【モバマス】周回遅れのシンデレラ
1ヶ月にもわたる第8回シンデレラガール総選挙が終わった。我が担当アイドル、本田未央はようやくシンデレラガールになることができ、今日は島村さん、渋谷さんと4人でその祝勝会をしている訳なんだが、
『第8回シンデレラガール総選挙、第1位は、本田未央です!』
記録用に総選挙の結果発表を録画していたビデオカメラが再生される。
いや、これ何回目だよ! 確かに感動の一幕だけどさ! 実際この時泣いたけどさ! 流石に1時間以上このシーン繰り返されたら慣れてくるよ! なんなら当時の感動の印象も薄れていく気がするから早急にやめていただきたい。やめろ。
と言いたくはなるが、嬉しそうに画面を覗き込む3人を見てると何も言えなくなってしまうのはプロデューサーの性と言うべきか。
せっかく美味しいお店に来たのだからたくさん食べたらいいのにと伝えても聞き入れない。まったく、貸し切りにするのもタダじゃないんだぞ。財布の中身を思案して少し辛くなる。CG担当Pとしてボーナスか何か支給されるのを期待するか。 ......絶対されないだろうけど。
自分の懐事情を悲観していると、それなりに時間が経ってしまっていたらしい。いつのまにかテーブルから一人消えていることに気がついた。
「あれ? 未央はどこに行ったんだ?」
「未央ちゃんならお手洗いに行きましたよ!」
トイレか。なら心配する必要はないか。どうせすぐ戻ってくる。
と、トイレまで来たはいいが入れないことに今更気付く。仕方なく店員さんを呼んで様子を見てもらう。......は? いない? 誰も?
どうなっているのか。まさか誘拐? と慌てるのが普通なのだろうが、どうせ未央のことだ。トイレに行くつもりなんか無くて、最初から外で考え事でもしてるんだろう。
案の定レストランの外の椅子に座って黄昏る未央を見つけた。さて、今度は何に悩んでるんだ?
「おい、未央、心配したぞ。こんなとこにいたのか」
「嘘つき。プロデューサーなら心配なんかする前に見つけられるでしょ? むしろちょっと遅かったんじゃない?」
「まあ、確かにそうだけど、心配はしてたぞ? トイレで何かやらかしたんじゃないかってな」
「ちょっ、流石にそれは失礼だよ! セクハラ!」
「おいおい、人聞きの悪いこと叫ぶなよ。冗談だろ?」
「冗談でも良いやつと悪いやつがあるでしょ!? 私これでもうら若き乙女なのですよ?」
「あー、はいはい、分かりましたよ。で、ここで何考えてたんだ? 話なら聞くぞ」
「んー、ちょっとね。考えてたってよりは、思い出してたって言った方がいいかも。いままで色々あったなーってね」
なるほど、今回はそっちのパターンか。なら深刻な感じじゃなさそうだし、一安心だな。
「ふーん、俺にも聞かせてくれよ、その昔話」
「えー、恥ずかしいよー。それにデビューしてからのことだからプロデューサーは全部知ってることだよ?」
「そんな恥ずかしがることじゃないだろうに......。まあ大体の予想はつくからいいけどな」
「え? そうなの? じゃあじゃあ、何思い出してたか当ててみてよ!」
「そうだな......まずは......」
まずプロダクション入ってすぐにニュージェネ結成したけど、そこで早速つまづいちゃったよなーってね。
もちろんしまむーとしぶりんとおしゃべりするのはすごい楽しかったんだけど、肝心のレッスンは二人の足引っ張ってばっかで、リーダーとして情けないなーなんて思ってたりしたんだ。
そうこうしているうちにしぶりんもしまむーも先にデビューしちゃって、結局ニュージェネ全員でステージに立てたのはプロダクションに入ってから1年後。
いやー未央ちゃん悔しかったですよ。同期のはずなのに二人は遠く先を走ってるし、私はCD出すのもちょっと遅れちゃったしね。
「お、いきなり当ててきますなぁ。さすがプロデューサー!」
「まあ、あの時は俺も何も出来なくて悔しかったからな。嫌でも覚えてるっていうか、同じ気持ちだと思うからまずはこれかなーって」
「へー、プロデューサーも同じだったんだ」
「そりゃそうだよ。総選挙の結果も振るわなかったし、ラジオの仕事も一人だけ外されちゃったしな。未央の努力は知ってたから、自分を責めたよ。『未央はあれだけ頑張ってるのに、なんで俺はもっとやれないんだ!』ってね」
「ふふっ、私もそんなこと考えてたなー。それで、次は何思い出してたと思う?」
ライブのアンケートとか、プロデューサーがヘンなやつを弾いてくれてるのは知ってるけど、その中に「生意気」とか、「うるさい」とか、「〇〇ちゃんの邪魔するな」とかいっぱい書かれてたの、実は私見ちゃったんだよね。
まったく、大量のアンケートをそのままゴミ箱に捨てておくから目立っちゃうんだよ? せめてシュレッダーにかけるとかさあ......。
私がそれ見てるのに気づいたちひろさんがどれだけ怒ってたかプロデューサー知ってるのかな? ちひろさんにはあんまり怒らないようにお願いしたけど、その後どうなったんだろう。
「おっ、また当たり~!」
「アンケートの件に関しては本当に申し訳無かった。ちひろさんにこっぴどく叱られたよ」
「あー、やっぱりそうだったんだ。一応気にしてないから怒らないでってちひろさんには言ったんだけど......」
「立場上そうはいかんだろう。実際何かしらの処分は受けなきゃいけないようなことなんだから。上に内緒にしてくれただけありがたいよ」
「でも、本当に気にしてなかったんだけどなー。っていうか慣れちゃってただけなんだけど」
「どういうことだ?」
「ほら、エゴサーチってやつ! それやってると嫌いだの、事務所のゴリ押しだの、たくさん出てくるんだよね。本田未央アンチスレなんてのも見つけたし」
「はー、そんなの見ててよく平気でいられるな。不特定多数から暴言吐かれるなんて俺だったら耐えられん」
「そりゃあ最初はかなりへこんだよ? 『私なりに頑張ってるだけなのになんでこんなこと言われなきゃいけないの?』ってね。でもそんなことで落ち込んでる暇なんて無いって気づいたの。みんなよりもスタート遅かったこと、私を嫌いな人が沢山いること。でもそれを乗り越えた先にトップアイドルがある! って思うことにしたんだ」
「そんなこと考えてたのか。なーにが小心者だよ。十分強いじゃないか」
「それはプロデューサーがついていてくれたからね♪ 何があっても骨を拾ってくれる人がいるって安心できるんだよ?」
「やめてくれよ、俺は大したことしてない」
「そんなことないんだけどなー......。まあいいや! じゃあ最後! 何を考えてたでしょうか!?」
私がやってきたことはもしかしたら間違ってたのかも、なんて考えたりもしたっけ。
しぶりんとしまむーがシンデレラガールになったのはもう随分前の話になっちゃって、もうダメなのかもしれないとも思ったな。
それでもやっぱり諦められなくて、諦めたくなくて、みんなに内緒で秘密の特訓たくさんして。まあ結局プロデューサーにはバレちゃったんだけどね。
だからやっとシンデレラガールになれて、すごい嬉しいんだ。私が来た道は間違ってなかったんだ、ってね。少し遠回りだったかもしれないけど、ちゃんとゴールテープまで走り切れたんだな、って。
「......ファイナルアンサー?」
「なんだ? ハズレか?」
「......大せいかーい! ちょっと緊張したでしょ?」
「別に。何か賭けてるわけでもないしな」
「えー、もうちょっと真剣に考えてると思ってたのにー!」
「はいはい、悪かったよ。で、総選挙がどうだったんだよ」
「去年も一昨年ももう少しだったのにシンデレラガールになれなくて、でも何が足りないのかは分からなくて。だから今年やっとシンデレラガールになれて、がむしゃらに特訓した甲斐があったなーって思ってたんだ」
「こんな業界にいる限り、『努力は報われる』なんて軽々しくは言えないけど、未央はそれでも死ぬほど練習してたよな。アイドルのやる気がものすごいってのはプロデュースのしがいがあるってもんだ」
「おっ、そう言ってもらえると未央ちゃん嬉しいですよ♪」
「で、何でわざわざ外に出たんだよ。どうせ二人ともビデオに夢中だからそこでも十分考えられただろうに」
「しまむーもしぶりんも、今回は悔しかったはずだからね。もし私の様子がおかしいことに気がついて今の話することになったらちょっと申し訳ないっていうか......。それに外に出てればそのうちプロデューサーが探しに来てくれるって分かってたし!」
「これは一本取られたな。俺は未央の手のひらで踊らされたってことか」
「えへへ~、じゃあ、一本取った私に何か一言ちょうだい! 気の利いたやつね!」
「俺にポエムでも作らせる気か? センスの無さは折り紙付きだぞ?」
「それは知ってるけど......」
「あっ......、いや、やめとくか」
「どうしたの?」
「いい感じのものが浮かんだんだが、恥ずかしいからやめておく。後で散々からかいのネタにされそうだしな」
「え~、そんなことしないよ! とりあえず言ってみて!」
「え? 確か情熱って意味だよね? それがどうかしたの?」
「実はpassionにはもう一つの意味があってな、『受難』って意味なんだが。これまでたくさんの困難にぶつかってきた未央だからこそ、本当のパッションになれたのかもな。なんて」
「ふふっ」
「やっぱり笑ってるじゃないか。だからやめておくって......」
「ネタにしないとは言ったけど笑わないなんて言ってないもんね♪ でも、そんな意味があったなんて知らなかったなー。デコボコ道で迷子になったと思ったこともあったけど、ちゃんとゴール出来て未央ちゃん一安心ですよ」
「おいおい、まだ数ある一等星のうちの一つになったってだけじゃないか。未央の目標は一番星、だろ?」
「うっ、確かにそうだけど~! 今くらいはちょっと気が抜けててもいいじゃん!」
「まあ今日くらいならいいかもな。でも、周回遅れだったランナーがようやっと先頭集団に追いついたんだ。このままのペースでいけばダントツトップに立てるし、未央ならそれが出来ると思う。まさかもうスタミナ切れとは言わないだろ?」
「もちろん! なんたって未央ちゃんの夢はトップアイドルと、その先にある『大きなこと』だからね! それまでは止まらないよ!」
「よし、その意気だ」
「えっ、あっ......忘れてくれ、意識したら急に恥ずかしくなってきた......」
「よーし覚えた! これでプロデューサーの弱みゲットだね♪」
「おい! さっきネタにしないって約束しただろ!」
「それはpassionの話でしょ? 頼んでもないのにポエムしだしたプロデューサーが悪いんだよ?」
「そうかそんなこと言ってくるのか。じゃあ俺は今の話島村さんと渋谷さんに話してやるからな」
「あー! だめだめ! もう忘れるから! はい忘れた! だからプロデューサーも......ちょっと、部屋戻ろうとしないで! ごめんってば~」
「なんだ戻らないのか? そろそろ貸し切りの時間終わるぞ。外で待ってたいなら止めないけど、風邪引くなよ?」
「ああもう! 戻るから! ちょっと待って!」
「あ、いたいた。いつのまにかいなくなっちゃうんだもん。びっくりしたよ。お会計は私と卯月でしちゃったから戻らなくても大丈夫だよ」
「はい、これ未央ちゃんと未央ちゃんのプロデューサーさんの荷物。これだけで大丈夫ですよね?」
「ああ、申し訳ない。大丈夫です。いくらでした?」
「いいよ、今日は2人のお祝いでしょ?」
「こういうのは大人が払うもんです。ほら、レシート渡してください」
「別にいいんだけどな......はい、これ」
「どうも。割り勘したんだったらこれくらいですか? ちょっと多いですけどまあもらっといてください」
「ありがとうございます! じゃあこれで解散ですね!」
「うー、もうちょっと話してたかったな~」
「明日また会えるんだからいいでしょ? あんまり遅くなると補導されちゃうよ? シンデレラガールが補導されるなんてシャレにならないからね」
「それもそうかも......よーし! じゃあ全員シンデレラガールの新生ニュージェネレーションは明日スタートするってことで! 3人で一番星目指して頑張るぞー!」
おしまい
ーSide Uzuki & Rinー
「卯月、貸し切りの時間終わっちゃうからそろそろ出ようか」
「でも凛ちゃん、お会計は未央ちゃんのプロデューサーさんがしてくれるって言ってましたよ? 私あの2人に割って入ってお会計頼むなんてできないです......」
「確かにいい感じで話し込んでるだろうしね。私たちがお金払ってお店出よう。今日は2人のお祝いだしね」
「そうしましょう! でも、こんなにうまくいくとは思いませんでしたね!」
「未央と未央のプロデューサーが2人で話す時間を作るって作戦を聞いた時はどうなるか分からなかったけど、上手く行ってよかったね」
「流石にビデオ何回も見続けるのは不自然かと思いましたけど、狙い通り未央ちゃんは部屋出てくれましたし、大成功ですね! 日頃の演技レッスンの賜物です!」
「ふふっ、そうかも。私たちだって成長してるからね」
「未央ちゃんに負けてられないですから、これからも頑張りましょう!」
本当におしまい
本田未央シンデレラガール決定本当におめでとうございます。
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