800万画素がいかに多いか分かると思います。ましてや2000万画素など、まったく不要ですし、いたずらにデータ量を増やしてメモリを圧迫させるだけです。
ではなぜデジカメメーカーは画素数競争を続けたのでしょう? 単純に「高画素=高画質」だと勘違いしている人が多いので、宣伝文句に高画素数を謳いたかったからです。実質的な画質(きれいな写真)や扱いやすさを大幅に犠牲にしてまで馬鹿げた画素数競争を続けたわけで、メーカーとしての良心、良識を疑います。
一流のプロカメラマンが使うニコンやキヤノンの最上位機種の画素数は2000万画素以下です。プロは騙せないからですね。でも、素人は簡単に騙せる。実際に今までもずっと騙してきた。今さら「あれは嘘でした」とは言えない……。
アップルはそういうユーザー無視の「売れればいい」商法を許さなかった。きれいな写真を撮るためにあたりまえのこと(馬鹿げた高画素センサーを使わないという選択)をしただけなのです。
現在、コンパクトカメラに魅力的な製品がなくなってしまったのは、CMOSで圧倒的な技術力とシェアを持つソニーが高画素路線をやめなかったことも一因です。
想像してみてください。iPhone6に開発された800万画素CMOSを使って本格的なコンパクトデジカメを作ったらどれだけきれいな写真になるか……と。
今からでも、ソニーが本気で600万画素くらいのCMOSを作れば、カメラ業界はガラッと様変わりするかもしれません。それが業界のリーダーとして正しい姿勢だと思います。
このままでは、ソニーはウォークマンのときと同じような失敗をするのではないかと懸念します。サムスン・東芝・フジフィルム連合が腹を決めて低画素(適正画素数の)センサーのデジカメ開発を始めれば、ソニーが裸の王様になって一気に凋落することだってありえるでしょう。
技術力がありながら、なぜ日本のメーカーは世界のトップを走り続けられないのか?
それは「競争」だけを意識し、製品に対する哲学や良心がないからです。
売れるためにどうするかは考える(ユーザーをいかに騙すか、その気にさせるかには腐心する)けれど、本当にいい製品(自分が好きな商品、責任を持てる製品)を作ろうとしない──悲しいですね。上から理不尽な命令を受けるメーカーの技術者たちが気の毒です。もっときれいな写真が撮れるセンサーが作れるのにやらせてもらえないのですから、どれだけ悔しい思いをしていることか。
他社が真似できないほどのすぐれた技術を持っているのに、メーカーとしての哲学や良心がない。そんな環境からは斬新なアイデア、画期的な新製品も出ません。
「技術大国日本」と呼ばれた国をこんな姿にしてしまったのは誰なのでしょう。
自縛の紐に縛られず、合理的な頭であたりまえのことをやっていく──これができるかどうかが、日本の未来を占う上でも大きな課題だと思います。