虐待や障害で親が手放した子供に差し伸べられる「救いの手」

育てられない母親たち【17】

虐待、障害、病気などでわが子を育てられずに手放すことになった母親たち。

それがどれだけ多いのか。児童相談所に寄せられる年間の虐待相談件数が12万件を超えていることからも容易に想像できるだろう。日本には、生みの親の元で暮らせない子供たちの数は4万人に上るといわれている。

親が養育困難に陥るのは、母親だけの責任ではない。母親が育った養育環境、夫の責任放棄、病気や事故といった偶発的な出来事。そうしたことが絡み合って、育児困難という状況が生まれるのである。

本連載では多くの事例をもとに、養育困難がどのようにして起こるかを見てきたが、今回は親が手放した子供たちがたどる道に光を当ててみたい。

その一つが、特別養子縁組だ。

現在、厚生労働省は2018年度から特別養子縁組を増やすことを目的として、斡旋している民間事業者への支援をはじめることになっている。

ここで救われる命とは何なのか。

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3歳までに育ての親が必要

特別養子縁組とは、実親が何かしらの理由で子供を育てられない場合、裁判所を介して法的な親子関係を解消し、別の夫婦(養親)に実子として育ててもらう制度だ。端的に言えば、実親は実親としての責任を放棄し、代わりに別の夫婦が実親にほぼ近い権利を持って養育するということである。

特別養子縁組の斡旋をしている団体「Babyぽけっと」の岡田卓子は言う。

「女性たちの中には、風俗で働いていて妊娠したので子供を育てられないとか、すでに子供に虐待をしていて次に生まれてくる子供にも虐待をするに決まっているという人たちがいます。通常であれば、彼女たちは中絶という選択をしますが、お金がなくて病院に行けないなど何かしらの理由で産まざるを得ないケースがある。

そういう子供たちを最初からずっと施設に入れておくのはかわいそうですよね。それなら、子供を欲している夫婦に育ててもらった方がいい。特別養子縁組は、そのようにして赤ちゃんを養親に育ててもらうための制度でもあるのです」

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子供は親とのかかわり合いの中で、健全な精神を身につけていくとされている。人に愛情を注ぐことの大切さを知る、相手の気持ちに共感する、信頼関係を構築する必要性を認識する……。そうしたことを学ぶことで、社会で円滑に生きていけるようになるのだ。

ところが、親が子供に対して虐待を加えると、そうした精神の発育が妨げられてしまう。人を信頼できなかったり、痛みを想像できなかったり、自己否定感に苛まれたりといったことが起こってしまう。

このようなことから、子供を不健全な家に留めておくより、早いうちに引き離した方がいいと考えられている。だが、その子を施設に入れればいいのかといえば、必ずしもそういうわけではない。

施設には、親の代わりとなる人間がいないのだ。子供の精神が健全に育つには、三歳までに親、あるいは親代わりとなる人間が必要とされている。その対象と安心・信頼できる関係があるからこそ、健全な精神を育むことができるのだ。

だが、たとえば乳児院には、面倒を見てくれる「職員」はいても、本当の意味で親代わりとなる存在はいない。職員は一人で大勢の子を同時に世話し、シフトによって数時間おきに入れ替わる。子供自身も3歳くらいになれば乳児院を離れて、児童養護施設に移らなければならない。

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