甘利大臣の「賃上げ」発言は正論なのか

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甘利明経済再生担当相が、「収益が上がっているのに賃金や下請け代金を上げないのは恥ずかしい企業だという環境をつくりたい」と述べたとして、話題になっている。消費税増税で景気失速懸念があるうえ、アベノミクスを成功させるには賃金引き上げが必須。とはいえ、国が私企業の賃金アップを「誘導」することについては、やりすぎではないかとの意見もあるからだ。

現在のような政府による「賃上げ誘導」の是非はどう考えるべきなのか。そもそも、政府が民間の賃金アップを現在のような企業へのわずかばかりの減税策で誘導することは可能なのだろうか。

「甘利発言」を政治的観点と経済政策的観点の二つから見てみよう。

まず政治的観点からいえば、ほぼ満点だ。甘利大臣が言うことは、本来は労働組合が言うべきこと。労働組合の親玉は連合で、ご存じの通り連合は民主党の支持母体である。つまり、甘利大臣は、本来民主党が主張すべきことを政権党の強みを生かして言い切ったのであり、政敵のお株を奪うことになって政治的には申し分ない。

そもそも、金融政策は失業率を低下させるものとして欧米では雇用政策と位置づけられている。民主党は金融政策の活用をしなかった段階で、金融政策の積極活用を言い出した安倍政権には政治的に負けていた。連合が支持すべきは、何もしなかった民主党ではなく、雇用政策をまともにやる安倍政権だといえるのかもしれない。甘利発言は民主党と連合の痛いところをついている。そのため、政治的にはきわめて高得点なのだ。

しかし、甘利発言を経済政策的観点で見れば落第だ。金融政策はたしかに雇用確保に役立つが、その効果が本格化するのは2年くらい経過してからのこと。

日銀が金融緩和したのは今年4月からなので、再来年4月くらいから効果が本格化する。ところが、来年4月から消費税増税をするため、その悪影響がすぐ出てきてしまう。

政府は5兆円の経済対策で消費税増税の悪影響を除きたいらしいが、増税で政府に吸い上げられるのは8兆円。しかも、その「吸い上げ」は未来永劫であるが、経済対策5兆円は1年限り。どうしても企業は景気の先行きに安心できないので、ベアの引き上げには慎重にならざるを得ない。

アベノミクスの第一の矢である金融政策の効果がまだ本格化しないうちに、第二の矢である財政政策はたった5兆円。これは今年1月の10兆円補正予算の半分でしかなく、前年度比ではマイナス5兆円。それに消費税増税ではマイナス8兆円がのしかかる。これらの財政政策のマイナス効果が来年4月からすぐに出てくるという状況で、企業にもっと気前よく賃金を上げよといっても無理な話なのだ。

一部の潤っている企業を除けば、そんなに賃上げを望むなら消費税増税をしないでくれと言われそうである。少なくとも、「消費税増税するからまた景気の先行きが不透明になる」と言われたら、甘利大臣はどのように反論するのだろうか。

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