「自分探しをするな」「ポジティブがよいとはかぎらない」「強くなるには弱くなれ」……世界一優秀な学生が集まるハーバード大学で、いま熱狂的な人気を誇っているのが「東洋哲学」講義である。なぜ彼らは孔子や老子に惹かれるのか?
この講義のエッセンスをまとめた話題の本『ハーバードの人生が変わる東洋哲学』(マイケル・ピュエット、クリスティーン・グロス=ロー著、熊谷淳子訳、早川書房)より、その冒頭部を特別公開!
はじめに
孔子、孟子、老子、荘子、荀子。よく聞く名前もあれば、あまりなじみのない名前もあるかもしれない。
一人は、官僚出身の師匠で、小集団の弟子の養成に生涯を捧げた。別の一人は、各地を遍歴して諸国の君主に遊説した。死後、神格化された思想家もいる。古代の思想家たちの生涯や著述は、今のわたしたちの目には漠然として、現代の生活とかけ離れているように見える。
なんといっても、2000年以上も前に生きていた中国の思想家が、生きることについてわたしたちにいったいなにを教えられるというのだろう。たとえ古代の思想家に思いをはせることがあったとしても、思い浮かぶのは、調和や自然について害のないありきたりのことをとうとうと弁じる泰然自若とした賢人くらいにちがいない。
一方、今日のわたしたちは、伝統から解放された現代的で活発な生活を営んでいる。わたしたちの価値観、道徳観、科学技術、文化的な前提は、古代の思想家とはまったく異なっている。
では、もしこう聞かされたらどうだろう。
それぞれの思想家が、どうすればより善良な人間になり、よりよい世界を築けるかを考えるうえで、直観とは根本から食いちがう視点をもたらしてくれるとしたら?
思想家たちのことばと真摯に向き合うなら、古代中国のすばらしい文言に込められた思想の力によって、きみの人生が一変するとしたら?
じつは、これこそがこの本の中心テーマだ。わたしたちとよく似た問題と格闘してきた古代中国の思想家の教えは、よい人生を送る方法について斬新な視点をもたらしてくれる。