糸井嘉男超人伝説「ノーコンやな」「いや、これ黒です」 新聞・TVは報じないWBCの真実

 1次ラウンドのブラジル戦では、阿部慎之助に代わり4番に座って同点タイムリー。翌日の中国戦では試合を決める走者一掃のツーベースヒット。試合後、「阿部さんのスゴさがわかった」と4番の重圧について話したが、一見、そんな繊細な神経は持ち合わせていないように見える損な男、それがWBC日本代表、糸井嘉男(31・オリックス)である。

 元日本ハムヘッドコーチ、現・野球評論家の白井一幸氏によれば、「投げたら150㎞/h、走ればオリンピック選手のような速さ、打球はメジャーの中でもトップレベル」という超人的能力の持ち主なのだ。

 そんな糸井のプロとしてのスタートは意外にも投手としてだった。 '03 年、日本ハムに入団した当時、対戦したヤクルトの二軍打撃コーチ・荒井幸雄氏(現・巨人二軍打撃コーチ)が話す。

「マウンド上の嘉男はキャッチャーのサインに頷いては真っ直ぐ、首を振っても真っ直ぐ。それでも抑えられてしまったんです。イライラした僕が、当時二軍にいた畠山和洋や田中浩康に、『お前ら、真っ直ぐしか投げないヤツの球がなんで打てないんだ!』と言うと、『いや、速い。力があるんです』と返されました。どうせ、変化球を投げてもストライクが入らないから、キャッチャーも真っ直ぐしか要求しなかったのかもしれませんがね(笑)」

 超人投手の唯一の欠点はコントロールの悪さだった。ところが当の本人は、それに気づいていなかったフシがある。元日本ハムの同僚が振り返る。

「ブルペンで投げていたときのことです。後ろで見ていた日本ハムの元エース、岩本勉さんが、『ノーコンやなぁ』と糸井に声をかけたんです。すると、糸井は、『えっ? これ、黒ですけど……』とアンダーシャツを見せながら言っていました。大マジで『ノーコン』を『濃紺』と間違えるとは……」

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 ノーコンだったからこそ、野手に転向して素質が花開いたのだから、まさに結果オーライ。そんな「打者・糸井」の恩師は、大村巌・元日本ハム打撃コーチ(現・横浜二軍打撃コーチ)だ。

「糸井には独特の感覚や言葉があって、彼の心の中に入ってそれを共有しなければなりませんでした。オペレーションソフトが違うんです。マックでもウィンドウズでもなく〝イトイ〟というOS。まずは受け容れる、ミスしても怒らない……それを続けることで徐々に打者らしいことを聞いてくるようになりました。

 ああ見えてもアガり症で、大舞台の前にはベンチで『ウウーーーッ』と叫びながら武者震いしているんです。ネクストバッターズサークルに入ると、もう何を言っても聞こえない。まあ、あれが糸井流の集中法なのでしょう」

 そんなイトイOSの言語はいたってシンプル。前出の同僚が証言する。

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