2016.11.22

この国の年金制度はもう限界? 与野党はいつまで茶番劇を続けるのか

いったい誰のための政治なのか

年金をめぐる与野党の茶番

国民が受け取る年金額を減らす「マクロ経済スライド」強化や、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の組織見直しを盛り込んだ「国民年金法等改正案」(以下、年金法案)を巡って、与野党が茶番を繰り広げている。

政府・与党が、将来の年金額激減のリスクを伏せて、「制度の持続」に必要な改正だと虚ろな大義を掲げれば、対する野党は、年金の世代間の公平を無視。同法を「年金カット法案」と呼び、受給者の不安を煽る、という具合だ。客観的に見れば、双方が無責任な我田引水の議論をしていることは明らかだろう。

むしろ、歴代政権がこれまで約束してきた「十分な額」の年金を放棄する以外に、「年金」制度を維持する方策がないことを率直に情報開示すべきである。そして、老後の暮らしを守るために自助努力する必要性が増している事実を明らかにすることこそ、国政を担う政治家に期待される役割ではないだろうか。

日本の年金制度は、“お役人商法”のリゾート施設経営が失敗して巨額の積立金を食い潰した「グリーンピア」問題や、ずさんな年金の記録管理が問題になった「消えた年金」騒動の反省から、2004年に「100年安心」のキャッチフレーズを掲げて抜本的な制度改革を目指した。だが、ほとんどはかけ声倒れで、客観的評価は地を這うような低空飛行らしい。

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その深刻な実態を明かにしたのが、米、カナダ系のコンサルティング会社「マーサー」が先月末公表した『グローバル年金指数ランキング』だ。それによると、日本の年金は、調査対象になった27カ国との国際比較で26位と、前年調査(25カ国中23位)より3ランク後退した。

前年は日本より下位だった韓国とインドに抜かれたほか、今年から加わったマレーシアの後塵を拝した。日本より下位は、今回から対象になった最下位アルゼンチンだけという状況だ。トップは5年連続デンマークで、オランダ(2位)、オーストラリア(3位)、フィンランド(4位)、スェーデン(5位)が上位に顔を出している。

グローバル年金指数ランキングは、年金制度関連の取り組みを指数化、それを合算して算出する。老後の生活に十分な公的年金が支払われるか(十分性)、給付に必要な政府債務が妥当な水準に収まっているか(持続性)、制度見直しが円滑に行われる仕組みがあり、透明性が担保されているか(健全性)などが主な調査対象という。

 

マーサーはリリースで、あえて日本の評価が低いことに言及して、「年金給付による所得代替率が低いこと」「少子高齢化に伴い高齢者人口割合が増加していること」「平均余命の増加により公的年金の期待支給期間が長くなっていること」「さらには政府債務残高が大きいこと」などを原因とした。

票狙いのご都合主義

それでは、日本の公的年金の現状と、政府・国会の対応を確認してみよう。制度のベースは「賦課方式」と呼ばれるもので、現役世代が払った保険料を、その時点の年金受給者(高齢者)に対する支払いに充てる仕組みだ。

保険料は、2004年の制度改正で、2017年までに国民年金の保険料を月額1万6900円、厚生年金の保険料率を18.30%に引き上げるものの、その後は保険料収入の範囲内に給付を抑えることで、保険料は上げないことになっている。天井知らずで保険料が上がり続けて、現役世代の生活を脅かすことがないようにという配慮とされている。

2004年の制度改正では、受給者が給付水準の突然かつ大幅な引き下げに戸惑う事態が起きないように、冒頭で触れた「マクロ経済スライド」が初めて導入された。あわせて現役時代の所得の何割に相当する年金が貰えるかを示す「所得代替率」で、当時の59%から50%近くまで下げる方針も明確にした。

ところが、歴代の政権で政治的配慮が働いた。実際にマクロ経済スライドが発動されたのは2015年の一度限りだ。年金受給者の票を狙ったご都合主義が罷り通ってきたのである。積み立てておくべき資金のバラマキによって、直近の所得代替率は62.7%に跳ね上がった。

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