テレビとウェブでは視聴者数の定義に大きな違いがある。テレビの視聴者数は番組全体を通しての視聴者数の平均値。一方、ウェブは動画を一度でも視聴した人の累積数に重きを置いているのだ。なぜ、そのような違いが存在しているのか、一問一答形式で、説明していこう。
ヤフーが世界に先駆けて、米プロフットボールリーグ(NFL)の公式試合をライブストリーミング配信したのは1年前。同放送は世界中で1520万人ものユニークビューワーを獲得した。アメリカ国内で、ほぼ毎週日曜日に行われるNFL試合の視聴数は平均1000万から2000万なので、一見ヤフーのオーディエンス数はテレビと肩を並べたかのように見える。
ところが、実際そうはならなかった。テレビの視聴者数を計るのと同じ方法でヤフーのライブストリーミングのビューワー数を計測すると、結果は195分のライブストリーミング放送時間中の平均が約240万人となり、テレビが大きく引き離している。
これは、ひと言でいうならば、テレビとウェブでは視聴者数の定義に大きな違いがあるからだ。テレビでいうところの視聴者数は番組全体を通しての視聴者数の平均値。一方、ウェブは動画を一度でも視聴した人の累積数に重きを置いている。
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テレビとウェブでオーディエンス数測定方法が異なる理由、デジタルパブリッシャーやプラットフォームがなぜ多くのリソースを動画に注ぐのかを、一問一答形式で説明していこう。
――さて、ヤフーが獲得した視聴者数は1520万であり、240万でもある。どういうこと?
テレビの視聴率は米マーケティングリサーチ会社のニールセン(Nielsen)が、特定の番組の視聴者数を「アベレージ・ミニッツ(分平均)・オーディエンス」というメトリックを基に測定している。これは文字通り、60秒ごとの放送視聴者数の平均値だ。
ヤフーのライブ、ストリーミング視聴者1520万人となっていたが、その計測方法には最初の2、3分だけ観て、そのあとは一切見なかったような人や最後だけチラッと観た人も含まれている。テレビが平均値を取っているのに対し、こちらでは総数をカウントしているのだ。
――なぜ、これが重要なのか?
広告だ!
テレビ局は広告主に対して、ある番組を視聴する(または視聴した)特定の人数を保証しなければならない。ニールセン式で出された数値を見れば、広告主は平均視聴者数300万人の番組の合間に入れたCMは300万人の目に触れたのだと、自信をもって言うことができる(ただ、いくつか欠点もあるが、それは後述する)。
「『アベレージ・ミニッツ・オーディエンス』を利用することで、ただの通りすがりではなく、その番組がどれだけオーディエンスの興味を引いたかという、はるかに正確なビジョンを得ることができる」と、メディアコンサルティング会社でアナリスト、コンサルタントを務めるアラン・ウォーク氏は言っている。「テレビ局は自身の番組で高いエンゲージメントが得られると、広告主に伝えたい。どこに広告を挟んでも、人々が観てくれるのだと」。
――では、動画ビューはどうなのか?
これはただ動画再生回数をカウントしたもの。Facebookは3秒ごとにカウントしており、Snapchat(スナップチャット)は再生開始と同時に、またYoutubeは30秒に1回計測している。ある人が同じ動画を5回再生したとすると、ユニークビューワーが1人で総視聴回数は5回となる。
――いま、Facebookにとって、ライブ動画は大きな存在となりつつあるが、「アベレージ・ミニッツ」メトリックは提供されるのか?
答えは、ノーだ。Facebookは、ふたつのライブ動画メトリックを提供している。ひとつはピーク・コンカレント・ビューワー(ライブ放送中での最多ビューワー数)、もうひとつが放送時間中のライブビューワー数を示したビジュアルグラフだ。理論的にはFacebookライブ放送者が視聴者数を記録して、1分間ごとの平均オーディエンス数を出すことは可能だが、たいそう手間がかかる。
――これを提示しないFacebookにユーザーは不満を感じないのか?
現段階でそういったことはない。Facebookは3秒ごとにビュー数を計測しているおり、パブリッシャーが自身のストリーミング配信で獲得した総ビュー数を自慢げに披露するには、こちらのほうがずっとやりやすいのだ。
もしFacebookがライブ動画の収益性を公開したら、とりわけそこに動画再生中に挿入される広告が関わっていたら、広告主はそれを要求するだろう。Facebookがあらたな第三者調査機関にプラットフォームを公開するか、というのはまた別問題だ。
――つまり、オーディエンス数が少なく見えることから、ソーシャルプラットフォームはテレビ式のメトリックには反対だということか?
そうかもしれない。しかし、すべてのソーシャルプラットフォームが同メトリックに反対しているわけではない。
たとえば、Twitterは自身のNFLライブ放送のアベレージ・ミニッツ・オーディエンス数を公開している。このあいだの木曜日夜に行われたパトリオット対テキサンズの試合ではTwitter上で1分平均32万7000人のオーディエンスを獲得した。米民放テレビ局のCBSとNFLネットワークでの1分平均オーディエンスは1750万人だった。
――なんと、少ない。
確かに。しかし、広告主のなかにはTwitterとNFLがこの調査結果を公開することに感謝する者もいる。なぜならこれで2社を同質のものとして比較しやすくなるからだ。
動画制作会社のメディアストーム(Media Storm)は、すでにTwitterのライブストリーミングへの投資額を増やす方向でクライアントとの話をすすめている。広告を購入する側となる同企業のチーフデジタルオフィサー、チャ-リー・フィオルダリソ氏は、Twitterについて「リスクを背負うのに、心地いいと感じられる場所」と話している。
「もし、OTT(オーバーザトップ)の場で、いままでにない対話方法を打ち出せるパブリッシャーがいるとすれば、それはTwitterだ。彼らはいまよりもっと伸びていけると期待している。彼らには、実質ソーシャルテレビと呼べるような何かがある」。
――先ほどニールセンの測定方法には欠点があるとあったが?
その通り。ニールセンの測定方法は「日誌法(Diaries)」と「ピープルメーター」に基づいている。ニールセンは米国内の2万世帯にメーターを設置し、それが米国全体のテレビ人口(ニールセンによると1億1840万人以上)を代表するサンプル役を担っている。ニールセンが出すテレビ視聴率には、バーやホテルなど家以外の場所が含まれていない。また、録画視聴すれば視聴者は、広告を飛ばしてしまうこともできる。
「ニールセンの視聴率に対する姿勢は単純だ。『我々はこのやり方で長年やってきており、反対する者もいないから、横やりを入れないでほしい』ということだ」と、ウォーク氏は言っていた。