メディアも、自動車会社も・・・権力者の意向を「忖度」する人間が出世していくという怖さ
元経済産業省官僚の古賀茂明氏のテレビ朝日「報道ステーション」の降板(古館キャスターは降板ではないと言っている)や、NHK「ニュースウォッチ9」の大越健介キャスターの交代がネットなどのニュースで話題になっている。
その報じられ方や、SNSでの意見の拡散のされ方を見ていると、官邸からの圧力があったのか否かに焦点が集まっている。
権力者の意向を忖度する
筆者は23年間、報道に携わる仕事をしてきたが、権力者から圧力があったのか否かを証明することは容易ではないと思う。しかし、今回の場合は、長年記者をやってきた者の「直感」として、権力側から何らかの「圧力」が影響しての降板や交代であると思う。
一般読者の方は、「圧力」と聞けば、たとえば官邸サイドから「あのコメントやニュースの報じ方はけしからん」といったような直接的なプレッシャーがあったのではないかと想像するだろうが、20年以上、報道の現場にいて、現場に見える形であるいは聞こえる形で露骨に「圧力」がかかってくることはほとんどない。多くの場合、それは「忖度(そんたく)する」ことから生まれている。「忖度」とは、人の気持ちを推しはかることである。
朝日新聞勤務時代、筆者の場合は、スポンサー企業を批判したくてもできない時に文句を言うと、「大人になれよ」という表現でよくかわされた。他の記者がそう言われているのもよく見た。この「大人になれよ」も「忖度しろ」という意味に近い。
その「忖度」することが、問題である。今回のケースは、官邸の意向を「忖度」した結果、起こったことだと思う。取材を通じて得た情報や、それを通じて醸成された意見を活字や映像で表現するのではなく、権力者の意向を忖度しながら発信されるものは、本来のニュースではない。
ニュースとは、読者の知る権利に応えるためのものであり、今社会で何が起きているのか、権力はどこに向かっているのかを、たとえ権力者に都合が悪いような話でも率直に伝えるべきものである。一般論として社会は「右傾化」し、中国や韓国を叩くニュースが「売れる」と言われる。こうした「世論」に配慮してニュースを作ることも「忖度」することに含まれる。