地方エンジニアが感じる地方・中小企業での悩み

免罪符としての保守性

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 ※今回はいつもよりさらに限定されたところにのみ通じる話で、IT業界一般に通じる話ではありません。

 前回、ソースコードの保守性について色々と書いてみました。最後の方で「あまり重要視したくない」と、散々書いておいてそれかよ、的な締め方をしたので、今回はその点について書き進めていきたいと思います。

 前回、わたしの個人的な考え方として「保守性はそこに関わる人達の中で考えて適用する」という姿勢について書いてみました。しかし、この「関わる人たちの中で」というのがネックにもなると考えています。特に中小~零細企業に多いと思いますが、新しい技術・手法に対しては消極的なところが多いように見受けられます。そして、その時に意見として出されるものの中に、この「保守性」が挙げられるのです。

 保守性を盾にする人たちというのは、新しい技術や手法の導入に対して「メンテナンスが行いにくくなる」だの「できる人が限定されてしまう」だのを主だった理由として挙げてきます。気持ちとしてはまったく分からないというものでもありません。今まで培ってきたモノでは対応できなくなる、新たに勉強しなくてはならないなど、良くいえば「コスト」が新たに発生してしまうからです。ただし、現実はどうかといわれると、新たに発生するコストは微々たるもので、現状を維持することによって発生し続けるコストの方が割合は大きいのではないでしょうか。

 このような意見が出やすいことが、わたしが保守性を重要視したくない理由です。

 気持ちは理解できます。ですが、既存の様式を維持していきたいがために保守性を理由とするのは、技術者としてやはり誤った意識だと思えるのです。まだ教育にかかるコストが大きいといった理由の方が納得できます。中小~零細企業であれば、それがことさらに大きな負担であるのは事実です。世の中、雑誌や記事でいわれていることを実行できるほど、体力に余裕のある企業ばかりではありません。

 ですが、そのまま現状を維持していくことは、周囲の環境が変遷していくことを踏まえても、「維持」ではなく「後退」していることになるとわたしは思います。「現状を維持」というのは、「少しずつでも前に進んでいる状態」ではないのでしょうか? 自分たちが進んでいなくとも、周りは確実に前へ前へと進んでいるのです。このあたりは自分達の周囲だけでなく、もっと広い視点で判断してほしいものだと思います。1年間で見たときは良くとも、3~4年で見たときには、逆にコストがかかっているということも十分あり得るのです。

 ここからは非常に個人的な思い込みで書きますが、中小~零細企業であればあるほど、保守性よりも「新しい様式」を取り込む方向へ向かうべきではないかと思っています。極論・暴論と分かっていて書きますが、保守性を捨ててでも前に進む必要があると思っています。

 同じことを大企業と争ったところで、企業体力やマンパワーなどで劣る中小~零細企業に有利な点が少ないのは、どうしようもない現実です。反対に、大企業の方が不利な点として、小回りの利きにくい体制があると思います。大小さまざまな規約によって行動に制限を施されている以上、それは当然のことで、そのデメリットの代わりに品質や保守性などを得ていると思います。

 中小~零細企業が大企業と同じような方向性を向いたところで、そこにかけられるパワーの差は歴然としています。そのため、基本的には大企業とかぶらない領域をターゲットとした販売戦略を取ることになるのですから。真っ向勝負ができる企業は数少ないでしょう。

 新しい様式を取り込むことは、最も手軽に他企業との差別化を行える要素だと思っています。商品の内容で差別化を図るよりも数段やりやすいのではないでしょうか。時間が過ぎれば過ぎるだけ、差別化を行うことは難しくなってきます。いかにスピーディに時代の流れに対応するか、そこはわたしの中ではまだ取り組みやすい話だと思います。

 自分達の手間を考え、新しい流れに反対するのであれば、技術者としてだけではなく会社員としても間違っていると思うのはわたしだけなのでしょうか。少なくとも自分が勤めている企業には(ある程度とはいえ)生き延びていてほしいという願いがあることと思いますので、先々を考えると、手間があろうとやらなければならないことなのではないかと思います。

 例えば、Windowsプラットフォームを相手にした商売を行っているならば、それはVistaやWindows 7以降への対応であり、場合によっては.Net環境への移行であったりすると思います。「まだWindows XPは延長とはいえサポートされるからいいじゃないか」と思われる方もいるでしょうが、「サポートされる」ということと「入手できる」というのは当然ですが異なります。「メーカーによってはダウングレードサービスをやっているからまだ大丈夫だ」と思う方も同様です。いつまでそのサービスが提供されるのか(知っている範囲では2009年7月末だったと思います)、またダウングレードするために余分にコストが発生していないか(再セットアップ媒体費用とか)などなど、よく考えなくてはならない点は多々あると思います。

 UMPCのようにライセンス提供期間が伸びているものもありますが、基本としては新規に購入するPCにWindows XPがインストールされている環境というのは、これからますます減少していきます。どうやっても環境が移り変わることは避けられないのです。

 それならば、今のうちからでも対応するために手を打つ方がベターではないでしょうか。

 保守性は仕事を進める上では必ず考える必要があると思います。ですが、そこがネックになって前に進めないというのなら、思い切って

 「 今は 保守性一切無視」

という極端な姿勢で進むのは、十分アリだと考えます。

 保守性が良くても商売がうまくいかないようであれば本末転倒ですからね。

Comment(12)

コメント

三年寝太郎

>中小~零細企業であればあるほど・・・・保守性を捨ててでも前に進む必要がある

言いたかったのは実はそこですか(笑)

まあ、しかし、何年も中小企業をやってる会社というのは、大半が大手の先をいけないからこそ中小企業であり続けるわけで、先進技術への挑戦は強力な意思によって環境を整えられない限りほぼ不可能ですよ。

上層部からの指示、あるいは上層部の支持。
最低限、これがないと。

人に使われるより使ったほうが言いというレベルで起業された会社でも、ビジネスの人脈さえ確りしていれば、仕事があるから人も来るし、それなりに長く続けられます。
実際、技術的に何かをしたかったというよりは、経営者が独立して儲けたかったんだろうなと思えるところも多い。
しかし、もともと出来る人が間違ってそんな会社に入ったら、或いは、そこである程度のスキルを身に付けてしまった人が他にやりたいことが出来てしまったら、普通は飛び出していくものです。そういうケースも、よく見かけます。
あの人が辞めてから、なんかこの会社の仕事は冴えがない。ってな事もあるし。
辞めて欲しくない人が辞めていかない仕組みを作れない会社が、万年中小企業な会社なわけで、そして、それが保守的な保守性を生むプロセスの一つなのかもしれませんね。

わたしも、常々「現状維持は後退」という思いは持っています。
それも進歩の早い分野ほどその傾向は顕著ですね。極端なケースでは「現状維持の先は衰弱死」もある。
特にIT業界は、爆発的な多様性増大の中に未だにあります。ハードが進化し続ける限り、ソフトの進化もそれについて行かざるを得ないし、ソフトの進化がハードの進化を促しているので、まだまだ技術革新が留まる事はないでしょう。

ただ、中小企業には元々チャンスが極めて少ないのも現実です。一番大きいのは、最も基礎となる人材面で良質を確保し辛い。なのに、どんなレベルの人も安定を望む傾向は大きくは変わりません。
ここ半年の派遣遺棄や内定切りが常態化してきた現状は、良質な人材囲い込みの面ではチャンスなのですが、仕事が減っているから新しく人を受け容れるほどの体力も気力もない。
挙句の果てには、経営者が「こんなときこそ足元を確り見て、確実に仕事をこなして行きましょう。」なんて身も蓋もないこと言ってしまう。
今は、どんな業界も"ミゾユー"の不況に苦しんで、うつむいたり座り込んでる時で、足元なんて、嫌でも、意識なんてしなくても見れる。
でも、本当に足元を見なければいけなかったのは、バブルで舞い上がって足元が見えなくなるほど浮き上がってる時なのでは???
将来を見据えて経営してるはずの貴方達がそんなことでどうする??
苦しいときこそ夢を語ってくれ!!と突っ込みたくなります。
ピンチをチャンスに変える発想もないし、もっと悪いのはピンチになるまでそれをチャンスと思っていた節があったり。。。
これでは、ますます不利な状況に追い込まれて大企業との差が大きくなるのが落ちです。

大企業の下請けで何かを作ってるところは、結局大企業の業績が先に回復して、やっとそのおこぼれが回ってくるから、この不況を抜けた頃、人を採用し始めたときに、良質な人材は先に業績が好くなった大企業に持って行かれて、もう手に入らない状況にあるわけです。
若年層が減っている現状に加えて、新たな労働力になるのは、ゆとり教育に骨抜きにされてまともな人間教育も受けてない人たちが大半を占めるというのに。毎年新人が入るような会社ならともかく、数年に一度しか新卒を取れないところならい、余りのレベルの違いにどこから教えればいいのか困ることになりかねません。

結局、中小企業にとっては「それ以外に無い」という程貴重な原資になる「人」を確保できない。
万が一に良質な人が確保できても、周りとレベルが違いすぎて上手く能力を伸ばしてやれない、環境も作れない。故に居付かない。
先の通り、上層部の意思(上層部からの指示、あるいは上層部の支持)がなければ、縮小均衡に向かって安定を求める人だけが残っていくような現状を打ち破るのは難しい。
しかも、それを打ち破るためには、人が肌で感じられる変化が必要なので、上層部の意思の成果が結実してその恩恵を感じられない限り、安定から成長に気持ちを向かわせるのは難しいからです。

仮にそんな状況で「保守性一切無視」は、サービス残業の増加、効率の低下、人材の流出、のスパイラルに陥る危険も孕んでませんでしょうか。
それで会社が立ち行かなくなったらそれこそ意味が無くなってしまう。

やりっぱなしの仕事でも、質が高ければ実はそれで良いこともあるでしょうが。。。

しかし、少し視点を変えると、安定を求める人たちの仕事もまた、進歩の為の一つの基礎になっているのではないでしょうか?
むしろ、そういう土台の上に革新的な仕事をやれる環境があるのかもしれません。

当たり前のことですが、今の仕事を誰かに引き継がなければ、自分自身が新しい仕事に挑戦出来ません。
誰かが、過去の仕事を引き受けてくれなければ、未来に進めないのも事実です。
そう考えれば、前に進む人は、残って引き受けてくれる人が居ることを感謝しないといけないのかもしれません。

技術の進歩は、過去を背負ってくれる人、前に進む人、どちらも欠くべからず。
なのかもしれませんよ。

長文、失礼しました。

インドリ

技術の臣下を無視する事は逆に保守性が下がります。
というのも、
その技術の資料は将来にわたってありますか?
その古い技術を学ぶ人はどれだけいますか?
この2つの事を考慮すると、保守性という言い訳は余りにも馬鹿です。
これを見抜けない経営者もどうかしていると思います。
私が思うに、結局は「経営者が知らないものを売ろうとしている」のが問題の根源なのでしょう。
だから社員に言いくるめられて、固定費が増え続け会社が傾いても「会社を食いつぶす駄目な人」を優遇し続けるのでしょう(笑)

Ahf

三年寝太郎さんコメントありがとうございます。

言いたかった事の「一つ」はコレでした。他の点は前回皆さんからコメントを
頂けた中で指摘されたり、言ってしまったところがありまして・・・。

上層部の「支持」というのは大きい要素だと思っています。開発側だけで先進技術へ挑戦する、というのは言われる通り難しい事だとも思います。ただ「不可能」か、と言われますとそうでもないと思っています。先進技術と一概に言ってもなかなか幅は広いです。見た目に関わる部分も、目に見えない部分も数多くの新しい技術というのがあるかと思います。見えない部分の技術というのはまだ挑戦しやすいのかな、と個人的には思っていますが、どうでしょうか。

また、ご意見の中で締めに言われてます
>技術の進歩は、過去を背負ってくれる人、前に進む人、どちらも欠くべからず
という言葉には、はっとさせられました。どちらか一方だけということではなく両方があってこそ先に進むことができる。私みたいなタイプは気をつけないといけませんねぇ。

Ahf

インドリさんコメントありがとうございます。

その技術がどこまで利用されているか、というのは凄く難しい問題ですよね。
新旧どちらにも言えることですから尚更難しいですよね。

「経営者が知らないものを売ろうとしている」というのは、
現状の中小~零細企業のいいところ付いている、と思えました。
IT業界の企業であるならば、詳細までとは言わないまでもある程度
自分達の商品を、商品で利用されている技術を知っていて欲しい希望はありますね。

実際に経営をされている方々の意見というのをいつか聞いてみたいですよ。
今の私では気づかない視点が多々あると思いますので・・・。

としろう

保守性といってもどうやらごっちゃに扱われているようだけど。
開発成果物の保守性と
企業の姿勢としての保守的・・・
後者で語られているようなきがしておかしな話になっているような。

基本的には、
・一度作った物への小変更のようなものは同じ技術や作り方維持
ではないですか?

新しい物への挑戦も勿論大事ですが
・未成熟なツールや技術、酷いバグ持ち製品の採用
・新しい技術をいきなり勉強しながら客への製品作るの?
※ある程度使いこなせる、使えるなどの目処目算などへの初期投資はどこで?

これは重要ですぞ

まあ、最近思うのですが
忙しいときは、忙しい事を口実に勉強・新しい挑戦は避けられ
確実堅実がみえる実力発揮段階の手持ちスキルで稼ぐ割に
暇になる(不景気)になったときに、
その遅らせてきた自己研鑽に時間を割く経営者はあまり見ない事ですな
不況時こそ良い人材が安く手に入る好機とも見えるのにね。
よっぽど余裕のない経営ばかりなんだね
派遣で仕事切られると直ぐ生活破綻する方々のように
解雇とかしないとやってけないほど余裕ないのですかね

Ahf

としろうさんコメントありがとうございます。

ご指摘の通り、成果物と企業姿勢はまぜこぜになっていますね。
文章力が足りなく申し訳ありません。

「基本は~」と言われている点は解ります。ただしそれは案件の種類に関連すると私は思っています。全てが全て、同じ技術や方法を維持するものとは考えていません。恐らくその当たりが「基本は~」という領域として言われていると思いますが・・・。

不景気の際は良い人材を確保できる好機と見ることができる、という点は理解できます。としろうさんも言われているように、ある種の「ツケ」が廻っているため余裕のない経営状況の企業が多いのが現実かと思います。
・・・まぁ弁護する気はあまりないですけど。

傍観者

なんか論点があいまいな気がします。

本当の意味の保守性は稼動を継続するシステムには
必ず必要な要素だと思います。

言いたかったのは
ただ既存要員が変化を嫌って言う言い訳?

それは保守性云々ではなく
保守的じゃないでしょうか?

Ahf

傍観者さんコメントありがとうございます。

言われている通り、私の文章力のなさで論点があいまいになってしまっていると思います。判りづらい文章で失礼しました。

扱いたかった話題は、保守性を盾にした保守的な人員、と言えば良いでしょうか。
実際にこういう人と話すと、なかなか疲れるのですよね。
切り分けて議論できれば一番なのでしょうが。

Ahfさんの言われるところは『LLP』『LLC』を組んでみたいなてところではないでしょうか

私は九州のチベットの佐賀県の醤油屋ですが、何故だかWeb・人材教育・プログラム開発の関係者と佐賀県にて初めてのLLPを組み、現在それぞれが佐賀大学九州大学等、佐賀県、工業技術センター・水産技術センター・窯業技術センター等々と連携を組み。

それぞれが地下に潜伏し経営・活動等をしております。

こんなことを言ったら失礼ですが確かに東京の仕事量は多い。
ただ東京で仕事をする為だけにこだわっていたら、ただ仕事に追われるだけで
新しいことが何もできんと考えます。

私なら『いばらの道を進め』とお勧めします。
リスクは大きいように見えますが案外大丈夫だと考えます
自宅と預貯金担保にすればたいがい、都市銀行・地方銀行・ベンチャーキャピタルなどからの人的援助が受けられます。行政のアドバイスもひざつき合わせて向こうから援助してくれます、いなかっぺには根性ありますから(笑)

不適切な表現お許しください。

九州だったり、山陰・東北・北海道にいたほうが他業種といち早く顔をつき合わせて現在の仕事の再構築。新規事業への産官学連携が取り易い、私も平成6年まで食品一次卸問屋の物流情報部門にいて感じたとですけど、東京だけにおったら周りがよう見えんとですよ(笑)。

いったん野に下る大切さ。寺山しゅうじさんの『書を捨てよ、街へ出よう』の言葉ですが地方から東京大阪を見ると結構いろんなものが見えてきました(良い面。悪い面。考えさせられる面などなど)
Ahfさんへ地元の使いな仲間集めてLLPを早く立ち上げてほうが良かですよ

佐賀からの戯言でした
マルヨしょうゆ 吉末博昭
[email protected]
**********(Ahf注:電話番号の為伏せ字にさせていただきました)
詳細はこちらまで
お電話お待ち申し上げております(笑)

Ahf

吉末博昭さんコメントありがとうございます。

恥ずかしながらLLPやLLCについて明るくなかったので調べてみました。
今の勤める会社でどうにもならなくなった際には、考えてみてよいところだと思いました。ワーキングスタイルの延長としても興味深いですし、コミュニティの発展系としても大変興味深いものだと思います。

「いばらの道を進め」、その言葉忘れないようにします。
やるべき事をやり本当にどうにもできないと感じた時に活用させて貰います。

なおコメント中に電話番号が入っていましたのでそこだけ伏せ字にさせて頂きました。

吉末博昭

Ahfさんお気遣いありがとうございます
メールはふせてもらわなくても大丈夫です
スパムもどきのメールには慣れてますから(笑)
めーるでしか言葉をだせんヤツなんかは相手にしませんし、非通知ではなくきちっと名前をだして仕事しいきらんヤツにはまけとらんれんですから(笑)
--
今LLPやLLCは東京以外でひそかに増えています
地方から首都圏を一本釣りするぞと皆狙っています
--
速めに行動を起こすと何かあります
『ハイリスクはいりたーん』と『ろーりすくハイリターン』の混在する部分が地方に住んでいて見えてきました、東京にいたときには見えなかったもので

Ahfさん、佐賀まで観光に来ませんか、九州の血の濃い輩紹介します

ブログを荒らしてしまい申しわけありません
失礼します

Ahf

吉末博昭さん、再度のコメントありがとうございます。

何とも意志の強いコメントですね。
場所は違えど、地方から~という志で働かれている方がいるというのは
頑張って欲しいものと思います。

私も見習って何か行動を考えてみようかとも思いました。

ちなみに佐賀は・・・北海道からの場合下手な海外旅行並に高かったりします(笑
佐賀に限らず本州は軒並みそうなんですけどね。

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