ドンキが「宅配ロッカー」?
「東京オリンピック開催期間中は、ネット通販の利用を控えてほしい」――。東京都オリンピック・パラリンピック準備局スタッフが、講演でこのように述べたことが波紋を広げている。
ネット通販の拡大に伴う運送業者の負担増が、いまや限界に近いのは誰もが知るところだが、SNSでは「そこまでしないと、大会運営が危ういのか」と呆れる声が少なくない。
ただ行政の懸念は、理解できなくはない。「再配達」という仕事が生んでいる膨大な人的・時間的なムダは、もはや社会問題と言っても過言ではないからだ。配達する運送業者の側だけでなく、荷物を受け取る利用者の側にも、多大な負担を強いている。
そうした現状に一石を投じる試みが、意外なところから出てきた。
7月9日、ドンキホーテホールディングスは新サービスの試験運用開始を発表した。リリースには「スペース創造による社会問題への対応を開始します」とある。なんと、「宅配ロッカー」と「フリースペース」を提供するビジネスに乗り出すという。
当面は同社の既存店を改築して展開し、この冬までに4店舗での運用開始を計画(1号店は千葉県成東のMEGAドン・キホーテ ラパーク成東店内)している。将来的には、同社の既存店に限らず、単独での展開も画策しているようだ。
「ユックス(Yutori Experience)」と名付けられたこのビジネスは、これからの消費者行動と物流の未来を見据えた、優れた戦略を内包している。
メルカリでの売買にも使えるように
「ユックス」では、大量の宅配ロッカー設置を計画している。自宅受け取りではなく、「ユックス」での受け取りにすることで、消費者は宅配ドライバーが来る時間を気にせず、好きな時間に商品を受け取ることが可能となる。
また、運送業者の側も時間を気にする必要がない。夜間配達が中心となれば、昼間の車の渋滞緩和につながる。直接玄関先まで持っていって消費者と会話する必要もないため、移民、外国人などドライバーの担い手の裾野を広げることが可能になる。
不特定多数の人が使用する現在のコインロッカーは、もはや性善説を前提とした運営が難しくなっている。家電などの不用品を引き取ってもらう費用が高くなったため、コインロッカーに300円で放置し、そのまま投棄される事例も少なくないと聞く。
匿名でないロッカーの設置という意味でも、「ユックス」の試みは意義が大きいのだ。
さらに興味深いのは、ドンキホーテがこのサービスで、日本の小売業で初めてブロックチェーンの使用を視野に入れている点である。
ドンキホーテは、単にEコマースの商品受け取りだけでなく、消費者と消費者を直接つなぐサービス(例えばメルカリなど)にも、「ユックス」の宅配ロッカーを使ってもらうことを検討している。
商品を売りたい人がロッカーに商品を入れ、鍵をかける。それを買い手に伝えれば、バーチャルなC2Cの売買が成立する。あるいは、衣料品や日用品のレンタルにおいても、業者と消費者が顔を合わせることなく、ロッカーを媒介してやり取りができる。
コストが低く、個人情報漏えいのリスクが小さいブロックチェーンを使うことで、消費者と消費者、消費者と事業者といった直接的な取引がより盛んに行われる。つまり、特定の事業者を介すことなく、商品やサービスの分散型のやり取りが生まれることとなる。
これが実現すれば、宅配ロッカーは「スマートロッカー」へと進化する。
だが、この「ユックス」に秘められた本質的な価値はそれだけではない。筆者が注目したいのは、宅配ロッカーの「面展開」が生み出す、社会的価値である。