今年も「保育園に入りたい」と保護者達が声をあげている。もちろん待機児童の量的な問題は解決することが望ましい。でも、その過程で絶対に犠牲にしてはいけないのが「保育の質」だ。
「保育士ががんばります」という対応
今月、昨年3月11日にキッズスクウェア日本橋室町で亡くなった甲斐賢人くんの事例について東京都が設置した検証委員会の報告書(http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/03/08/08.html)が公表された。この中で、検証委員会は次のように結論づけている。
・ 経験の少ない職員構成
・ 園職員だけの閉じられた中で工夫して対応せざるを得なかった状況であったこと
・ 職員が特に担当を決めずに全園児にかかわるという体制
・ 低年齢児に対しては午睡対応も含めて丁寧さに丁寧さを重ねて保育をしなければならないという共通認識やリスク意識の薄さ
・入所後まもない当該児を集団から外して別室に寝かせる対応を園の方針とし、別室にいる当該児の様子を把握する体制が無かったこと
・SIDSや窒息のリスクに関する知識、応急処置に関する知識・経験不足
などの問題点や課題が見られた。
実は、この事故の後、私はキッズスクウェアの他園に通わせる保護者何人かに取材をしていた。その中で、運営会社であるアルファコーポレーションの対応に不安を感じて再三にわたり提案と交渉をしていた夫婦がいる。
夫婦は、当初日本橋室町の事件の後の対応をアルファコーポレーションに尋ねたときのことについて「保育士が頑張って5分おきにチェックしますというような、ブラック企業の根性論のようなことを言われた」と話す。
「現場の先生方は非常に頑張ってくれていると感じ、先生方の負担を増やしたいわけではない」と伝え、問い合わせと提案を続ける。その後、5分ごとにアラームを鳴らす、意見箱を設置するなどの仕組みの導入がされたというが、本部への不信感はぬぐえずにいる様子だった。
賢人くんの事故後の他施設での対応についてアルファコーポレーション側に問い合わせると、5分おきの呼吸チェックなどについては「もともとそのように運用していたが、取り組めていなかった施設があったことが判明したので、再度チェックしますということで東京都にも報告し、視察が入った」との説明だった。
日本橋室町以外にも「取り組めていなかった」施設が何か所あったか、視察は何か所入ったのかについては「コメントを差し控えさせていただく」とのことだったが、「運営会社そのものに対して東京都からの指導ということで、現在では全施設について改善している」と説明している。
同社の運営体制については、検討委員会の報告書からも本部が「保育の質」を守るための体制が仕組み化できていなかった問題点がうかがえる。「保育の質」を改善する上で、運営側の役割は大きい。親たちは、決して現場の保育士を疲弊させたいわけではない。