いまも解けない謎
原発再稼働の慎重派が劇的な勝利を収めた新潟県知事選(10月16日投開票)には、いまも解けない謎が残っている。事前に圧勝するとみられていた泉田裕彦知事(当時)が、突然立候補を辞退した理由だ。
告示を約1ヵ月後に控えての出馬辞退は何の前触れもなく、一報をキャッチした地元マスコミは騒然となった。
出馬を辞退した理由について、泉田氏は「県の第3セクター事業をめぐる報道で、地元・新潟日報が誤報を繰り返し、訂正を申し入れても黙殺される。私が候補者でいると、知事選で本来議論されるべき原子力防災などが争点にならない」などと説明した。しかし、その出馬辞退理由を額面通りに受け止めた人は少ない。
私は泉田氏の真意を聞きたいと思い、9月初めから、新潟市内にある県知事公舎や東京都内で計5回7時間にわたり泉田氏にインタビューし、新潟県内の関係者にも取材した。
立候補をとりやめた背景に何が渦巻いていたのか。取材を始めた当初は口が重かった泉田氏も、新知事への引継ぎをほぼ終え、新たな新潟県政がスタートしたいま、少しずつ本音を吐露し始めた。
「川に浮かびますよ」
――突然の出馬辞退について、いまでも疑問を抱いている有権者は多いと思います。そもそも、立候補を辞退するのではなく、候補者として街頭に出て、新潟日報の報道の問題点や不満を直接有権者に訴えればよかったのではありませんか。
「県内で圧倒的なシェア(6割、約43万部)を持つ新潟日報の前では無力ですよ。県の第3セクター問題をめぐって、新潟日報の読者投稿欄に『県は説明責任を果たすべきだ』という趣旨の投稿が載ったので、すぐに県としての返答を新潟日報社に出した。でも、その返答は黙殺されて掲載されない。以降、誤った情報が載るたびに新潟日報に訂正を申し入れても対応しようとしない」
…と、ここまではどこかで読んだ話である。泉田氏は京大法学部卒の理論派。そう単純な答え方はしない。
深く突っ込んだ質問をすると、口を開きかけて「あっ、これはまだ言わないほうがいいな」と笑い出したり、「これ以上話す必要ありますか?」などと言ったりして、口が堅い。なかなかの「聞き手泣かせ」だが、ニュアンスや表情の端に真実が潜む。
――新潟日報が県からの申し入れを黙殺するというのは、確かにアンフェアな印象を受けます。
「この報道で知事の首を取る、という企てが新潟日報にあった、と他の報道機関の人から聞きました。報道機関がプレーヤーになってはいけないと思います」
――出馬撤回の理由は新潟日報との対立がすべてですか。
「9割は、そうですね(ニヤッと笑う)」
――ということは「残りの1割」があるんですね。
「……」
――「1割」の中身は何ですか。
「いろいろありました……(天井を見上げる)。ある報道機関の人が、取材先から『これ以上取材するとドラム缶に入って川に浮かぶよ』と警告を受けたという体験談をしたあと、『知事も気をつけてくださいよ』と言われたこともありました」
――物騒な話ですね。
「知らない車にずっとつけられたこともありました」
――なにか脅迫めいていませんか。
「誰がしたことかわかりませんから、確定的なことは言いません」