とっくに限界は超えている
2025年には、日本国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となる、超・超高齢化社会――。世界でも類を見ない未来が待ち受けるいま、介護政策についての是非が問われている。
以前のルポでお伝えした通り(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/47873)、介護を取り巻く現状は、「職員の質の低下」に加え、職場のブラック化やモンスター親子の出現、介護報酬が減額されるなどの問題が山積し、崩壊寸前のところを何とか持ちこたえている状況だ。
もはや「幸せ」や「豊かさ」といった福祉の理念は影もなく、なかには生き地獄のような現実を暮らしている者もいる。
そんな限界寸前の状況にある介護業界にさらなる追い打ちがかかる。厚生労働省が現役世代並みの所得がある高齢者を対象に、2018年8月から介護保険の自己負担費用を現在の2割から3割に引き上げる方針を固めたのだ。
現在の介護保険料の総額は、10年間で2.5倍以上に膨れ上がり、おおよそ年間10兆円。2015年4月に介護報酬を2.27%に減額した上でのさらなる改正だ。
限界を超える人手不足に加え、容赦のない報酬の減額によって、ただでさえ介護業界はパニック状態に陥っている。そんな混乱の渦中に介護サービス利用の自己負担3割という爆弾が落とされる。
介護保険は2000年の制度開始以降、利用者の自己負担費用は1割という時代が長く続いた。現政府が進めている制度縮小の始まりは、2015年4月の介護保険の改正からで、介護事業所の経営の根幹となる介護報酬が大幅に減額された。
この改正により特にあおりをくらったのは、利用定員が10人以下の小規模デイサービスで、平均利益率を超える約10%の報酬減となり、経営の危機に瀕した事業者が続々と閉鎖に追い込まれた。
残酷な牙は、介護サービスを受ける高齢者にも向けられている。介護保険による介護サービス利用料が従来の1割負担から、2015年8月に年収280万円以上は2割負担にアップ、さらに次期改正では年収383万円以上は3割負担となる。
これまでわずかな費用で受けられたサービスの急な値上がりによって、介護施設の利用をやめてしまう高齢者も出てくるだろう。しかも、この改正は単なる通過点であって、年収制限はいずれ撤廃され、最終的に介護保険は一律3割の自己負担、もしくはそれ以上となる可能性が高い。
こういった、介護保険の財政が逼迫するなか、厚生労働省は市区町村に対して「地域包括ケア・総合事業」を促している。
認知症高齢者の増加が見込まれる2025年を目前に控え、重度な要介護状態になっても、住み慣れた場所で生活が送れるよう、地域で認知症高齢者の生活を支えるという趣旨で考案されたこの施策は、「高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的」という理念を謳っているが、実際のところは【要支援1, 2】、【要介護1, 2】の高齢者を介護保険制度から切り離す施策だ。
要するにお金のない高齢者には介護保険は使わせず、お金のある高齢者からは介護保険の自己負担アップで貯蓄を吐かせる。
簡単にいえば、地域包括ケアや総合事業を謳って、介護が必要な軽度高齢者を介護保険から切り離し、市区町村に面倒を看させるという事業なのだ。地域包括ケアは、財政を圧迫する介護政策を国が市区町村に押し付けたという敗戦処理の色が濃い。
あおりをくらう軽度要介護者
では介護報酬の自己負担アップ、軽度高齢者の切り捨てで、なにが起こるのか?