モバP「アイドル?」千枝「千枝をオトナにしてください!」
最近、俺には悩み事があるんだ。アイドルのプロデュースが上手くいっていないのかって?
いや、むしろプロデュースに関しては、絶好調といっても過言ではないと思う。
じゃあ、何に悩んでいるのかって?それは…主に、アイドルとの距離感についてだ。
プロデュースのプの字も知らなかった俺が今までプロデューサーとしてやってこられたのは、
ひとえに俺を拾ってくれた社長さん、入社時から助けてくれたアシスタントさんや先輩方、そしてなにより…俺なんかのプロデュースを信じて付いてきてくれた、大切な担当アイドルたちがいたからだ。
プロデューサーとして…大人として、頼りにしてもらえるよう、常に全力で向き合ってきたつもりだ。
その甲斐もあってか、彼女達も俺のことを信頼してくれていたと思う…
でも、プロデューサーがとるべきアイドルとの距離感が分からなくて、少し過保護気味になっていたかもしれない。
彼女達が俺に対して、好意らしきものを持つのにそう時間はかからなかった。
でも、思春期の好意なんてのは所詮一過性のもの、成長していくうちに自然と消えていくと思っていた……
思っていたんだがなぁ…
「先生…あ、あのね?私…私っ、ずっと先生のことが……!」
「プロデューサー様、わたくし、もう立派な大人のレディですのよ…?」
「プロデューサーさん、私、ずっと貴方のことだけを想ってきたんです…責任、取ってくださいね」
「……Pと……私は……赤い糸で……結ばれている……死ぬまで……ずっと……一緒……」
P「はぁ、今日も疲れたな~」
5人兄妹の長男として生まれた俺は、高校を卒業してすぐ、貧しい家庭を支えるため、東京へ出稼ぎに来ていた。
毎日、いろいろな仕事場で働き、実家に仕送りをする毎日。
だが、東京の物価は高く、毎日厳しい生活を送っていた。
就職難な現代、高卒の自分が就職できる場所なんて限られているわけで…
P(どこかにいい仕事、転がってないかなぁ)
「ちょっと!そこのアナタ!!」
「アナタよ、ア・ナ・タ」
P「え、もしかして俺のことですか?」クルッ
「アナタ以外に誰がいるのよ~」
「ふむふむ…ほうほう…なるほど……イケルわね…」ブツブツ
P「あ、あのー、何かご用ですか?」
「ああっ、ごめんなさいね。アタシ、こういう者です」スッ
男性から名刺を受け取る、そこには…
P「クラブ IKEMENオーナー……?」
オーナー「うふ、アナタ、アタシ達と一緒に働いてみない?きっとアナタならすぐに人気者になれるわよ~」
オーナー「ふふっ、夜な夜なぬくもりを求めて訪れるお姉さま方に、癒しを与える夢のような場所よ」
P「…もしかして、いかがわしい店ですか?俺、そういうのはちょっと…」
オーナー「まっ!失礼しちゃう!違うわよ、お酒を飲んだり、美味しい食事をしながら、仲良くおしゃべりするだけよ?」
オーナー「いーえっ!アタシの第六感がビンビンしてる!アナタほどの逸材なら間違いなく、最上級の魅惑ホストになれるわ!!」ズイッ
P「で、でも…お洒落なんてしたことないですし、実家に仕送りもしなくちゃいけなくて…お金もそんなにあるわけじゃ」
オーナー「お酒が苦手なら、別に無理して飲む必要はないわ…衣装もアタシがバッチリコーディネートしてあげる!だから、心配しなくてもいいわよ?」
P「う~ん」
P「ホントですかっ!」
P(正直、今のままじゃ、大した仕送りもできない…なら…!)
P「話、聞かせてもらえますか?」
オーナー「そうこなくっちゃ♪」
仕事先からの帰り道、現状の収入に物足りなさを感じていた俺は、男性の誘いに乗ることにした。少しでも多くのお金を稼げれば、家族の助けになると思ったからだ。
ざわざわ ざわざわ
オーナー「はいはい静かに!今日からクラブ IKEMENの一員として働くことになったPくんよ。みんな、仲良くするのよ~?」
P「本日からお世話になります!Pです。経験のない業界のため、不慣れな点も多く、皆さまにはご迷惑をおかけするかと思いますが、精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします!」
オーナー「Pくんはクラブで働くのはハジメテだから…だれか、教育係になってくれないかしら?」
「オーナー、俺がやろうか」
オーナー「あら、――くん。いいの?」
「ええ、俺も新人くんと色々話してみたいしな」
「ああ、任せてくれ」
P「よろしくお願いします!」
先輩「おう、俺の名前は――。これからよろしくなP」
こうして、俺は、クラブ IKEMENの一員として働くことになった。
先輩はこのクラブでNo.1の売上を誇る人気ホストらしく、俺にいろいろなことを教えてくれた。
クラブでのルールや作法、お客さんとの会話のコツなど…とても親切で、親しみやすい人柄だった。
人気がでるのも分かる気がする。
慶「こ、こちらこそ!は、初めまして!青木慶といいますっ。ええっと…よ、よろしくお願いします!」
慶「私、こういう店に来たことがなくて…今日も友達に誘われて初めて来たんです、だから、どんなこと話していいか分からなくて…その…」アセアセ
P「そうなんですか!俺もなんです。ひとりで出るのは今日が初めてで…ははっ、同じですね」
P「初めて同士、一緒に頑張りましょう!」ニコニコ
P(笑顔…笑顔……ちゃんとできてるよな…?)
慶「は、はい///」
彼女の名前は青木慶さん。19歳で、大学に通いながらトレーナーを目指しているらしい。
将来、姉達のような立派なトレーナーになるのが夢だという。
ちゃんとした目標を持っていてすごいなぁ。俺と年が近いのもあってか、すぐに親しくなれた。
慶「そうなんですか…地元の家族への仕送りのために…」
P「正直、自分はホストなんて向いてないと思うんだ。今も凄く緊張していて…同年代の女の子と話した経験もあんまりなくてさ…もっと面白い話ができればいいんだが…」
慶「そ、そんなことないですっ、私だって、男の人と話すことなんてほとんどないですし、それに…少しほっとしてるんです」
P「へ?」
P「そ、そうか…な、なんだか照れるな」カアァ
慶「ご、ごめんなさい!変なこと言っちゃって!」カアァ
P「いや、なんだか自信が湧いてきたよ!ありがとな、慶さん」ニッコリ
慶「い、いえ!どういたしまして///」もじもじ
先輩「付き合い立ての中学生カップルみたいだな…」
オーナー「初々しくていいわね~」ウンウン
そして…
~数ヶ月後~
オーナー「今月人気ランキング第2位は……Pくんよっ!おめでとう!!」
P「お、俺っ!?」
先輩「やったなP。凄いじゃないか!」
オーナー「ふふ、日々の努力の積み重ねがあっての結果よ…誇っていいわ」
P「~~~っ、よっしゃあ!!」
先輩「まさか、こんなに早く並ばれるとはな… 俺も負けないように精進しなければ」
モブ「クソッ!まさか…このオレが3位に落ちるとは…」
モブ「あの野郎…オレが長年維持し続けてきたNo.2の座を奪いやがって…どうしてくれようか…!」ワナワナ
オーナー「ええ、最近ウチの系列店が新しくオープンしたんだけど、まだ勝手が分からなくて困っているらしいの」
先輩「だから、しばらく俺はソッチの方へ応援に行こうと思っている」
先輩「Pには、俺が留守の間、代わりにリーダーを務めて貰いたい」
P「リーダー!?本気ですか!俺、数ヶ前に入ったばかりのひよっこですよ!?もっと適任がいますよ…モブさんとか」
先輩「いや、モブの奴は割といい加減な所があるからな…アイツにはリーダーなんて任せられない」
先輩「それに、お前がここ数ヶ月、誰よりも頑張っていたことは、隣で見てきた俺がよく知っている…もっと自分に自信を持て」
P「先輩…」
先輩「任されてくれるか?」
P「……わかりました。やれるだけ、やってみようと思います」
先輩「よし、それでこそPだ。今度メシでも奢ってやるよ」
P「でも、先輩が帰ってくるまでですよ!?俺、まだまだ未熟なんですから」
先輩「ハハハ、わかったわかった」
だが、リーダー代理を任されてから数週間後、事件が起きる…
マダム「ちょっと!!どういうことなの!!」
受付「すみません…モブさんはただいまご不在でして…」
マダム「今日の7時からって、前もって予約しておいたじゃない!!納得のいく説明をして頂戴!!!」バンバン
同僚A「あちゃ~、いつかはやらかすと思っていたけど、モブの奴、よりによってマダムさんの日に無断欠勤するとはなぁ…」
同僚B「オーナー、無断欠席に関してはかなり厳しいからなぁ…ペナルティヤバそう…」
P「あの~、なんだか受付の方が騒がしいんですけど、何かあったんですか?」スタスタ
同僚A「あっ、Pか。それがな、モブの奴が今日常連さんとのシフトが入っていたのに、まだ来ていないんだよ」
P「ウェ!?それってかなりヤバいじゃないですか!」
同僚B「今日はオーナーいないし、後で知ったらカンカンに怒るだろうなぁ」
クラブでは時間厳守、遅刻厳禁としている。それを破った場合、オーナーから非常に厳しいペナルティを受けることになっていた。
同僚B「まっ、仕方ないっしょ」
P「……」
モブさん…嫌味を言ってきたり、やたらと絡んできたりして、あんまりいい印象はなかったけど…
P「…俺、ちょっと行ってきます」
同僚A「えっ!?やめといたほうがいいと思うぞ」
同僚B「そうだよ。触らぬ神に祟りなしだぜ?」
P「モブさんだって、クラブの一員なんです。見捨てることなんてできませんよ!」ダッ
同僚B「P…ホントにお人好しな奴だなぁ、モブのことなんて放っておけばいいのに」
同僚A「でも心配だな…モブの奴、プライドだけは無駄に高いから、後で変な言いがかり付けられなきゃいいけど…」
マダム「はい?なんなの貴方」
受付「Pさん…?」
P「モブさんは本日、急な用事でお店に来られないかもしれないんです。代わりといっては何ですが、俺がお客さまのお相手をさせていただきたいと思います」
マダム「貴方が?ふ~ん…見た目は……悪くないわね」ジロジロ
マダム「キャンセル料払うのもバカバカしいし…いいわ、今日は貴方を指名してあげる、精々私を楽しませてみなさい?」
P「ハイっ、ご期待に添えるよう精一杯頑張りますね!」ニッコリ
マダム「ふ、ふんっ///」スタスタ
受付「あの…大丈夫ですか…?マダムさんって、結構気難しいお客ってことで有名なんですよ」ぼそぼそ
P「大丈夫…マダムさんだって、今日を楽しみにしてお店に来てくれたんです…クラブの一員として、しっかりおもてなししてみせますよ!」ぼそぼそ
最初は品定めするような視線を向けてきたマダムさんだったが、次第に楽しんで貰えるようになっていった。
終了間際には、すっかり気に入られていた。
マダム「今日はなかなか有意義な時間を過ごせたわ!感謝するわね」
P「いえ、楽しんでいただけて何よりです。本当にすみませんでした、せっかく来てくださったのに、モブさんが対応できなくて…」
マダム「いいのよ!そんなこと気にしなくても…貴方もモブくんに負けないくらい魅力的だったわ」スタスタ
P「ありがとうございます。またのご来店を心からお待ちしております!」
P「……ふ~」
受付「お疲れ様です。Pさん」
P「あっ、受付さんもお疲れ様です!」
受付「あのマダムさんを籠絡するなんて…さすがですね♪」
P「籠絡!?な、何を言っているんですか!数時間、一緒に話していただけですよ…」
受付「Pさんがそう思っていても、向こうはそう思っていないかもしれませんよ~?」
P「まさか!そんな事ありえませんって」
受付「ふふっ」
モブ「やべえ!!すっかり忘れてたー!!!」タッタッタ
モブ(今日はマダムさんとのシフトが入っていたのに…マズいぞ…!ゲッ!!)サッ
マダム「~♪」
モブ(咄嗟に隠れてしまったが…やっぱり終わっちまっていたか………妙だな…なんであんなに上機嫌なんだ…?)
マダム「Pくんか~なかなか可愛い子だったわね…今度からは彼を指名することにしましょ」ニヤニヤ
モブ「!」
マダム「最近、モブくんとの会話もマンネリだったのよね~やっぱり、男は初々しい子に限るわね」スタスタ
モブ「………」ギリッ
モブ「おいっ!!Pの奴はいるかっ!!!!」
受付「親分さん!?いまさら来ても遅いですよ…もうマダムさんは帰られましたよ?」
モブ「んなあこたぁどうだっていいんだよ!!Pの奴はどこにいるかって聞いてんだっ!!!」
受付「Pさんなら奥の方で片づけのお手伝いをしていますけど…」
モブ「……っ!!」ズンズン
受付「あ、ちょっと!……もう、何なのよ…」
P「あっ、モブさん。今まで何していたんですか!連絡がつかなくて、みんな困っていたんですよ」
モブ「…」ズンズン
P「モブさん?」
モブ「おい…お前、自分が何やらかしたか分かってんのか」ガシッ グイッ
P「な…なんですかいきなり」
モブ「人の常連を勝手に横取りしやがって…No.2になったからって調子のってんじゃねえぞ!」
P「そ、そんなつもりは…俺はただ…!」
モブ「いいか、ホストクラブではな、他の奴の常連を横取りするのは爆弾行為って言われて禁止されてんだよ!!!」
P「え」
モブ「そんな常識も知らずに今までやってきたのか…とんだ笑いものだぜ!!!」
P「す、すみません!そうとは知らずに勝手な真似を…!」
モブ「ごめんで済めば警察はいらねえんだよっ!!」
モブ「まさか、ウチのクラブに他人の手柄を横取りするような屑がいるとはな…――の奴も失望するだろうなぁ?どうしてこんな奴の面倒をみていたんだろう…ってな」
P「!」ガーン
モブ「あ゛?」ギロッ
同僚A「ヒッ」ビクッ
モブ「…ッチ」バッ
P「うわっ!」ドスン
モブ「この責任…ちゃんと取ってもらおうか…」
P「な、なにを」
モブ「罰金だ…次来るときに、100万持ってこい」
P「100万!?そんな無茶な!!」
モブ「テメエがやったのはそれだけのことだ…当然だろ」
P「う…」
モブ「もし持ってこなかったら……どうなるか分かってるだろうな?」
次の日、住んでいたアパートを解約、所持していた金目の物を売り、
長年貯めてきた蓄えを全て合わせ、なんとか用意した100万をその日は不在だったモブさんへ渡してもらえるようにとオーナーへ届けた。
退職願と共に…
突然の事に戸惑い、俺を引き留めてくれたオーナー…でも、ホストとして、やってはいけないことをしてしまったんだ。
知らなかったでは済ませられない。もう、俺にはこのクラブで働く資格はない…
代わりの人をリーダーにしてくれるよう頼み込み、俺はクラブを後にした…
先輩との約束、果たせなかったな……
P「はぁ…これからどうすりゃいいんだ…」フラフラ
金も無ければ、寝る場所もない。たった一度の失敗で全てを失った俺、お先真っ暗だった。
P「腹…減ったな…」グー
P(色々あったおかげで、今朝から何も食っていないんだよな)
P「…うう……俺、そんなに悪いことしちゃったか…?」グスッ
「お!そこのアンタ!」
P「…はい?」
P「…はぁ…」
「ちょっとカメラに映るだけで、諭吉さんがガッポリ!見たところ、金がなくて困っているみたいじゃないか、悪くない話だろ?」
P「…はぁ…」
「よっしゃ!そうと決まったら早く行こうぜ!大丈夫大丈夫、安心しろって!悪いようにはしないからさっ」グイグイ
P「…はぁ…」フラフラ
「待ちたまえ、そこの君」
「あ?なんだオッサン、なんか用か?オレ達今からだーいじな用事があるんすけど」
「は?そんなのアンタにゃ関係ないっしょ、部外者がいちいち口を挟むんじゃねえよ」
「感心しないといっている」スタスタ
「な、なんすか…別にいいじゃねえか…」タジッ
「邪魔だ」グイッ
「わっ、ちょ、アンタ…」
「君…大丈夫か?ひどい顔色だぞ」
P「…え…あ…」
「最近暖かくなってきたとはいえ、夜こんな所にいたら風邪をひいてしまうだろう…ついてきたまえ」
「なんだ、まだいたのか…君は早急に立ち去りなさい」
「いや、そういうわけには…」
「聞こえなかったのか?“立ち去れ”と言っている」
「!」ゾクッ
「若者の未来を奪おうとする輩には、容赦はせんぞ」
「し、しつれいしましたー!」ダッ
「……やれやれ、ようやく行ったか…君、ダメじゃないか、あんな怪しい輩についていったら、何をさせられるかわかったもんじゃないぞ」
P「す…すみません…」
「……余程ショックなことがあったらしいな…どれ、一つ私に話してみなさい。誰かに聴いて貰えば少しは楽になるだろう」
P「…その…実は」グ―
「おや?」
P「す、すみません!朝から何も食べてなくて…つい…」
「はははっ、腹が減っては満足に話すこともできないだろう。どれ、おじさんがラーメンでも奢ってあげよう。この近くに美味しい出店があるんだ」
店主「ほいっ、醤油ラーメン2丁お待たせっ」
「おお~きたきた!はい、君も冷めないうちに食べるといい」スッ
P「あ、ありがとうございます」
おじさんから割りばしを受け取る。ラーメンは湯気が立ち上がり、とても美味しそうだった。
「いだだきますっ!」
P「…いただきます」
「う~ん、やはり旨いねぇ…仕事帰りに食べるラーメンというのは…君はどうだい」
P「凄く…美味しいです」ポロポロ
「そうかそうか!泣くほど美味しいか!ほらっ、どんどん食べるといい」
P「グスッ は゛い゛!」
空っぽの胃の中に流れていく熱々のスープ。
素性もしらない自分に手を差し伸べてくれたおじさんの優しさ。
両方が俺の身と心を癒していった。
ラーメンを食べ終え、温まった俺はおじさんにこれまでのことを話していた。
貧しい家庭を支えるため、かつて持っていた夢を諦め、東京に出稼ぎへ来ていたこと、
ホストクラブで自分の努力が認められて嬉しかったこと、そして…たった一度の失敗で全てを失ったこと…
P「俺がいけなかったんです…自分の行為が、誰かの助けになると勝手に勘違いして…その人のことを知らずのうちに侮辱していたんです…世間知らずの愚か者として、当然の末路ですよ…」
「…君はこれからどうするつもりなんだい」
「……ティンときた」ボソッ
P「あの…ここまでご親切にしてくださって、本当にありがとうございました。俺、これからも頑張っていこうと思います!」ペコリ
「君、まだ仕事は見つかっていないんだよね?」
P「え?ええ…」
「もしよかったら…私の会社で働いてみないか」
P「へ?でも、俺、資格も学歴もほとんどないですよ?とても企業の役に立てるとは…」
「ウチの会社に今必要なのは高学歴な人材じゃない…誰かの為に一生懸命になることができる、立派な志を持った人間だ。君は、まさしくそれだ」
P「俺が…?俺はそんな大それた人間じゃ」
「いや!間違いないね、私は、人を見る目だけはあると自負しているつもりだ」
P「……」
「そういえば、まだ聞いていなかったね…君、名前は何という」
P「俺は…Pです」
「Pくんか、良い名だ。私はこういうものだ」スッ
P「ええっと…346プロダクション 代表取締役社長 美城・・・!? 346プロって、あの有名な!?」
社長「ははは、そういうことだ」
P「そ、そんな偉い方がどうして!?
P「え~と…たしか、新設されたアイドル部門が始めた企画で…個性的なアイドルの発掘・育成を目標としている…という話なら聞いたことがあります」
社長「そう、世はまさにアイドル時代。あらゆるプロダクションから、次々とアイドルが生まれてきた…
そんな時代の流れに我が346プロも遅れてはならない。そこで私は、新たにアイドル部門を作り、シンデレラプロジェクトを立ち上げた…
老若男女問わずに愛され、時代を象徴するシンデレラを誕生させる…それこそが、このプロジェクトの目的なのだ!」
P「時代を象徴する…シンデレラ…」
社長「P君、君には我が346プロの第3芸能課に所属するプロデューサーとなってもらいたい」
社長「さっきも言ったが、我が社に必要なのは立派な志を持った人間だ…知識なんてものはな、後からいくらでも身につけることができるものさ……君なら、シンデレラを導く魔法使いになれるだろう!私はそう確信している」
P「美城さん…」ウルッ
社長「P君、君の力が必要なんだ…一緒に来てくれないか。共に夢を実現しようではないか!!」
P「お、俺みたいな奴を必要としてくれて……あ“り”が“どヴござい”ま“ず!!俺、一生あなたに付いていきます!!!」ウエーン
社長「美城さんだなんて…水臭いじゃないか、私のことは社長と呼ぶがいい」
P「シャチョー!!!」
店主「あの…お客さん…お勘定…」
こうして、俺は社長のスカウトを受け、346プロの第3芸能課で働くことになった。
P「第3芸能課…ここで合っているよな…?」
今日はプロデューサーとしての初出勤の日、俺は346プロの第3芸能課に訪れていた。スーツ…残しておいてよかった~
P「……すぅぅぅぅぅ、よしっ」
P「し、失礼します!」ガチャ
社長「おお、Pくん。来てくれたか、ようこそ第3芸能課へ」
P「社長!この度は、私を貴社のプロデューサーとして雇っていただき、ありがとうございますっ。全力で働く所存ですので、何卒よろしくお願いいたします!」
社長「ああ、これからよろしく頼むよ~」
社長「うむ、実は君に言い忘れていたことがあってな…重要な話だ」
P「重要な話…ですか?」
社長「我が社のアイドル部門はまだ設立して間もない…という話はしたな?」
P「え、ええ」
社長「それはここ、第3芸能課にも当てはまることなのだ」
P「……ま、まさか」
社長「うむ、所属アイドルはおろか、プロデューサーもいない。正真正銘、君が第3芸能課のプロデューサー第1号だ」
P「ウェエエエエエエエエエエ!?」ガビーン
社長「はっはっは、派手なリアクションありがとう!」
社長「そう心配するな、君の為にとっておきの助っ人を用意しておいた」
P「助っ人?」
社長「おーい、よろしく頼むよ~」
「やっと私の出番ですか、待ちくたびれましたよ!」
社長「紹介しよう、――君だ」
アシスタント「初めまして、――よ。今日から、貴方のアシスタントを務めさせていただくわ!」
社長「――君は元々、別の事務所で働いていたのだが…色々あって、ここ、第3芸能課の所属となった。彼女のアシスタントとしての経験や実績はかなりのものだ、きっと君にとって心強い味方になってくれるだろう」
アシスタント「Pさん、まず貴方には、プロデュースとは何たるかを知ってもらう必要があるわ…プロデューサーとして働くのは、その後よ」
P「な、なるほど…」
P「は、はい」
アシスタント「声が小さい!!!」ビシッ
P「ハイ!!!」ビクッ
アシスタント「よしっ!それじゃあ、まずはこの教本の内容を今週中に“全て”暗記しなさい」ドサッ
P「ウェ!?これ全部ですか!?無理ですよ!」
アシスタント「無理かどうかなんて、始めてもいないのに分かるわけないでしょ!」
P「そんな無茶な…」
アシスタント「ほらっ、とっとと始める!時間は有限なんだからっ!!」
P「しゃ、社長!!助けてくd……あれ、いない!?」クルッ
アシスタント「手を止めた状態で1分経過するごとに、覚える量をどんどん増やしていくわよ~」
P「まっt」
アシスタント「はい、1分経過!」ドサッ
P「ウゾダドンドコドーン!!」
教本の暗記だけではない、効率のいい営業の取り方、上手なスカウトの仕方、
流行を逃さない選択眼の磨き方、不審者の撃退法などなど、あらゆる技術を叩きこまれた。
時々、本当にプロデューサーに必要な技術なのか疑問に感じるものもあったが、全力で身に付けるよう努力した。
そして、1ヶ月後…
アシスタント「ええ、最後までよく頑張ったわね…もう、私から教えることは何もないわ」
アシスタント「貴方はもう、立派なプロデューサーよ……誇っていい…!」
P「~~~っ、よっしゃああああ」
社長「お、二人ともお疲れ」
P「お疲れ様ですっ!」
アシスタント「お疲れ様です、社長」
社長「おお…見違えるほど逞しくなったな、P君」
P「ありがとうございますっ、今の俺は無敵ですよ!!」
アシスタント「ええ…もう十分成長したかと」
社長「そうか…P君、君にプロデューサー見習いとしての、最後の試練をだそう」
P「はいっ」
社長「知っての通り、第3芸能課には、まだ所属アイドルがいない…君が、トップアイドルの卵を見つけ出してくるのだ!!」
P「!」
社長「…1週間以内に、だ」
P「…ふっ、問題ありません。1週間とは言わず、3日で見つけ出してみせますよ!」
P「アシスタントさんとの地獄の特訓を乗り越えた今の俺は……負ける気がしねぇっ!!」
社長「よしっ!P君っっ、行ってこい!!」
P「任せてくださいっ、最高の女の子をスカウトしてきますよ!!俺の為に、346のために、まだ見ぬファンのために!!」ダッ ガチャ バタン
社長「やはり、私の目に狂いはなかった…彼ならきっと、素晴らしい魔法使いになれるだろう」
アシスタント「ええ、今後が楽しみですね」クスッ
「千枝ちゃんは、すっごく良い子ね~」
「ホントよね~うちの子なんて、あれ欲しい、これ欲しいって、いつもワガママで…」
大人の人は皆、私のことを“良い子”と言った。
「千枝さんはとってもまじめな子ですよ。礼儀正しくて、品行方正で」
「佐々木は偉いな、毎回予習復習をしっかりしてきて…他のみんなも佐々木を見習ってくれたらいいんだが」
学校の先生も、私のことを褒めてくれた。
「千枝ちゃんって、お裁縫上手なんだね!」
「ねね、私にも教えて?」
クラスの女の子達は皆、私と仲良くしてくれた。
もちろん、褒められたり、仲良くしてくれるのは嬉しかったです。
でも、そんな平凡な日々にすこし物足りなさを感じていました。
そんなこともあって、いつからか、私はひと一倍“オトナ”に憧れるようになっていきました。
かっこよくて、キラキラしていて、ちょっぴり悪い“オトナ”…その最たるものが芸能界でした。
テレビで活躍する女優さん、歌手さん、モデルさん…彼らは、私にとって憧れの存在だったんです。いつか…自分もただの良い子じゃなくて、たくさんの人に憧れられる“オトナ”になりたい…そう思っていました。
ママ「千枝、ちょっとおいで~」
千枝「ママ?どうしたの?」
ママ「実はね、今日もらったチラシのことなんだけど…」スッ
千枝「ええっと…君も輝く星になろう…アイドル養成所…」
ママ「最近近くに新しいアイドル養成所ができたらしいの、良かったら千枝、通ってみない?」
千枝「えっ!私が!?」
千枝「わぁ~そうなんだ…!」
ある日、私はママにアイドルの養成所に通うよう勧められました。芸能界に憧れていた私にとって、それはまさにうってつけのものでした。
千枝「ママ!私、通ってみたいな…!」
ママ「ふふっ、千枝、いつもオトナに憧れていたもんね~♪わかったわ、明日手続きしに行きましょうね」
千枝「やった…!ありがとう、ママ!」
ママ「どういたしまして♪」
こうして、私はアイドル養成所に通うことになりました。
私と同じくらいの子から大きな大人まで、幅広い年齢の人達がレッスンを受けに来ていました。
ですので、養成所に通ううちにいろんな年頃の人と仲良くなることができました。
養成所に通う誰もが、アイドルになりたいという強い想いを持っていました。
絶対にアイドルになりたいと思っていたわけではない私にとって、それは衝撃的なことでした。
彼らに影響されたのか、次第に私自身もアイドルに対し、憧れを抱くようになっていきました。
候補生C「ねえねえ、千枝ちゃん、あのウワサ…知ってる?」コソッ
千枝「Cちゃん?ウワサって、何?」
レッスンの合間の休み時間、友達のCちゃんが私にコソコソ話しかけてきた。
候補生C「あのね…この養成所に時々、芸能事務所のプロデューサーが見学しに来てるんだって!」
千枝「え…そうなの…?」
候補生C「うん…それでね、その人たちにいいな~って思われた子は直接スカウトされることもあるらしいよ!」
千枝「へえ~すごいなぁ」
候補生C「何他人ごとみたいに言ってるのよ!これはチャンスよ…千枝ちゃんもかわいいんだから、もっと普段から周りにアピールしないと!」
候補生C「そうっ!こう、両腕を頭の後ろに回して・・・」ウッフーン
先生「こらっ」ペシッ
候補生C「あいたっ」
先生「バカなことやってないで、ちゃんとレッスンの振り返りをしなさい?Cさん、足を交互に出すところで危うく転びそうになってたじゃない」
候補生C「は~い…」
先生「佐々木さんはよくできていましたよ。今後もこの調子で頑張ってくださいね」
千枝「は、はい。ありがとうございます…!」
候補生C「むむっ、さすがだね千枝ちゃん!こうしちゃいられない、アタシも頑張らないと!」スクッ
千枝「Cちゃん?休み時間はまだ終わってないよ…?」
候補生C「ちょっと自主練してくるー!」タッタッタ
先生「あんまり無理しちゃダメよー 候補生C「わかってるー!」……もう、Cさんったら」スタスタ
もし…もし自分をスカウトしてくれる人がいるとしたら、どんな感じなのだろう…?
千枝(芸能事務所のプロデューサー…やさしい人だといいな…)
そして、数ヶ月後、遂に運命の出会いを果たすんです…大好きな“あの人”と
「あ、あの!そこの君、ちょっといいかな?」
千枝「え?」クルッ
レッスン後、帰り支度をしようと準備をし始めた時のことです。私は誰かに声を掛けられました。振り返ると、そこには大きなオトナの男の人が立っていました。
千枝「えっと…もしかして、私のことですか?スタッフさんかな…?は、はじめまして!佐々木千枝です」
千枝「あ、ありがとうございます。お父さんとお母さんが、私の為につけてくれた大切な名前なんです」カアァ
「千枝ちゃんも、ここでレッスンを受けているのかい?」
千枝「はい。今、養成所で、週に1回レッスンを受けています。数ヶ月前に入ったばかりで、まだまだですけど…いろんなことが学べて、とっても楽しいです」
「なるほど…もしかして、自分からアイドルに憧れて、ここに通うことを決めたとか?」
千枝「い、いえ!養成所は、もともとママに勧められて入ったんです。学校では知れないことが勉強できるからって。だから、絶対アイドルになりたいわけじゃなかったんです」
千枝「でも、レッスンは楽しいですし、お友達もたくさんできたし…私、ずっと“オトナ”の世界に憧れていたんです。だから、最近はアイドルになりたいって気持ちも強くなってきて…養成所も、今は好き…です」
「そっか…」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたね…」ゴソゴソ
千枝「?」
「…はいっ、これ!受け取ってくれないかな」スッ
千枝「あっ、はい。え~と…346プロダクション だい3げいのうかしょぞく…えっ、こ、これ…もしかして…!」
「佐々木千枝さん!あなたを、我が346プロダクション 第3芸能課のアイドルとしてスカウトしますっ」
千枝「『スカウト』?も、もしかして、千枝、アイドルになれるってことですか!?」パアァ
「そういうこと!」
千枝「うわぁっ!とっても、とってもうれしいですっ!私、いっしょうけんめいがんばりますっ!」
千枝「スカウトしてくれたってことは…あなたがプロデューサーさん…なんですか?」
P「ああ!もし、千枝ちゃんが346プロに来てくれたら、君のプロデューサーになる予定なんだ」
P「へへへ、それって親しみやすそうってことだよな?それなら…嬉しいな」ニッコリ
千枝「!」ドキン
P「?千枝ちゃん?」
千枝「え、えっと…でも、ちょっとだけ…ドキドキ…するかも……ぷ、プロデューサーさん、千枝をよろしくお願いしますっ。いろんなこと、これからやさしく…教えてくださいっ!」ドキドキ
P「ああ、勿論さ!俺の名前はP。千枝ちゃん、これからよろしくな!」
~レッスン場~
P「千枝ちゃん、レッスンお疲れ」
千枝「あっ、おはようございますっ!プロデューサーさんっ!」
P「うん、おはよう。どうだった?346プロ所属になって初めてのレッスンは」
千枝「う、それが…千枝、まだまだ分からないことがいっぱいで…。ちょっと、しょんぼりした気分になっちゃいました…」ショボン
千枝「やっぱりプロのレッスンは、養成所とはぜんぜんちがいますね。緊張しちゃって、上手にできなかったんです…養成所だったら笑って許してくれる失敗も、怒られて…」ギュッ
P「千枝ちゃん…」
千枝「ダンスは振付を忘れて、リズムに遅れちゃったし、ヴォーカルレッスンは恥ずかしくて、大きな声が出せなかったし、ヴィジュアルレッスンでは『表情がかたい』って言われて…」
千枝「アイドルになるのって、やっぱり思っていたより大変です…。こんなで、千枝、ちゃんとしたオトナっぽいアイドルになれるのかなぁ…」
千枝「そうですか…?」
P「ああ!…千枝ちゃん、突然だけどさ、少しクイズでもしようか」
千枝「え…クイズ…ですか?」
P「そうっ…問題!346プロの社員として働いている俺…プロデューサーになってから、どれ位たっていると思う?」
千枝「う~ん……プロデューサーさんはいつも、たくさんお仕事していて、千枝が知らないこともたくさん知っているオトナな人だから……数年くらい…?」
P「ふっふっふ、正解は……なんと、たったの数ヶ月でしたー!!」
千枝「え!そうなんですか!?」
P「千枝ちゃんは俺のこと、しっかりした大人の人だと思っているかもしれないけどさ、本当は違うんだ。プロデューサーとしても、大人としてもまだまだ未熟なんだよ」
P「仕事でミスをしてアシスタントさんに怒られることもあるし、プロデュースで分からなことがあると、先輩に話を聞きに行ったりすることもある…俺も、千枝ちゃんと一緒なんだ。もっとたくさん勉強しなくちゃならない」
千枝「プロデューサーさんが…私と同じ…」
P「聖さん…ベテトレさんが厳しいレッスンをするのも、全部、千枝ちゃんのことを想ってのことなんだ。千枝ちゃんが将来、素敵な“オトナ”のアイドルになれるよう…舞台の上で輝いて欲しいって思っているからなんだよ」
P「だからそんなに気を落とさなくても大丈夫。俺も、千枝ちゃんも、これからどんどん成長していけばいいんだ…二人一緒にな!」
千枝「あ、ありがとうございます、プロデューサーさん!そうですよね…まだ、始まったばかりですもんね…!」
千枝「千枝…まだまだかもしれないですけど、レッスンもちょっとずつだけど上達するようがんばって、アイドルのことも、いっしょうけんめい、覚えていきます!」
千枝「千枝、早くみんなに憧れられるような…立派で、オトナっぽいアイドルになれるよう、がんばりますからっ!」
P「おう!その意気だ!」ニッ
千枝「だから、もし…もし、ちゃんと大人っぽいアイドルになれたら、そのときは……千枝のこと、いっぱいほめてくれたら、うれしいなぁって思いますっ!」
P「千枝ちゃん…わかった!その時はもう、めいっぱい褒めてやるからなー!!」
千枝「えへへっ///」
千枝(プロデューサーさん…やっぱり優しくて、かっこいいな…千枝のプロデューサーがPさんで、本当によかった)とくん とくん
悩んでいる時は、たくさんアドバイスをしてくれた。
まだ小さかった私にもまっすぐ向き合ってくれるPさん…
そんな彼に、私はだんだんと惹かれていきました。
小学生の女の子を惚れさせるなんて、Pさんも悪い“オトナ”ですね。ふふっ…♪
プロデューサーさんと二人でアイドルを目指す日々、毎日が刺激的で、本当に楽しかったです。
そして…
千枝「で、デビューライブ!?」
P「ああ!千枝ちゃんのデビューが決まったんだ!もちろん、曲や衣装もあるぞ!」
千枝「す…すごい…!千枝、とうとう本物のアイドルになれるんですね…!」
P「そうだ!ライブまでの数週間、今まで以上にレッスンの時間を増やすぞ…!ちゃんと付いて来れるかな?」
千枝「はい…!千枝、もっともっ~と練習して、立派なアイドルになれるようがんばりますっ!!」
P「よしっ、俺も全力でサポートするから、一緒に夢、叶えような!!」
パパやママ、友達のみんなもたくさん応援してくれました。
今まで以上に厳しいレッスンでしたが、一つ一つこなすごとに、どんどん自分が上達していくのが分かる…
夢に近づいているのを、身をもって実感しました。
そして…
P「さぁ…とうとうこの日がやってきたぞ…!千枝ちゃん、いけそうか?」
千枝「はい…!初めてのライブで、ちょっとだけこわいけど…それ以上にワクワクしているんですっ」
P「千枝ちゃん…ホントに立派になったな!俺…今までプロデューサーやってきてよかった…!」ウルウル
千枝「プロデューサーさん…まだライブは始まっていませんよ!」
P「おっ、そうだったそうだった。涙はライブが終わるまで取っておかないとな」
P「ん?なにかな?」
千枝「もし…もし、ライブが成功したら、一つだけ、ご褒美をくれませんか…?」もじもじ
P「ご褒美?うん、いいぞ!ステーキでもおすしでも、何でもござれだ!」
千枝「ホントですかっ!えへへ、ぜったい、ぜっ~たい、約束ですよっ」パアァ
P「勿論だ!プロデューサー、嘘つかない」
スタッフ「佐々木さん~、スタンバイの方お願いしま~す」
千枝「は~い!…プロデューサーさん、千枝、行ってきますね!」ダッ
P「ああ!千枝ちゃん、頑張れー!!!」
プロデューサーさんがいたから、アイドルとしての私がいるんです…だから…
千枝のこと、ひとりの女の子として、見てくださいね?
『プロ・・・さん、おき・・・ますか?』
『・・・・・・プロ・・・さん・・・』ギシッ
P(ん~、ううん…?)
仕事を一通り終え、仮眠室でひと眠りしていた俺、ふと誰かの声が聞こえ、意識が覚醒し始める。なんだか、懐かしい夢を見ていた気がする。
P「ん…千枝…?」
目を開けると、そこには…
P「ち、千枝!?な、なななななんでベットの上にいるんだ!?」ギョッ
今にも唇が触れ合いそうなほどの距離に、千枝の顔があった。
千枝「え、えっと、あの!プロデューサーさんが眠っているのを見て、昨日も頑張っていたのかなあとか、意外と寝顔はかわいいんだなあとか思ってて…!だから…その…!」アセアセ
P「わ、わかったわかったから、一旦落ち着いて!近い近い!」
千枝「ご、ごめんなさい!今、どきますk あっ…!」ギュッ
P「うわっ!」
ワイシャツを引っ張られた勢いで、ふたり同時に倒れ込む。
……ん?なんだ?この柔らかい感触…?
千枝「んあっ……?」ビクッ
気が付くと、俺が千枝を押し倒す形になっていた。
P(な、なにぃぃぃぃぃ!)
突然のことで頭が真っ白になる、いい歳しながら女性経験はからっきしな俺にとって、目の前の光景はパニックに陥るには十分なほど、衝撃的なモノだった。
P(え…!?俺、今何触ってんだ!?え、は!?)ムニュッ ムニュッ
千枝「はー…はー…プ、プロデューサーさぁん……」トローン
P「うっ」ドキン
顔が赤らみ、とろけた顔で俺を見つめてくる千枝、目の前にいるのはもはや、かつての幼かった少女ではない…
身も心も成長した“オトナ”だった。
男としての本能が目覚めそうになるのを必死に耐えながら、千枝のカラダから離れようとした。すると、千枝が俺の腕をつかみ、自分の胸に押し当てた。
P「ち、千枝?は、はなしてくれ…このままじゃ、俺…」ドキドキ
千枝「………いいですよ……」
P「…えっ…」ドクン
千枝「プロデューサーさんになら……私…」ドクン ドクン
P「――」ゴクリ
その一人が俺に対し、熱っぽい視線を向けてくる。
そんな彼女に対し、俺は…
千枝「……」
P「え、え~と」ダラダラダラ
恐る恐る声が聞こえた方へと振り返る、そこには…
「…………………………」壁|ω・`)ジー
「……P……浮気は……ゆるさない……」ニャー
「先生……?」ギュッ
P「ち、違うんだ…こ、これには深い訳があってだな…?」ダラダラ
千枝「…分かってるなら邪魔しないでほしいなぁ…」
「ふふふ、そういうわけにはいきませんの。プロデューサー様は“わたくし”の旦那様になるんですから」
千枝「へえ…面白い冗談を言うんだね、桃華ちゃん」
「ふふふふふふ」
千枝「あははははは」
P「ヒエッ…」
P(こ、怖っ、なにがどうなってんだ…!)
俺は助けを求めるため、他のアイドルに顔を向けた。
こっちも怖かった!
「……………………………」壁|ω・`)ジー
P「ダディャーナザァーン!ナズェミテルンディス!!」
「ありすですっ!!!」クワッ
ほっ、よかった。ありすはいつも通りだな!
「先生……やっぱり、薫みたいなコドモじゃ…ダメなのかな…」
うっ、なんだか罪悪感が…
P「このままじゃ、収拾がつかない…!と、とりあえず起きるぞ!」
「プロデューサーさんには、私達のプロデュースをするという大事な役目があるんですよ…あまり心配させないでください」
「そうだよ!ごはんをカップ麺だけですませるなんて…ちゃんとした栄養を取らないと、カラダを壊しちゃうよ…先生が病気になったら、私……」
「P……昨日……家に帰って……来なかった……私……寂しかった……」
千枝「プロデューサーさんが私達のことを想って働いてくれていることはわかっています。でも、無理をして仕事をするなんて…ダメです!私達にとって、プロデューサーさんはかけがえのない存在なんですから」
P「ご、ごめんな…今手が空いているのが俺しかいなかったから…普段はこんなことないんだが…」
「聞き捨てなりませんね。プロデューサーさんの奥さんになるのは私です!最近、いちごパスタの新しいレシピが完成したんです。プロデューサーさんには一番に食べて貰わないと」
「先生……私、先生の為なら、美味しいご飯、毎日作ってあげられるよ!だ、だから…その…薫が先生の…お嫁さんに…」もじもじ
「……P……今日こそ……一緒に……寝るの……ペロも……待ってる……」ニャー
千枝「プロデューサーさん…私、本気ですから」
P「は、ははは……」ダラダラ
どうやら、俺のプロデュース生活はこれからも波乱万丈のようだ。
終わり
もし見かけたときは、よろしくお願いします!
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