ヤクザが損害保険に入れなくなる じゃあ、もしマル暴のクルマにはねられたらどうなるの!? 行き過ぎた「暴力団排除」困るのは誰?
自動車保険には入れないが、車を運転することはできる。今後、無保険の車を走らせるマル暴が増加していくという。いったい、どうなってしまうのか。どうやら、一番困るのは暴力団ではなさそうだ。
はねられたら終わり
東京都内に住む会社員の佐藤さん(50歳男性・仮名)は、ある朝、出勤時に自宅から駅に向かって歩いているときに不意に視界に入ってきた車にはねられた。
意識が戻ったときには病院のベッドの上。脚が重く、力を入れることすらできない。医師からは、「脚の複雑骨折」と告げられた。はねた車は相当なスピードを出しており、当たりどころも悪かったようだ。
「リハビリを経て自宅に戻れるようになるまで半年はかかると言われたんです。突然のことに最初は混乱していましたが、翌日、冷静になると、仕事はどうしよう、家計は大丈夫だろうか、と不安が押し寄せてきました」(佐藤さん)
当然、休職期間中の補償も含めた保険が降りるはずだった。だが、佐藤さんに支払われたのは、たった120万円。加害者が任意保険に入っていなかったのだ。
年間1000件以上の交通事故被害者からの相談を受けているという弁護士の谷原誠氏は、「自動車を所有する場合、自賠責保険は義務付けられていますが、補償額は最低限のもの。傷害による補償の限度額が120万円なのです。年収約600万円、専業主婦の奥さんと大学生の子供が2人いるという佐藤さんのような場合、相手が任意保険に入ってさえいれば、2000万円程度は保険金が出たでしょう」と言う。
ところが〝不幸〟はそれだけではなかった。佐藤さんをはねた加害者は〝堅気〟ではなかったのだ。
「一度だけ病院に見舞いに来たのですが、30歳前後の金髪で、あまり反省している様子はなく『おっさんも運が悪ィな』などと言ってヘラヘラしていました。聞くと、有名な広域暴力団の構成員だと言う。『ああ終わった』と思いました。ヤクザ相手に交渉するのはムダだと……。諦めるしかない、と」
思いがけない交通事故で、6ヵ月もの入院。それだけでも相当な不運だが、もし事故を起こした相手が自動車保険に入っていない暴力団員だったら—加害者に支払い能力がなかった場合、文字通り「泣き寝入り」するしかなくなってしまう。
交通事故で負傷した人は、昨年は1年間で約82万5000人。ここ数年、事故件数は減少しつつあるが、最近になり、新たに大きな問題が浮上している。冒頭のような無保険の暴力団員による事故が、今後急増する恐れが出ているのだ。
理由は、暴力団排除条例。暴力団関係者が自動車の任意保険に入れないようになったからだ。