モバP「懐かしのお隣さん」美穂「お、お兄さん!?」
モバP「未来のお嫁さん?」響子「はい!」
という言葉があります。私はそれを今、身をもって体験しています。
P「もしかして…美穂ちゃん?」
美穂「お、お兄さん!?ど、どどどどうしてここに!?」
これは、私とお兄さん。二人の出会いと別れ、そして再会のお話です。
ピンポーン
美穂母「は~い、今でま~す」
お母さんと二人でお家にいたある日、玄関のチャイムが鳴りました。
誰が来たのか少し気になった私はお母さんの背中に身を隠しながら、とてとてと付いていきました。
玄関のドアを開けると、そこには私よりもずっと年上の男の人が立っていました。
美穂母「あらっ、わざわざご丁寧にありがとうございます。こちらのほうこそよろしくお願いしますね。ほら、美穂、新しいお隣さんよ。ちゃ~んと挨拶するのよ」
みほ「…………」
お兄さん「いえいえ、え~と美穂ちゃん…だったかな?はじめまして、僕の名前はPだよ。これからよろしくね」
みほ「……はじめまして」
これが、私とお兄さんの初めての出会いでした。
ですから、よく一人で近所の空き地に遊びに来ていました。
この空き地にはたくさんのお花が綺麗に咲いていて、お気に入りの場所でした。
人があまり来ないのも居心地がよかったのかもしれません。
この日も私はひとりで公園に来ていたのですが…
みほ「どうしよう…みつからないよう」
公園に来たときには間違いなく付けていたクマの顔がデザインされたヘアピン。
お母さんにもらった大切な宝物でした。それが、気づいたときには外れてなくなっていたのです。
広い空き地に落とし物、簡単に見つかるはずもなく、ひとりでべそをかいていました。
そんな時、彼がやってきたのです。
お兄さん「あれっ、美穂ちゃん。こんなところで何してるの」
振り返ると、そこには学校帰りらしき姿のお隣さんがいました。制服を着ていたので中学校でしょうか。
みほ「え…あ…その……うう」ぽろぽろ
突然話しかけられた驚きと宝物を無くした悲しみで、私はとうとう泣き始めてしまいました。
みほ「グスッ、なくなっちゃったの…ひっく…くまさん」
お兄さん「くまさん?人形かなにか?」
みほ「あ、あたまに、つける、グスッ、やつ」
お兄さん「頭に付けるやつ…もしかしてヘアピンか」
お兄さん「よ~し、わかった!お兄さんが見つけてあげようっ」
みほ「グスッ、ほんと?」
お兄さん「うん!だからもう泣かなくても大丈夫さ」なでなで
みほ「う、うん…」
そして…
お兄さん「あ、あったぞおお!美穂ちゃん!あったよー!!」
みほ「ほ、ほんとっ!」
太陽が沈み始めた頃、お兄さんがヘアピンを見つけ出してくれました。
私は急いでお兄さんの元に駆け寄ります。
お兄さん「ほらっ、これだろ?」
みほ「う、うん」
お兄さん「しっかし、遅くなっちゃったなあ。もう少しで日が暮れるぞ…」
お兄さん「美穂ちゃんも一緒に帰ろう。きっと家でお母さんが夕食作って待ってるぞ」
お兄さん「ん?」
みほ「あ、ありがとう」
お兄さん「! どういたしまして!」ニコッ
それから二人で一緒にお家まで帰りました。綺麗な夕焼け空でした。
私のお母さんとお兄さんのお母さんも馬が合ったらしく、いつしか家族ぐるみな関係となり、お互いの家を行き来するようになりました。
私が遊びに行くとお兄さんはいつも笑顔で出迎えてくれました。またある時はお兄さんの方から私の家に遊びに来てくれました。
お兄さんと一緒に遊んでいくうちに私自身、明るく、前向きになっていったと思います。その甲斐もあってか、学校のクラスの子とも仲良くできるようになりました。
男の子はまだ少し苦手でしたけど…
そして、歳月が流れ…
『僕は、君のことが好きだ!』
『私も、あなたのことがっ』
お母さんと一緒にドラマを見ていた時、テレビ画面には男女が愛を囁き合い、キスをするシーンが映し出されていました。
みほ「ねえ、お母さん。どうしてこの人たちはお口とお口を合わせているの?」
美穂母「ふふっ、それはね、この男の人と女の人はお互いのことが大好きだからよ」
美穂母「キスをするのは恋をしてる相手にだからよ」
みほ「こい?お魚?」
美穂母「そっちじゃなくて…近くにいると胸の鼓動が激しくなったり、心があったかくなったり、ずっと一緒にいたい、離れたくないって思ったりすることよ。美穂にはいないの?クラスにそんな男の子」
美穂母「あらら、じゃあ…Pくんは?」
みほ「お兄さん?う~んと…」
クラスの男の子みたいに意地悪はしないし、いつも優しくしてくれる。
胸の鼓動…はわからないけど、仲良くしたいし、これからもお話したいと思っている。
そういった意味では好きなんだろうけど…
美穂母「ふふふ まだ美穂には早いかもね」
みほ「むー」
なんてことがあり、私は“恋”について考えるようになりました。
バレンタインシーズンに入り、学校では男女問わず、浮足立っていました。
何年何組の誰々がチョコをあげる予定だとかなんとか。そういった話ばかりが聞こえてきました。
もちろん私のクラスも例外ではありません。
友達A「みなさんはチョコレート、お渡しするのですか~?」
友達B「アタシはB組の××くんにあげるよー!」
友達C「美穂は誰かにあげるの?」
みほ「わ、わたし?」
みほ「え、ええっと」
友達C「美穂にチョコ渡されたら、男子なんてイチコロよね~こんなにかわいいんだし」なでなで
みほ「Cちゃんっ、は、はずかしいよ//」
友達B「それは困るわっ!美穂ちゃんっ、××くんはダメよ!」
友達B「もっちろん!このクラスの男子なんてみんなそわそわしてるじゃないっ」
男子共「」ギクッ
みほ「お兄さんも…そうなのかな」ボソッ
友達C(ん!?)ピクッ
友達B「賛成っ」
みほ「わ、わたしも一緒に作っていいかな?」
友達A「かまいませんわ~みんなで作った方が楽しいですわよね~」
みほ「え?なに?」
友達C「お兄さんって、誰かな~」ニヤニヤ
みほ「へ?あっ//」
男子共「!?」ガタッ
みほ「ち、違うよ!お兄さんはお隣さんで、いつも私に優しくしてくれて、一緒にいると楽しいだけでっ」あせあせ
友達A「年上の殿方を狙うなんて…やりますねぇ!」
友達C「もう少し詳しく聴かせてもらいましょうか…♪」
友達B「へっへっへ」
みほ「ひ~ん」
そして、放課後、Aちゃんのお家で集まり、みんなでチョコレートを作りました。
かわいくラッピングされた包みを持ち、私はお兄さんの家の前でうろうろしていました。
今までお菓子作りなんてしたこともなかった私ですが、みんなが協力してくれたおかげで、なかなか良いものができたと思います。
普段ならすぐにでもお兄さんに会いにいくのですが、今回は何だか気恥ずかしくて、インターホンを押すことすらためらっていました。
みほ「うう…みんながあんなこと言うからぁ」
友達B「いい!?美穂ちゃんっ!オトコを墜とすのに一番重要なのはLOVEよ!LOVE!ありったけのLOVEを相手にぶつけるのよ!」
みほ「あ、あの。お兄さんとはそういう関係zy」
友達A「い~え、違いますわ!小日向さんの想い人は年上の殿方ですのよっ。力押しは通用しません!向こうから寄ってくるようにするための“誘惑”が重要ではなくて!?」
友達B「ええ~、絶対LOVEだよー!」
友達A「いーえ!誘惑です。世の中の殿方は皆、年下の少女に対してリビトーを抑えきれない生き物だとお姉さまが常日頃から言っていました!間違いないですっ」
友達A「リビトーというものはですね…」
友達C「二人とも、ストップストップ!そんなんじゃ、美穂がついていけないって」
AちゃんとBちゃんの熱い議論をCちゃんが止めていました。
みほ「う、うん」
友達C「だったら、変に取り繕ったりせず、自分の正直な気持ちを伝えればいいと思うな。そのほうがきっとお兄さんも喜んでくれるよ」
みほ「そ、そうかな?喜んでくれるかな?」
友達C「うん!」
友達B「LOVEだよ~」
友達A「誘惑ですわ~」
友達C「まだ言うかこやつら」
みほ「自分の正直な気持ち…かあ」
AちゃんとBちゃんの言っていたことはよくわからなかったけど、Cちゃんの言っていたことは分かる。
“ありがとう”はお互いが嬉しくなる魔法の言葉だ。
ピンポ~ン
みほ「…」どきどき
P母『は~い、どちらさまですか~』
みほ「こ、小日向です!」
P母『あ!美穂ちゃんね!今開けるからちょっと待っててね!』
みほ「は、はい!」
P母「いらっしゃ~い!ささ、入って入って!」
みほ「お、おじゃまします。」
P母「Pに用事よね?今呼んでくるから!」
みほ「お、お願いします」
お兄さん「あれっ、美穂ちゃん?どうしたの」
みほ「えっと、その…」もじもじ
みほ(勇気をだせっ、わたしっ)
みほ「お兄さん!こ、これ!受け取ってください!!」ズイッ
みほ「あのっ、いつもわたしと仲良くしてくれて…優しくしてくれて、ありがとうございます!そのっ、たくさん想いを込めて…一生懸命作ったんです。だ、だから…」
お兄さん「美穂ちゃん…」
みほ「は、はい…」
お兄さん「ありがとうっ!!!」
みほ「わっ」
みほ「ど、どうぞ」
お兄さん「よーし、チョコ♪チョコ♪女の子からのチョコレート♪」ごそごそ
お兄さん「おお…いろんな形のチョコだ。ハート型に星型、これは…クマ型かな?いや~なかなか凝ってるね~」
みほ「と、友達と一緒に作ったんです、放課後にみんなで集まって…」
みほ「」どきどき
お兄さん「うまいっ、うまいぞお!口の中に濃厚な生チョコレートとトッピングの粒の味が絡み合い…美味しいです…」
みほ(よ、喜んでくれた!)
みほ「ど、どういたしまして。えへへ//」
私の作ったチョコレートを受け取ったお兄さんはとても喜んでくれました。彼の満面の笑顔を見ていると、私の心がだんだんとあったかくなっていくのを感じました。
先生「と、いうわけで、皆さんには将来の夢について書いてきてもらいます」
授業の終わりに先生から宿題を出されました。テーマは“将来の夢”。
先生「提出日は明日だから、忘れないようにね!」
みほ「将来の夢…かあ」
学校の帰り道、友達と別れた私は宿題で出された“将来の夢”について考えていました。そんなこと、今まで考えたこともなかったからです。
みほ「…お兄さんはどうなのかな」
お兄さん「僕がどうかしたって?」
みほ「うひゃあっ」
お兄さん「わわっ、ごめん。驚かせちゃったか」
振り向くと同じく学校帰りらしき、お兄さんがいました。
みほ「お兄さん、その、実は…」
お兄さん「なるほど…将来の夢か~」
落ち着いて話せる場所に行きたいと思い、私とお兄さんは、久々に空き地に来ていました。
みほ「わたし、将来の夢なんて考えたこともなくて…何を書いていいか分からないんです」
みほ「お兄さんは“夢”、あるんですか?」
みほ「! そうなんですか?」
お兄さん「僕はね、プロデューサーになるのが夢なんだ」
みほ「ぷろでゅーさー?」
お兄さん「プロデューサーっていうのはね、アイドルを夢見る人たちのお世話をして、誰よりも輝かせる仕事なんだよ」
お兄さん「そうだね…誰かのために一生懸命な人、自分に自信がない人、夢に向かって頑張ろうとする人、そんな人達の支えになりたいからかな。あ、あと、かわいい女の子が歌う姿を間近で見たいってのも理由の一つだなぁ」
お兄さんはそうやって、照れ臭そうに自分の夢を話してくれた。
お兄さん「ははっ、ありがと」
みほ(かわいい女の子が歌う姿を間近で見たい…かぁ)
みほ「ねえ、お兄さん」
お兄さん「ん~?」
お兄さん「」ポカーン
みほ「な、な~んちゃって// やっぱり今の聞かなかったことn」
お兄さん「見たいっ!」キラキラ
みほ「えっ」
みほ「そ、そうかなあ//」
お兄さん「そうだっ、ね、ちょっとここで歌ってみてよ。はい、マイク」スッ
みほ「ど、どうしてマイク持ってるんですか!?」
お兄さん「まあまあ、細かいこと気にしなくていいから」
お兄さん「さあっ!」
みほ「ま、まだダメっ」
でも、別れはある日突然やってきたのです。
みほ「ひ、引っ越し…?」
美穂母「ええ、お隣さんの旦那さん…Pくんのお父さんの仕事の関係で、16日に引っ越しするみたいよ」
12月9日、1週間後に誕生日を控えた私に伝えられたのは、誕生日当日、お兄さんとお別れになるという残酷な事実でした。
みほ「お兄さんと…お別れ…?」
美穂母「美穂?寂しいのは分かるけど、これは仕方がないことなのよ。せめて笑顔で見送ってあげないと」
みほ「そ、そんな…嘘、嘘だよ、そんなの信じない!信じたくないっ!」ダッ
美穂母「美穂っ!?」
みほ(嘘だ嘘だ嘘だ、お母さんがわたしに意地悪しているだけなんだ!!お兄さんなら絶対に否定してくれる!いつもの優しい笑顔で、そんなことないよって言ってくれる!お兄さん…お兄さんっ!!)
家を飛び出した私はお兄さんの通う中学校の通学路で、自分よりも年上の学生がちらほら帰宅して来るのを横目に、お兄さんの帰りをじっと待っていました。
しばらくすると、数人と同級生たちと談笑しながら歩いてくるお兄さんの姿が見えてきました。
お兄さん「へ?美穂ちゃん!?ど、どうしたんだ、そんな血相を変えて」
友人A「え?誰?Pに妹っていたっけ?」
友人B「か、かわいい…」
友人C「この前言ってた近所に住んでいる子でしょ。ほら、Pくんがお隣にとても可愛い子がいるって惚気ていたじゃない?」
友人A「おう、また明日な~」
友人B「かわいい…」
友人C「何時まで言ってんの!Pくん、またね」
お兄さん「ああ、またな」
お兄さんと一緒にいた人達はそういって帰っていきました。
お兄さん「とりあえず、空き地へ行こうか。ここじゃ、落ち着かないしさ」
お兄さん「それで…どうしたの?何かあったの?」
みほ「お、お兄さんっ。引っ越しするなんて…熊本を離れるなんて嘘ですよねっ!」
お兄さん「え、誰に聞いたんだ?それ」
みほ「お母さんです。16日にお兄さんが行ってしまうって…」
みほ「…どうして、何も言ってくれないんですか…?」
お兄さん「…ごめん。嘘じゃないんだ」
みほ「!」
お兄さん「僕は来週、東京に行く」
美穂父「美穂の様子はどうだ?」
美穂母「ダメね、完全に塞ぎ込んじゃってる。Pくんの口から直接引っ越しの話を聞いて、余程ショックだったんでしょうね。さっき、Pくんが事情を話しに来てくれたわ」
美穂父「美穂にとって、そんなに大切な人なのか、Pくんは」
美穂母「当たり前じゃない。人見知りだった美穂が、友達を作れるほど明るく、前向きになれたのはPくんのおかげだもの」
美穂父「…そうか、辛い思いをさせてしまうな。美穂には」
美穂母「…美穂…」
みほ「グスッ、お兄さんのバカっ、ずっと一緒にいてくれるって思ってたのに…」
家に帰ってきた私はご飯も食べずにベッドに入り、ふて寝していました。
本当は分かっていたんです。お母さんは嘘をついていなかったこと、お兄さんが引っ越しするのは仕方のないことだということ、そして、残された僅かな時間を一秒たりとも無駄にしてはいけないということも。
みほ「明日からは…いつものわたしに戻るから…だから、今日だけは…許して…」
みほ「おはよう!お父さん!お母さん!」
美穂父「あ、ああ、おはよう」
美穂母「え、ええ…おはよう美穂」
みほ「き、昨日はゴメンね!せっかく作ってくれたご飯も食べずに寝ちゃって!」
美穂父「そうだぞ、お父さんから学校に連絡しておこうか」
みほ「もー!何言ってるの二人とも~!こんなに元気なのに学校をサボるわけにはいかないでしょー!!それに、来週にはお兄さんもいなくなるんだよ!だから…だからっ、少しでも元気なところを見せないと!!」
美穂父「……」
美穂母「……」
みほ(大丈夫、大丈夫、いつものわたしだ、ちゃんと…ちゃんと、しないと…!)
みほ「おはようございますっ!お兄さん!!」
お兄さん「み、美穂ちゃん?お、おはよう」
みほ「もー!元気がないですよっ!朝はもっと元気でいかないとっ!!」
お兄さん「あ、ああ。そうだよな。うん」
みほ(お兄さんに…心配なんて掛けられない…、もっと…明るく振る舞わないと…!)
お兄さん「…美穂ちゃん…」
お兄さんが引っ越しすることを知った次の日から、私は必要以上に明るく振る舞うようになりました。
お父さんやお母さん、そして、何より、お兄さんに心配を掛けたくなかったからです。
美穂母「最近の美穂、何だかひどく無理をしているみたいで…私も旦那もすごく心配しているんです」
P「やはりそうですか…僕と話すときも、必要以上に明るく振る舞っているようにみえます」
P母「きっと、家族やPに心配を掛けさせまいと思っているのね…」
美穂母「はい…何度話しかけても、大丈夫、平気の一点張りで。何もしてあげられないのが歯痒くて」
P「…あの僕に考えがあるんですが」
P母「P?」
P「15日のお別れ会の日なんですけど…」
みほ「もうっ、お父さんもお母さんもまだ帰ってこないのっ」
お兄さん「まあまあ、僕の母さんも来てないってことはきっと、渋滞にでも巻き込まれているのかもしれない」
みほ「で、でも…最後のお別れ会なのに…」
みほ(今日で終わりなのに…このままじゃ、お兄さんに楽しんでもらえないっ!)
みほ「お兄さん?」
お兄さん「ここ最近の美穂ちゃんは、なんだか必要以上に明るく振る舞っているようにみえたんだ」
みほ「! そ、そんなこと…ないです…」
みほ「…」
お兄さん「どうしてそんなことしていたの?」
みほ「…お兄さんは明日、東京へ行ってしまいますよね?」
お兄さん「うん…」
みほ「で、でも…ダメでした…少しでも気が緩むと、すぐに弱いわたしが出てきそうになるんです。お兄さんに出会う前の弱いわたし…」
みほ「お、お兄さんと仲良くなったおかげで、明るくなれた、前向きになれた、少しは強くなれたと思ってたのに!!全部、全部っ、勘違いだった!わたしは昔の、弱虫で、臆病で、意気地なしなままだった!!」
みほ「こんなんじゃ…お兄さんに呆れられちゃう…アイドルになんてなれるわけないよっ」
みほ「嫌だ…ずっと一緒にいたい、離れたくないよ…」ポロポロ
お兄さん「別に、弱くたっていいじゃないか」
みほ「え?」
お兄さん「それに、人と人の繋がりというものは、そう簡単に途切れるものじゃない。この先、絶対にまた会えるさ」
お兄さん「無理をした顔でお別れなんて嫌だ。僕は、美穂ちゃんの心から笑った顔が好きだ」
みほ「!」ドキッ
みほ「渡したい…もの?」
お兄さん「これさ」スッ
お兄さんから包みを受け取る、中を開けると、そこには白いクマのぬいぐるみが入っていました。
お兄さん「名付けて!プロデューサーくんだっ」
お兄さん「もし、美穂ちゃんが落ち込んだ時、へこんでしまった時、プロデューサーくんを抱きしめるとあら不思議、心がドンドン癒されていきますっ」
みほ「!?」
みほ「え…?」
お兄さん「お誕生日、おめでとう。生まれてきてくれて、僕と出会ってくれて、ありがとう」
みほ「!」ドクンっ
『近くにいると胸の鼓動が激しくなったり、心があったかくなったり、ずっと一緒にいたい、離れたくないって思ったりすることよ。美穂にはいないの?クラスにそんな男の子』
みほ(ああ、そっか。これが…)
P母「美穂母ぢゃ゛~ん゛、ま゛た゛あ゛お゛う゛ね゛~」ビエー
美穂母「P母ぢゃ゛~ん゛、も゛ち゛ろ゛ん゛よ゛~」ウエーン
美穂父「大の大人ふたりが号泣とは…」
お兄さん「ははは…」
翌日の早朝、お兄さんの家の車の前で最後のお別れをしていました。
お兄さん「いえ、僕はそんな大したことはしていませんよ。美穂は強い子ですから」
美穂父「それでもさ…本当に感謝している。まあ、美穂と付き合うのを認めたわけではないがね」
お兄さん「な、なにを言っているんですか!!そんなわけないでしょうっ!第一、美穂ちゃんはまだ小学生ですよ!?」
美穂父「なんだとっ!美穂では不満だというのか!世界一、いや、宇宙一可愛い女の子だぞっ!」
お兄さん「な、なんという親バカ…」
外では私以外のみんなが既に揃っていました。
美穂父「ん?ああ、美穂なら…」
みほ「お待たせしました!」
お兄さん「美穂ちゃん?遅かったけど何をしていt」クルッ
みほ「えへへ、に、似合いますか///」
お兄さんを見送る際、一番可愛い姿を見せたいと思い、お母さんと相談して決めた、リボンをあしらった、とびっきりのコーディネート。
みほ「お兄さん?」
お兄さん「…っは! う、うん。すごい似合ってる。可愛いよ」ドキドキ
みほ「本当ですかっ!嬉しいですっ」にへら~
お兄さん「ヤバいですね」
美穂父「当たり前だ。自慢の娘だぞ」
まだ終わりじゃありませんっ、ここからが本番です!
お兄さん「あ、ああ。わかったよ」
みほ「よ、よ~し」ボソッ
お兄さん「?」
みほ「」チュッ?
美穂父「」
美穂母「あら^~」
P母「あら^~」
みほ「お兄さん!大好きですっ。また、ぜったい、ぜっーたい!会いましょうね//」
P「あ、ああ」ドキドキ
みほ「えへへ///頬にキス…しちゃいました。唇は…恥ずかしいから、まだダメっ、ですっ」
時々落ち込んじゃうこともあったけど、私は元気ですっ。
そして…
美穂「私、東京に行きたいです」
高校生になった私は、家族に自分の夢を打ち明けていました。東京へ行き、アイドル養成所へ入るため、小さい頃、お兄さんと別れてから今まで、おこづかいをコツコツ貯めてきました。高校1年の長期休みにはアルバイトに精を出しました。そして、遂に目標金額まで貯めることができたのです。
美穂母「小さい頃からずっと憧れていたものね、アイドルに」
今でも、胸に焼き付く日々を思い出す。お兄さんとの思い出は、ずっと私の力になってくれていた。
美穂「覚悟なんて、とうの昔にできています」
美穂父「東京で、でっかい花を咲かせてみせろ!」
美穂「お父さん…!」
美穂母「美穂、あなたに渡すものがあるの」スッ
美穂「これは…通帳?」
恐る恐る中身をみると、目が飛び出しそうになる金額が書かれていた。
美穂「こ、こんなに受け取れないよ!わ、私っ」
美穂父「何かと必要になるかもしれないだろ?それに、娘が小さい頃から抱き続けた夢なんだ。それを応援するのが親の役目ってもんだろう」
美穂母「そうよ、気にせず受け取っちゃいなさい。あ、でも、無駄遣いはダメよ~東京の物価は高いんだから」
美穂父「東京で、“夢”叶えてこい」
美穂母「私達はいつでもあなたのこと想っているわ」
美穂父「…行ったな。東京行きの飛行機」
美穂母「ええ」
美穂父「寂しくなるな」
美穂母「あら、もう娘が恋しくなった?」
美穂父「当たり前だ。何年あの子の傍で父親をやってきたと思ってる」
美穂母「大切な人との別れ…美穂は今よりずっと小さかった頃に、それを乗り越えたのよね」
美穂父「ああ、本当に強い子だよ、美穂は」
美穂母「ふふっ、ひょっとしたら向こうで運命の再会をしちゃうかもね♪」
美穂父「何?どういうことだ?」
美穂母「夢を叶えるために努力してきたのは美穂だけじゃないってことよ」
美穂(お兄さん、私、頑張りますから…!)
P「ということがあって、年下の子の面倒をみるのに慣れていたんだよ」
デビューライブから数週間、アイドル五十嵐響子は瞬く間に話題になり、たくさんの仕事の話が舞い降りてきた。
今はそのひとつを終え、事務所に向かっているところである。
車の中での空いた時間、響子がなぜ、僕が子供の扱いに慣れているのか理由を尋ねてきたので、昔、熊本に住んでいた頃、隣に住んでいた女の子の話をしていた。
P「いや~、僕って一人っ子だったからさ。妹ができたみたいで嬉しくって。それはもう、必要以上に可愛がっていたものさ。今年で確か17歳くらいだし、響子と二つ違いの年だろうな。今頃どうしているのかなあ、きっとすごく可愛くなっているんだろうなあ」
響子「…むー」
響子「年下の女の子にキスされて、良かったですねっ!」ふんっ
P「な、なにを言うんだ!キスっていっても頬にちょっとだけだぞ?」あせあせ
P「ええ~、何年も前の出来事だからもう忘れてるだろ」
響子「女の子の初恋は、そう簡単に消えません!!!」
響子「私だって、いつもドキドキしてるのに…」ボソッ
P「へ?なんか言ったか?」
P「何でまた?」
響子「“好き”が同じだから、ですっ///」
P(響子もクマが好きなのかな?)
P、響子「「ただいま戻りましたー!」」
ちひろ「あ、プロデューサーさんに響子ちゃん。おかえりなさい。今日のお仕事はどうでしたか?」
P「はいっ!それはもう、バッチリでしたよ。スタッフの皆さんからもとても好評で…な!響子」ぽんぽん
響子「も、もうっ、プロデューサーさん!頭ぽんぽんされるのは好きですけど、他の人の前じゃ、その…恥ずかしいですようっ///」
P「ははは! ごめんごめん」
ちひろ「相変わらず仲がいいですねー」ジトー
響子「一心同体…ベストマッチ…えへへ」テレテレ
ちひろ「はぁぁぁぁ、ごちそうさまでした」
社長「うむ、仲良きことは美しきかな」
P「あ、社長。お疲れ様です」
響子「お疲れ様ですっ、社長さん!」
社長「Pくんもプロデュース、慣れてきたようじゃないか」
P「はい、まだまだ未熟なところもありますが…今なら何でもできそうな気分ですよ!」
社長「よしよし、これからもその調子で頼むよ……ところで、何でもできそうな気分、だそうだね?」
P「はいっ」
P「指令…ですか?」
社長「君、アイドル養成所のことは知っているかな?」
P「はい」
アイドルになるパターンは、大まかに分けると二つある。
一つ目は、響子のように事務所の人間から直接スカウトされるパターン。
街中や公園だけではなく、事務所の別部門から引き抜かれることもあるそうだ。
二つ目は、養成所に通い、アイドルになるための技術を磨きながら、事務所が開催するオーディションを受け、合格することでアイドルになるパターン。
また、業界の人間がお忍びで候補生の様子を視察しに来ることも少なくなく、養成所を通してスカウトの通達がされる人もいるらしい。
もちろん、許可を貰った人以外は勝手に養成所に入ることはできない。
社長「そして先日、養成所で見つけたのだよ。新たなトップアイドルの卵を!」
P「なるほど…つまり、僕にその子のプロデュースを任せたい…といったところですか」
社長「Exactly!その通りだよPくん!!」
響子「うわ~、新しいアイドルの子かあ」ワクワク
P「…」
最近はプロデュース活動にも慣れて、少し余裕が出てきた。
それに、新しい子が入ってくることで、響子にとってもいい刺激になるだろう。
アイドルの新しい魅せ方がみえてくるかもしれない。
…よしっ!
社長「おっ、引き受けてくれるのかね」
P「はいっ、任せてください!」
P「早速、新たなアイドルを迎える準備をしないと…その子の資料はありますか?」
社長「そのことなんだがね…Pくん」
P「はい?」
P「……はい!?そんな急にっ!?」
ちひろ「ふふっ」
社長「はっはっは 君なら間違いなく引き受けてくれると信じていたからね!」
P「~~~っ、わかりました!とりあえず、面接してきますっ」ダッ
響子「社長さんっ、私もご一緒していいですかっ」ワクワク ワクワク
社長「ん?そうだね、堅苦しい話は粗方済ませてあるから、顔見せも兼ねて、響子くんも会ってみるといい」
響子「ありがとうございます!
??「……」そわそわ そわそわ
トントン
P「失礼しますっ」ガチャ
??「あっ!」ガタッ
P「ごめんね、待たせちゃって。なにしろ急な話だったから」ハァハァ
??「い、いえ!こちらこそ、お忙しい中お時間を取っていただきありがとうございますっ」ペコリ
美穂「は、はい!自己紹介ですね。こ、小日向美穂です。す、すみません、緊張しちゃって…。ファ、ファンに愛されるアイドル目指して、が、頑張りたいです!ええっと、それから…」
P「ん?小日向美穂…?小日向美穂って言ったかい?」
美穂「は、はい」
P「もしかして…美穂ちゃん…?」
美穂「へ?」
美穂「お、お兄さん!?ど、どどどどうしてここに!?」
P「どうしてって…僕、この事務所のプロデューサーだし」
美穂「え、ええええええええええええええええええええ」
社長「これはどういうことかね?」
ちひろ「さ、さあ?」
響子(も、もしかして…!)
社長「なるほど…つまり、Pくんと美穂くんは既に面識があった…ということだね」
P「はい」
ちひろ「さしずめ、運命の人との再会を果たした!って感じですね」
美穂「はわわわ///」
美穂「わ、私もビックリしましたっ。自分がスカウトされたことすらまだ信じられないのに、まさか、担当プロデューサーがお兄さんだったなんて!」
響子「ねぇねぇ!」ズイッ
美穂「な、なにかな?」
ちひろ「!?」
美穂「ど、どうしてそれを///」
響子「やっぱり…!プロデューサーさんっ!美穂ちゃん、ちゃ~んとプロデューサーさんとした“キス”、覚えてましたよっ!!」
ちひろ「どういうことですかっ!プロデューサーさんっ!!!!」クワッ
ちひろ「言い訳無用!!お、女の子にとって、ファーストキスは宝石以上の価値があるんですよ///」カアァ
P「ちひろさんまで!?」
美穂「も、もう許して~///」
社長「やれやれ、また騒がしくなりそうだ」
新しく入居することになった女子寮には響子ちゃんの他にも個性豊かなアイドルの皆さんがいてとてもワクワクしました。
トレーナーさんが行うレッスンは養成所で今まで行ってきたものよりも更に本格的なもので、自分が本当にアイドルになったんだということを強く実感することができました。
響子ちゃんには何度も助けられちゃいました。私よりも年下なのにしっかりしているなあ。
そして、遂にステージの上に立つ日が訪れました。
P「いよいよデビューだな…準備は万全か?」
美穂「はいっ、この日のためにも、たくさん練習しましたから!」
P「よし、気合は十分!って感じだな」
P「思えば、美穂ちゃんに出会ってから10年も経っているんだよなぁ。出会ったばかりの頃、引っ込み思案だった美穂ちゃんが今や、アイドルとしてステージの上に立つ…感慨深いものがあるよ」
美穂「もうっ、プロデューサーさん!私、もう高校生なんですから、ちゃんづけは恥ずかしいって言ったじゃないですか!」
P「…お互い、夢を叶えることができたな」
美穂「違いますよ。プロデューサーさん」
P「え?」
美穂「夢を叶えたんじゃありません。これから始めるんですっ!!私とプロデューサーさん、それと響子ちゃんや事務所の人たち、みんなで!」
P「!…そうか、強くなったな、美穂」
P「そろそろ時間だな…」
P「よし、一発かましてこい!美穂!!」
美穂「はいっ、プロデューサーさん!私の晴れ姿、そばでしっかり、見ていてくださいね?」
P「ああっ!」
美穂「♪」ダッ
P「…頑張れよ、美穂」
弱虫で、臆病だったあの頃の少女はもういない。少女は今、夢の階段を登り始めていた
終わり
ここまで読んでくれた皆さん、ありがとうございました!
もし見かけた時は、よろしくお願いします!
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