
売上27兆5000億円。営業利益2兆8000億円。日本では圧倒的、世界でも有数の大企業であるトヨタ。ではなぜトヨタはこれほど強いのか? 新著『トヨタの強さの秘密』で、日本ではほとんど語られてこなかったその謎を明かした酒井崇男さんにインタビューする。
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意外と知られていないトヨタの強さの理由
Q:トヨタが強いのは、数字を見れば一目瞭然で日本企業の中では圧倒的。でもたしかに「なぜ強いの?」と言ったときに、いままで正面から語られてこなかった気がします。それを本書ではトヨタの強さは「製品開発」にあると言い切りましたね。逆になぜいままで本書のような本がなかったのでしょうか?
酒井 今回の本のタイトルの副題は、「日本人の知らない日本最大のグローバル企業」となっています。そこで早速SNSの知り合いから、「トヨタって本当にグローバル企業なの?」という質問がありました。変な話ですがトヨタに関しては、まずはそこから説明しなければなりません。
トヨタは27兆円売上、3兆円弱の営業利益、国内生産400万台海外生産600万台で、国内生産のうち半分は輸出です。つまり総生産台数1000万台のうち80%は海外市場向けに製造・販売しています。日本人が買っているのはすでに全体の20%に過ぎないのですよね。またトヨタ本体の社員数はすでに日本人よりも外国人のほうが多い。
こういう数字を見れば、創業者の孫の豊田章男社長が「MADE BY TOYOTA」と言い始めた意味がわかると思うのです。
ただ、トヨタやトヨタ車というと日本ではあまりに身近すぎて、グローバル企業という感覚がないのかもしれません。日本人の生活に溶け込んでいますしね。もちろん、これは何も日本に限った話ではありません。実際、日本だけではなく、米国人はトヨタは米国の会社だと思っていたりする人もいるほど、米国社会にも溶け込んでいます。
米国人の中には、「トヨタはもとは日本の会社かもしれないが、米国人のニーズにあったクルマを米国で米国人が作る米国の会社だ」と自慢している人も最近ではよくいます。圧倒的に強い理由として、まずはこうした世界の人達のニーズに適合したクルマをトヨタは提供しているということはわかりますよね。
ではトヨタはなぜ強いの? というと、日本国内では、だいたいTPS(Toyota Production System:トヨタ生産方式)や営業力の強さを挙げる人がいまだにほんどなのではないでしょうか。
その理由として、工場の話は目で見てわかる、あるいはわかった気になりやすい世界ですし、営業はさらにわかりやすい。実際、書店に行くと売っているトヨタ本は、ほとんどがTPSに関するもの、つまり工場の話です。例のごとくカイゼン・カンバンとか5Sとか自働化とかの話ですね。
しかし、少し考えてみればわかると思うのです。TPSと日本で戦後発達したQC(工場内での品質管理)のセット、つまり「TPS+QC」は、いまや世界の常識となりました。TPS+QCは米国、中国、韓国はもちろん、メキシコでもブラジルの工場でも立派にやられている。
TPS+QCこそがかつてメディアがMADE IN JAPANと呼んでいた工場内でのノウハウですが、それはいまではフォードでもマツダでも米国のGMでも韓国のヒュンダイでもしっかりやられている。程度の差はもちろんあれ、本質的な差は工場では生まれない時代になっています。TPSはやっていなければ論外である、グローバル競争に参加する資格すらないという種類のものです。
またトヨタは国内の営業がしっかりしているという人もいますが、前述のようにトヨタ車はすでに80%が国外で販売されています。海外でもトヨタの営業はもちろんしっかりやっているはずですが、そういう意味では競合他社だって負けずに営業には取り組んでいる。
では、なぜ相変らず「トヨタ」だけが世界で圧倒的に稼いでいるのでしょうか?