「夫婦別姓」をめぐる裁判の価値と危惧
「夫婦別姓」を選べる法制度がないのは憲法に違反しているとして、「サイボウズ」の青野慶久社長ら男女4人が国に計220万円の賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が4月16日、東京地裁(中吉徹郎裁判長)で開かれ、国側は争う姿勢を示した。
「社会的地位のある」「男性」が、夫婦別姓を是とする裁判を起こし、問題提起を行なったことはしたことは、社会に大きなインパクトを与えた。
「夫婦別姓」を望む人々だけでなく、この問題に今まで関心を持っていなかった人々へも新たに問いかけができたという点でも評価したい。
今日は東京地裁で陳述しました。国側には女性の姿も。国側の人たちも争いたくないだろうに..。https://t.co/ItqiJVWTzY https://t.co/ItqiJVWTzY
— 青野慶久 (@aono) 2018年4月16日
しかし、一方で危惧も持つ。
その主張する内容を詳しくみていくと、果たしてこれを「夫婦別姓」と呼んで良いものか迷うのだ。
実際、青野氏らが求めるのは、身分に関する実体法を規律する民法ではなく、あくまで形式的な側面、手続きを規律する戸籍法の改正。
「婚姻時には夫婦のどちらかの姓を選ばなければならない」ことに対しては「是」とする。肝心な部分はなんら変わらないのだ。
婚姻するには、夫か妻かのどちらかが今まで生きてきた名前を一旦であったとしても変えなければならない。「夫婦同姓」が強要されたのちに、一方が新たに旧姓を名乗る手続きを取る。
「どちらかを選ばなければならない」という苦痛は続く。一旦それを越えさえすれば、旧姓に戻ることができ、それが法的に担保されたものとなれば利便性は向上するはずという主張には一理あるようにも思える。
だが、そもそもその苦しみは本来なくて当然なもの。
青野氏の「別姓訴訟」に対して賛意を示し、応援している人たちが本来、望んでいるものとは別物かもしれない。

青野氏訴訟が日本会議の提案を実現?
こうした危惧は、青野氏側が「夫婦別姓」反対である日本会議にアプローチしたことでさらに濃くなる。
「日本会議の提案内容が実現される訴訟です。ご協力ください」
この訴訟の担当弁護士・作花知志氏が日本会議に向けたメッセージである。
青野氏訴訟が「民法改正ではない法整備」という点、また「日本会議がかつて行なった署名での請願運動と類似点があること」を伝え、日本会議を訪問したいとの交渉を行なったとの報告が青野氏の支援者あてのメーリングリストに流れてきたのは2018年4月11日のことだった。驚いた支援者たちも多かったという。