2015.01.25

「元民主議員」を抜擢した人事戦略

鈴木寛氏の公式ホームページより

下村博文・文部科学大臣が、大臣補佐官に鈴木寛氏を抜擢した。下村大臣たっての希望だった人事というが、「すずかん」の愛称で知られる鈴木氏といえば元民主党議員。確かに教育行政に通じてはいるが、対立政党の出身者を登用する異例の人事といえる。この人事になにを見るべきか。

新聞を読むと、「政府は(1月)6日、方針を固めた。近く閣議で了承する」とあたかも突然に出てきた人事案のように書いている。しかし実は、鈴木氏は昨年10月7日に文部科学省の参与に就任している。

当時、下村大臣は起用理由について、「鈴木氏は民主党政権で副大臣でしたが、党派を超えて、教育やスポーツ、文化に最も精通された方だと前から高く評価していた」と述べ、
「鈴木氏には、重要施策のうち大学入試改革などへの協力をお願いした。大学入学試験を変えるということは、高校以下の学習指導要領の抜本的見直しにもつながる。フリースクールや不登校対策への対応などにも参与として参画していただきたい」としていた。

今回の補佐官人事はその流れである。鈴木氏は元通産官僚であるが、政治家時代の客員教授を含め、18年間、大学の教壇に立っている教育のスペシャリストである。表面的に見れば、適材適所として、有能な人材の活用である。

ただし、その背景には、巧妙な自民党の民主党つぶしの戦略も透けて見える。

安倍政権になってから、安倍首相の音頭によって、本来左派政策である雇用対策としての金融政策が取り込まれた。その結果、安倍政権は、就業者数を民主党時代とは比較にならないほど伸ばし、政労使の三者協議において民主党のお株を奪う賃上げ要請を行うまでに至った。

 

ここにきて、教育分野でも、民主党の理論的支柱であった鈴木氏を取り込んでいるとみてよい。昨年10月頃にそうした動きがあったのは、落選中の鈴木氏を取り込んで、国政選挙に自民党の対立候補として出馬しにくくするとともに、民主党の政策の中身をそっくり自民党がパクるという一挙両得の高等な戦略である。

'13年7月の参院選で、民主党は東京選挙区を公示直前に鈴木氏に一本化したが、結局候補者調整が遅すぎて無所属で出た大河原雅子氏と共倒れになってしまった。鈴木氏の衆院選への鞍替えも十分にあり得た中、昨年10月当時は年内の解散総選挙を睨んだ時期で、候補者つぶしをするにはうってつけだった。

年内解散にまったく無防備の民主党は、参院選後、鈴木氏のアフターケアをあまりしていなかったのだろう。実際、'13年の参院選後に民主党を離党している。もともと鈴木氏は議員になる前から教育がライフワークと言い続けた政策マンだ。そこで政策実現のために、文科省で手伝ってもらえないかという安倍政権からの誘いは乗りやすかった。

鈴木氏が文科大臣補佐官になって、鈴木氏の教育政策が実現する可能性は高くなった。しかし、それについて民主党は有効な反論がしにくいだろう。教育でも、自民党の民主党政策の取り込みがでてくるわけだ。

そのうち、国民が望む民主党政策のいいところはほとんど、自民党に吸い上げられてしまうかも知れない。その先に待っているのは、民主党の消滅である。

安倍首相は、新年早々、「社会党は事実上消滅した」と発言した。何年か先には、「民主党は事実上消滅した」と言いたいのだろう。実現するかどうかは別として、それは自民党の夢である。

『週刊現代』2015年1月31日号より

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