『ダイヤモンド・プリンセス』感染に立ち向かった災害派遣医療チームと乗客家族の「その後」
新型コロナの流行が国内でも始まろうとしていた2020年2月、大規模な集団感染に見舞われたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」。NHK「新プロジェクトX~挑戦者たち~クルーズ船 集団感染 ~災害派遣医療チーム 葛藤の記録~」(2024年12月7日)が放送され、あらためて注目されている。
多くの乗客らを救おうと、得体の知れないウイルスが広がる現場で奮闘した災害派遣医療チーム=DMATと乗客との物語には、心温まる後日談があった。2022年3月刊行の単行本『命のクルーズ』の「その後」とは——。
多くの乗客らを救おうと、得体の知れないウイルスが広がる現場で奮闘した災害派遣医療チーム=DMATと乗客との物語には、心温まる後日談があった。2022年3月刊行の単行本『命のクルーズ』の「その後」とは——。
思い出の「アロハオエ」
「救急医にあこがれています」
都内の名門医学部に通う19歳の女性は、少しはにかみながらそう語ってくれた。
彼女は『命のクルーズ』で、主な登場人物となった乗客の石原美佐子(仮名)夫妻が愛してやまない孫である。あとがきの終盤に「高校生の孫娘」として、こんなふうに紹介している。
未曽有の「災害」から祖父母を救い、不安に寄り添った支援者たちの話を語り聞かされるうちに、やがて彼女は医師をめざすようになった。
クルーズ船での集団感染が問題になったのは、2020年1月から2月にかけて。彼女が中学3年生のときである。あれから3年後の春、見事に合格を果たし、現在は大学2年生。夢に向かって歩みを進めている。
ダイヤモンド・プリンセスでは、感染が市中に広がるのを抑えるため、乗客乗員が船内に留め置かれた。祖父母は約2週間足止めされた後、感染がわかって下船し、1ヶ月あまりの入院を経て、ようやく日常を取り戻した。
ところが、半年ほどして祖父が再び病に倒れ、77歳で他界している。
コロナ禍の影響で、ごく内輪で執り行った葬儀では、厳しい感染対策のため聖歌は歌えない。その代わり、彼女はフルートを演奏した。選んだ曲目は「アロハオエ」。祖父が得意のウクレレを奏で、孫娘と合わせるのを楽しみにしていた思い出の曲だった。