。実はこのポストこそ脱官僚=政治主導の本丸なのだ。ところがずっと開店休業状態。政治主導が機能せず政権のダッチロールが始まった。

 鳩山氏は総理退任後、「国家戦略局の不在こそ失政の原因」と語っている。その通りだ。普天間も、予算の組み換えも、高速道路も、子ども手当ても、司令塔が機能していれば、また違った展開になっていたと思う。

 政権が変わったら、「官僚を使いこなす前に官僚を選べ」。これが鉄則である。会社をテイクオーバーして新経営陣が乗り込んでいったら、まず、最初にやることは、社内人事の刷新である。使えそうな若手を抜擢するとか、新経営陣の方針に従った人事を行う。

オポチュニスト総理

 これが民主党政権には、まるでできていなかった。自民党政権を支えた官僚を官邸も含めて居抜きで使ったのが、失敗の元凶だった。官僚機構は惰性で動くところがあり、この惰性は生半可な力では止められない。

 例えば、普天間移設にしても、仮に鳩山氏が主張した「県外・海外」を本気で実現しようとすれば、交渉当事者を総入れ替えしなければ、できるわけがないのだ。今まで、辺野古沖で進めてきた人たちに、突然、県外・海外と言ったところで、「そりゃ無理です」となるに決まっている。

 だからこそ、官僚機構にグリップをかけるのが、国家戦略局なのだ。霞が関の「戦略は細部に宿る」世界を熟知した裏方スタッフを集めることなく、徒手空拳で官僚機構の縄張りや惰性と戦っても勝ち目はない。鳩山氏はナイーブであったが、問題の所在だけは理解したのだろう。

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