医療訴訟と医賠責保険
1990年代後半から右肩上がりで増加した医療訴訟は、しばしば医療崩壊の一因として挙げられます。最高裁判所が公開しているデータによると、地裁・簡裁も含めた医療訴訟の新規受理件数は最高で1,100件(2004年)にも上りました。ただ、2005年以降からは減少傾向が見られ、2009年の新規受理件数はこの10年間で一番少ない733件となっています。
医療訴訟の減少は、医療機関の患者トラブル対策によって、訴訟に発展する前の段階で示談になるケースが増えたためという見方もあります。また、患者・家族と言った原告の主張が認められたかどうかを示す認容率が、一般の地裁民事の87%と比較して、20%と圧倒的に低いことも訴訟への高き壁となっています。ちなみに、訴訟数が多いのは、順に内科、外科、整形外科、産婦人科、歯科となっています。
医療訴訟は、医療者、患者・家族の双方が避けたい事態です。患者の賠償請求額は1億円を越えるケースも少なくないため、万が一に備えて、医師賠償責任保険に未加入の勤務医は早急に保険への加入をお薦めします。なお、日本医師会の会員である開業医の場合、自動的に保険の加入扱いとなっているので、新たな手続きは必要ありません。
多大な費用と労力、時間を必要とする訴訟を避け紛争の短期化を図るために、医療版事故調査委員会など、裁判でない形で中立的に原因の究明や仲裁を行う機関の創設を望む声も、患者側から出てきています。しかし、医療関係者の反対もあり、あまり進展していないのが現状です。