松浦弥太郎【前編】クックパッドの高い技術を持った人たちに肩を並べられるコンテンツをぶつけてみたいと思った
「くらしのきほん」を伝えるメディア
佐々木俊尚(以下、佐々木) 求人情報しかでていないので、非常に気になっているんですが、クックパッドで松浦さんはどんなメディアを作られるんですか?
松浦弥太郎(以下、松浦) クックパッドでどんな役に立てるのかな、どういうメディアを作れるのかな、と思ったときにやっぱり僕は暮らしにかかわること。暮らしは楽しいんだよ、ということを伝えたくて『暮しの手帖』を作ってきたし、いまもそれは変わらないんです。
それをメディアとしてどう表現するか、すごく考えました。暮らしの一番楽しいことってなんだろう、と思ったときに浮かんだのが「基本」だったんです。世の中はいま、応用や工夫にあふれ、みんな基本は知っているよね、というところでニュースやHow toがある。
僕自身は、基本が一番楽しい。基本というのは何度も繰り返し行うことで磨かれていく、そこが楽しくて、飽きないんです。それを紙媒体でも伝えてきたけれど、まだまだ伝えきれていないし、もっと伝えたいコンテンツがあるので、ウェブメディアという媒体を使って挑戦しています。
佐々木 どんなコンセプトになるのでしょうか?
松浦 タイトルは「くらしのきほん」。暮らしとは楽しくて、うつくしくて、おもしろい、こんな素晴らしいものはない、ということを伝えていきたいと思っています。
50歳を前に新しい挑戦をしたい
佐々木 ウェブメディアははじめてですよね? それは、紙の限界を感じられたということですか?
松浦 いや、紙の限界についてはまったく考えていないです。それはひとつの文化の変化の仕方であって、自分の進路を決める、ということには影響しません。
それよりも自分自身が49歳になって、ふと、これから自分はどうやって生きていくのか、暮らしていくのか、仕事をしていくのかを考えたときに、無性に新しいチャレンジをしたくなったんです。
紙の世界で新しいチャレンジをするという選択もあったけれど、自分たちの暮らしのなかで日々触ったり、道具として使ったり、親しく感じているものにインターネットがある。でも、自分自身がインターネットのいちユーザーであるだけで、作り手について何も知らなかった。なぜ自分はそのなかにいないのだろうか、というすごくわがままな感情が湧いてでてきたわけですね。インターネットの世界で新しいチャレンジをしたい、見たことのないものを見たい、と強く思ったんです。
佐々木 大事なのは「くらしのきほん」を人に届けることであって、その手段ではない、と。
松浦 はい。『暮しの手帖』の編集長を僕は9年やったんですが、やりすぎたと思っているんです。雑誌の編集長は5年くらいでリフレッシュしていかないと鮮度が落ちていくので、そこに対する危機感も自分のなかにありました。