日本なら新聞協会賞間違いなしの巨大合併スクープを連発する記者は悪いジャーナリズムの見本。市場と業者に奉仕する「プレスリリース原稿」を排する米国のジャーナリズム

巻頭特集で合併スクープに警鐘を鳴らすジャーナリズム専門誌「コロンビア・ジャーナリズム・レビュー」最新号

 通信業界でワールドコムとMCI、銀行業界でバンカメリカとネーションズバンク、自動車業界でダイムラー・ベンツとクライスラー---。

 以上はいずれも、1990年代後半にアメリカで実現した大型M&A(企業の合併・買収)だ。経済紙ウォールストリート・ジャーナルの記者スティーブン・リピンによるスクープで公になったという点でも共通する。

 私も同時期にニューヨークに駐在し、リピンの特報を連日のように目にして「こんな特ダネ記者がいるのか」と衝撃を受けたのを覚えている。一説によると、ウォールストリート・ジャーナルの1面や3面、別刷り1面など主要面に掲載された記事に限っても、彼の署名記事は5年間で500本以上に達する。年に数本しか書かない記者も珍しくない同紙の性格を考えると、リピンは突出していた。

 今年1月に配布されたジャーナリズム専門誌「コロンビア・ジャーナリズム・レビュー」の2012年1・2月号を見て、改めてリピンを思い出した。何しろ、同誌は「経済報道は誰のためにあるのか」という巻頭特集の中で、リピンを集中的に取り上げているからだ。記事の書き出しはこうだ。

 〈 スティーブン・リピンがウォールストリート・ジャーナルでM&A担当になったのは1995年。当初は、マスコミ業界に変革をもたらす型破りな記者にはとても見えなかった。ストレスの高い職場にいるにもかかわらず、勉強熱心で、愛想が良く、いつも低姿勢---これがリピンだった 〉

 同誌は特ダネ記者としてのリピンの功績をたたえているのだろうか? 答えはノーである。経済報道のお手本ではなく悪い見本としてリピン流の報道を検証している。

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